見出し画像

【無料公開】「子どもが教育を選ぶ時代へ」(集英社新書)の「はじめに」をnoteでも公開します

こんにちは! 明日発売予定の「子どもが教育を選ぶ時代へ」。
おかげさまで予約好調です。

*以下は紙版のリンク

今日は、「はじめに」「目次」を出版社の許可を得て公開します。

ここを読むと、何が書かれているか、自分の求める情報かどうかの検討がつくと思います。

はじめに


 社会が変わっているのに、学校教育は昔のまま─よく聞かれる意見になりました。子どもを学校に入れて初めて、20〜30年前の教育と変わらないことに驚く親もいます。
 不登校の小中学生は2020年度で約19万6000人と増え、「子どもが不登校になったらどうしよう」と、心配する保護者もたくさんいます。私もその一人でした。
 そんな私を救ってくれたのが、
「ハッピーじゃなければ、転校すればいい」
 というマレーシア人の友人の一言です。興奮気味に授業の面白さを語る中学生の話を聞き、「世界の教育が、実は相当に面白いのでは?」と思い始めたのです。
 我が家も、公立学校に馴染めなかった長男を連れて、マレーシアにやってきました。何より驚いたのは、その教育の多様性です。
 公立教育にも、民族別に言語の選択肢が存在しますし、「グローバル化に対応したい」と考える人たちのために、「インターナショナル・スクール(以下、インター)」が政府に認可され、中間層の現実的な選択肢になっています。
 さらに「ホームスクール」と呼ばれる無認可の教育機関が一般化していることも知りました。そればかりか、英語圏のオンライン教材が実に多彩なので、まったく学校や塾を利用せずに、自学してしまうホームスクーラーもいます。「学校はもういらない」と思う人たちも、少なくないのです。
 そして本当に転校が当たり前にできます。私の長男も、短期・長期を含め、合計9つの学校を経験しました。途中で、小規模なホームスクールでプログラミング学習を中心とした自学自習の日々を送った後、再び学校に戻っています。ここで「学び方を自分で選択する」経験をたくさん積んだことは大きな価値になりました。
 あらためて日本を見ると、ちょうどマレーシアの10〜15年前の状況に似ていると感じます。教育が少しずつ「多様化」しているのです。
 富裕層向けに「ボーディング・スクール」(全寮制の寄宿学校)が進出する一方で、格安の庶民向けインターも登場しています。
 また、文部科学省の旗振りで、公立学校の中にも「国際バカロレア(IB)」認定校が出てきて、少ないながらも選択肢が生まれています。公立の小学校でも英語やプログラミング教育が始まりました。
 さらには「ホームスクーリング」の概念も少しずつ浸透してきています。文科省も2016年、不登校を「『問題行動』と判断してはならない」と教育関係者に向けて通知し、学校以外の学びの場所を認める方向に方針転換しました。角川ドワンゴ学園の「N高」のような独自のカリキュラムを持つ学校も登場しつつあります。
 ただし、まだまだ過渡期なので、問題は起きるでしょう。その問題は、おそらく過去の東南アジア諸国で起きたことに似ているのではないか、と考えます。
 私はマレーシアで学校案内をしたり、「東洋経済オンライン」で「マレーシア子育て最前線」という連載をしたりして、現地の教育機関や保護者・子どもたちを取材してきました。そのため「日本の教育に不安があり、海外で学ばせたい」という保護者の方からの相談をたくさん受けます。
 日本の学校教育関係の方はもちろん、海外(オランダ、シンガポール、タイ、フィリピンなど)で子どもを育てている方、教育関連の仕事をしている方とも意見交換し、私自身も、現地の教育機関でスタッフとして働いていた時期があります。
 そのうち、おぼろげながら、世界中の教育がだいたいどこへ向かっているのかが見えてきました。とはいえ、「世界の教育について書く」のは非常に難しく、まだまだ知らない部分もたくさんあります。
 しかし一周回ってわかったことは、「万人に合う教育はない」こと、そして「教育は案外どこでもできるのだ」という事実です。
 この本では、そんな私が気がついた日本の教育と世界の教育の違い、海外で行われている「新しい教育」の現場の実際や、自学する生徒たちの学習方法などを共有しながら、「教育の選択肢」を紹介します。
 そして、最終的には、親ではなく、子どもが自分で教育を「選ぶ」時代になればいいなと考えています。今の教育が不安な方、学校に馴染めなくて困っている方へのヒントを提供できれば幸いです。

目次


はじめに   3
第1章 日本の教育は今のままで大丈夫なのか   17
「なぜ」と考えさせない日本の教育
教育に選択肢がある国
「知識を授ける」から「知識を疑う」へ
学校が教えるべき「四つのC」
アジアでも進む「情報を吟味する教育」
「21世紀型教育」を推進し始めた文科省
教育改革が暗礁に乗り上げた
教育現場が変わらない五つの理由
「PISAランキング」をどう判断するのか?
英語ができるだけで広がる学びの範囲

