わたしのじぃちゃんについて

わたしのじぃちゃんは不老不死でした。

物心ついた時から、じぃちゃんは爺ちゃんで、
一緒に過ごした二十数年の間、じぃちゃんはずっと爺ちゃんでした。




わたしが5歳の頃、
じぃちゃんは蛇に噛まれて指がだるまみたいになったけど、全然平気そうでした。

わたしのじぃちゃんは不老不死なのかもしれないと思いました。


わたしが10歳の頃、
じぃちゃんは鎌で手をザクっと切ってたけど、小さな絆創膏1つ貼っただけで病院にも行きませんでした。

わたしのじぃちゃんは不老不死なんだと思いました。


わたしが15歳のとき、
じぃちゃんは車を運転中に脳梗塞を起こして事故にあいました。

1日だけ検査入院して、次の日には自宅でいつも通り、1杯だけ焼酎をちびちび飲みながら相撲を観ていました。

わたしのじぃちゃんはやっぱり不老不死なんだと思いました。




わたしは周りの友人にも、職場の上司にも、わたしのじぃちゃんは不老不死だと話していました。




2020年の夏

お盆休みで実家に帰ると、じぃちゃんは骨と皮だけのように見えました。

わたしのじぃちゃんは不老不死だよね。
と、自分に問いました。




2020年の秋

稲刈りの手伝いで実家に帰った時、じぃちゃんには会えませんでした。
ほとんどの時間を寝室で過ごしていたからです。

わたしのじぃちゃんは不老不死だ。
自分に言い聞かせました。




年が明けたある日

とても寒くて、静かな夜でした。



わたしのじぃちゃんは、音もなくこの世を去りました。



家族のみんなは、突然のことだったと言いましたが、わたしだけは、この日を覚悟していたようでした。


一年の半分以上が出張で家にいない父と
毎日寝た頃に帰ってくる朝しか会えない母
両親よりもたくさんの時間を一緒に過ごしたじぃちゃんの変化を、わたしは誰よりも敏感に気付いていました。


そして誰よりも強く、
じぃちゃんは不老不死だと信じたかったのもわたしでした。



じぃちゃんの体が灰になって、魂が煙になった時、空から白いものが降りてきました。

わたしはじぃちゃんが帰って来たのかと思いましたが、それは冷たい雪でした。


わたしは空を見上げて、お願いをしました。

じぃちゃんを返して。




あの日から2年が経とうとしていますが、
わたしの記憶の中のじぃちゃんは、相変わらず爺ちゃんで、

雪が降るとやっぱりじぃちゃんが帰って来るような気がするし、会えないのだって、寝室でずっと寝ているからだという気がしてしょうがないのです。



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