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イベントレポート「2時間でわかる!休校期間にできるオンライン授業の設計〜三田国際学園の実践を体験〜」

教育開発研究所、はじめてのnote投稿です!小社は教育専門の出版社で、月刊誌『教職研修』『管理職合格セミナー』などを出版しております。せっかくなので、“はにわ情報局”と名付けました。社標にはにわが入っているため、“はにわ情報局”としました。SNSでは伝えきれない、ボリュームの多い情報をこちらで発信していこうと思います!

さて、先日Twitterで先生方を対象に「緊急事態宣言後の働き方」についてアンケートをとりました。そこでオンライン授業に関しての悩みがあったため、その悩みの解決にならないかと思い、オンライン授業の設計に関するイベントに参加し、そのレポートを発信することにいたしました。

主催の方々に許可をいただき、イベントレポートを発信しております。この場をお借りして、お礼申し上げます。

今回のイベントは、オンラインでの授業やクラス運営にいち早く対応し実践していらっしゃる、三田国際学園中学・高等学校の大野智久先生の「スクールタクト」というツールを活用した実践事例をもとにオンライン授業を考えていく、というものでした。

1.主催者挨拶:株式会社コードタクト

最初に、今回イベントを主催されている株式会社コードタクトの後藤さんと、一般社団法人Teacher's labの松村さんより挨拶がありました。

まずは、スクールタクトの説明について。

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スクールタクトの特徴は、リアルタイムで生徒・受講生・講師とのやりとりができること、そしてお互いにコメントやログを見ることができること、だそうです。

また、生徒の関係性マップでは、お互いにコメントやいいねをしたときの人間関係のマップを作成する機能もあり、半年ほどデータを蓄積することで、不登校傾向の早期発見などの分析もできるそうです。

今回の休校要請を受け、音声通話、動画チャットなど、スクールタクト自体に動画を組み込む機能をつけることで、スクールタクトのみで授業を実施できるように急ピッチで開発を進めていられるとのことでした。一つのツールで、授業にかかわるすべてのことができたら、とても楽になりますね。

2.主催者挨拶:一般社団法人Teacher's Lab

Teacher's Labは、「先生とともに学校教育現場の発展に貢献する」を使命に、3年前に設立された団体です。

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大きく3つの事業をされています。
・学校の先生とともに創る先生の学校
・Teacher's Project:先生がリアルな学校現場の課題を解決するための、生成的なアウトプットの場。「オンラインサロン 未来の先生塾」など。
・未来の先生展:日本最大級の「先生」のためのイベント

未来の先生展は私も行ったことがありますが、3000人規模の大イベントで、一気に自分の中の教育がアップデートされる、とてもオススメなイベントです。また、Teacher's labは先生と共に学校現場の発展に貢献したい方を募集されているそうです。

3.スクールタクト体験

今回のイベントでは実際にスクールタクトにログインし、体験をしながら進んでいきました。まずは、お試しとして落書きをしていくワーク。マウスを使っての落書きも可能ですし、私が下に〝GW〟と文字を打ち込んでいるように、テキストの入力もできます。スマホで体験されている方もいました。右側にある、紫色の虫めがねボタンを押すと、他の参加者の回答を閲覧することができました。

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4.生徒としてのスクールタクトの使い方

次に、三田国際学園の大野先生にバトンタッチされ、受講生としての使い方、授業者としての使い方の説明がありました。

まずは、受講生としての使い方です。実際に授業で使うときも、事前に教員から課題を配信しておき、生徒は配信された課題を解いてから授業を受けるという流れで行なっているそうです。

課題にアクセスすると、このような一覧が表示され、生徒がどれくらい課題に取り組んでいるのかが一目でわかります。教員は、右上に出ているように、共同閲覧モード(お互いの課題をみることができる)、共同編集モード(お互いの課題に書き込むことができる)と設定ができます。

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今回のイベントでは、「現在オンライン授業で挑戦していること」「オンライン授業で不安に感じていること、疑問に感じていること」が課題として出されていました。1人の先生が発表をしてくださったのですが、下記画像の右側にあるように、リアルタイムで発表を聞きながら、コメントやいいねを送ることができます。通常授業で発表をしたとき、なかなか質疑応答やフィードバックの時間を長くとることは難しく、いつも発言する生徒が同じ、などということも起こりますが、このコメント機能を使うと、随時、同時多発的に一斉にコメントし合えるところがいいと思い、授業でも使っているそうです。

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この後は、zoomのブレイクアウトルーム機能を使い、課題に書いたことを4人グループで共有しました。私この機能を初めて知ったのですが、とても驚きました…オンラインのイベントでも参加者の方とお話をする時間があるって、やっぱりいいですよね。