第2章 世界の教育にある大きな二つの流れ   47
1種類ではない「海外の教育」 
大きく「従来型」と「21世紀型」に分けられる
PISAランキング上位のシンガポールと中国の方針転換は何を意味するか
PISAランキングで上位に入る国と、起業の盛んな国とは反比例
自殺率とPISAランキング
「折衷型」で親を安心させるマレーシアの多くのインターナショナル・スクール
子にも先生にも向き・不向きがある
コラム 「学校設立の自由」を認めるオランダ
人気のないインターナショナル・スクール

第3章 「四つのC」を現場ではどう教えているのか   71
1 コミュニケーション
オランダの先生たちが大事にしているのは「言語化能力」「表現力」
「教えない先生が良い先生」になる
教師の「感情コントロール」が重要なわけ
2 コラボレーション(協働)
学費が高くなるほど、学問以外のことを教える
「個性」が増えると協働は必須になる
「無意識バイアス」理解の重要性
SNSに書いていいこと・書いてはいけないことを学ぶ
3 クリエイティビティ(創造性)
「発明」の実際を学ぶ16歳
1 発明品を作成する/2 デザインをする/3 素材を選ぶ/
4 製造工程を決める/5 資金はどうするか
4 クリティカルシンキング(批判的思考)
IBDPの生徒たちはどうやって信頼できる情報について学ぶのか
1 目的は何か/2 ソースが何か/3 メディアはどういう立ち位置か/
4 バイアスを生んでいないか
擬人化/曖昧な言葉/感情的な言葉/ユーフェミズム/センサーシップ
広告はどうやって大衆を煽動するのかを分析する練習
科学的リテラシーを高めるための高校のトレーニング

第4章 増え続ける独学者とSTEM教育   109
「学校教育自体がいらない」と言う人たちもいる
教育を変えたカーンアカデミーとMOOCs
進化する世界の教育コンテンツ
オンラインでは「教える先生」はYouTuberに近くなる
子どもたちに人気のあるYouTube教育者たち
Vsauce/TED–Ed/Kurzgesagt–In a Nutshell/Veritasium/
Minute physics/3Blue1Brown/Crash Course
YouTuberになった学者たち
Walter Lewin/DoS–Domain of Science/Vihart/  
Numberphile/Two Minute Papers
大学などの授業が無料で受けられるMOOCs
edX/Coursera/MIT OpenCourseWare
YouTubeを活用する学校の先生たち
マレーシアのオンラインを利用したSTEMスクールの例
「プログラミング教室」で子どもたちは何を学ぶのか?
「パーソナライズド・ラーニング」と「アダプティブ・ラーニング」
自分で学んでしまう子どもたち
オンライン教育に向く人・向かない人
独学者はどうやって進学するのか
ホームスクーラーに人気の「対策サイト」
Save My Exams/ZNotes
社会性は育つのか
いろいろなタイプの人間がいるのだと理解する

第5章 マレーシアと日本から見る国際教育の現場   145
教育には「選択肢」がある
1 国に準じた公立学校と私立学校
2 各方式のインターナショナル・スクール
3 オルタナティブ・スクールとホームスクール
世界最大の国際カリキュラム英国式ケンブリッジ国際
英国式のIGCSE試験とAレベルとはどんなものか
教科横断的な学びをする国際バカロレア(IB)
日本でも推進されているIBと現状
IBディプロマの取得者が少ない理由
ある学校のIBディプロマの1科目の宿題の量
国際バカロレアの先生たちの負担はどの程度か 
子どもの学校をどうやって選ぶのか
子どもの小学校を4回変えたお母さんに聞いてみた
2学年落として入れた学校が「結果的に合っていた」
選んだ学校が「たまたま合った」例
「入って3カ月で顔つきが変わった」
いろいろなことに挑戦し、チャンスが多かった
選択肢が多過ぎるマレーシアの子どもたちの苦悩

終 章 誰にでも合う完全な教育は存在しない   181
日本にも少しずつ選択肢が増えてきた
子どもが何者なのかは、やらせてみないとわからない
誰にとっても「完璧な教育方法」は存在しない
マレーシアに来て「自信を取り戻す子どもたち」には何が起きているのか?
学びは短距離走から長距離マラソンになった
大事なのは「変化に対応するためのスキル」
どうやって精神的柔軟性を鍛えるのか
「やめて次に行くこと」は苦しい
「失敗」も大事な経験だと思う
生徒が「教育の責任を取ること」がすなわち教育である
「答えがないこと」に親が慣れるということ
親の仕事は子どもを邪魔しないこと
子どもの個性をどう「発見」するのか
どこまで子どもの「没頭」を許すかが難しい
人には学び方のクセがある
視覚優位・言語優位・聴覚優位
「幼児の頃に英語をやらせないと間に合いませんか」
ホームスクーラーが当たり前になる日が来るのか
保護者や子どもたちが主体的に、教育を変えていく

おわりに   228

ーー以下は定期購読者向けのおまけです。


ここから先は

341字
この記事のみ ¥ 300

これまで数百件を超えるサポート、ありがとうございました。今は500円のマガジンの定期購読者が750人を超えました。お気持ちだけで嬉しいです。文章を読んで元気になっていただければ。