5.授業者としてのスクールタクトの使い方

ブレイクアウトルームの次は、実際に授業者として授業を行なっていく使い方の説明がありました。

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右上の青い「授業作成ボタン」を押すと、学年・クラス・科目が選択できます。授業を作成すると、赤枠で囲んである部分に授業コードというものが表示され、生徒は受講コードを入力し、授業に参加します。

授業作成画面では、すでにテンンプレートがある単元もありました。例えば、小学校の単元だと「チョウをそだてよう」や春探しの「あたたかくなって」などなど。元からテンプレートがあると、授業を作成する際に使えてとても便利ですね。

また、授業で使う資料を置いておく場所もあり、資料の共有も簡単にできます。

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大野先生の説明の後は、実際に授業を作成する体験をしました。作成した授業も、一覧で見ることができるので、先生同士でお互い授業を見合い、アドバイスをし合うことも可能です。

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こんなテンプレートもありました。カラフルで、視覚に訴えられそうです。大野先生が「人体の中で量が多い元素ベスト5を丸で囲んでみよう、という活動もできますね」とおっしゃっていました。なるほど…!

6.オンライン授業をしていくうえで大切なこと

まず、大野先生が校内でも共有されているオンライン授業の考え方に関しての説明がありました。通常、三田国際学園では一コマ45分×7時間授業を昨年までされていたそうなのですが、オンライン授業を設計するにあたり、40分×6コマと、通常より短くしたそうです。また、ひとりの生徒は1日に3コマしか受講しないため、授業数は本来の半分となっているとのことでした。

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そんな中で、授業外の時間をどう支援していくのかを考えることが必要になってくると、大野先生はおっしゃっていました。
また、これからの授業について、大野先生はこうおっしゃっています。

「今回の学習指導要領改訂では教師が教えるから、生徒が学ぶと言うように、主語が転換していくと改訂で繰り返し言われていますよね。従来型でいうと、教師はわかりやすく丁寧に教え、生徒は与えられたものを習っていた。そういったものから、これからは、生徒は主体的・対話的に学び、教師は生徒の可能性をうまく引き出せるように、そういう授業を展開していくことが求められていると考えています。」

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学校という場の最大の価値、今、いろんなものがオンラインに置き換わっている中、学校に行く意味はどこにあるのか、大野先生は2つのことを示していました。

・いろんな生徒が集まっているという、集団の多様性
・多様な生徒たちは、時間と空間を共有していること

大野先生「多様な人が集まって、時間と空間を共有しなくてもできることは、たぶん授業でやらなくてもいいこと。それに対して、多様な人が集まって、時間と空間を共有しないとできないことはあって、これをオンライン授業の設計の中で積極的に入れることが大事になると思います。」

このことを踏まえ、オンライン授業をデザインするうえで、下記のことを学校で共有されているそうです。

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スクールタクトはあくまでもツールであり、先生方に考え方を共有することが何よりも大事だとおっしゃっていました。

7.大野智久先生の実践:生物

大野先生ご自身の授業である、高校2年生の生物で教科書に沿った内容の学習を例として紹介してくださいました。オンライン授業では40分×3回でしたが、本来は8時間分の授業だったそうです。授業時間が短くなった単元を、オンライン授業ではどう実現していったのでしょうか。

今回のオンライン授業の目標
・細胞、タンパク質に関する基本的な概念を身につける
・教科書を中心に自学し、授業時間に必要なコミュニケーションをとりながら自己の課題を解決することができる。

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青で囲っている部分は授業時間外の部分、黄色は授業でやることだそうです。授業前には、スクールタクトで事前に提出されている課題に、各自で取り組んでもらいます。

授業で扱った内容(40分×3コマ)
 授業①  生体を構成する物質
 授業②  タンパク質の構造と性質、酵素とその働き
 授業③ 生体膜のはたらきと構造、細胞の構造と機能

オンライン授業になってからは、事前に見ておくと理解が深まるような参考動画なども課題と一緒に共有するそうです。オンライン上にもある動画や資料などを気軽に活用できるのは、オンライン授業ならではの強みかもしれません。

大野先生「ぼくはしゃべるのが好きで、無限にしゃべってしまいます。授業でそうならないように、参考資料という形で、伝えたいことを全部文字で起こしたものを用意しています。課題に取り組むときに、資料を見れば回答が作れるようになっているので、安心感を与えつつ、自分で学んでもらえるようにプリントのデザインをしています。」

生徒にとったオンライン授業に関するアンケートでは「ある程度ついていけた」「分からなかったところは、あとで動画を見たらわかった」など、自分なりの勉強法を模索していく様子が見られているそうで、自律的学習者の育成につながっているではないかと、おっしゃっていました。

8.探究課題の実践

40分×2コマで、高校1年生を対象に「科学技術の発展に関する探究課題」もされたそうで、その実践についてもご紹介くださいました。オンライン授業で探究課題⁉︎と思ってしまうところを、大野先生はどう実践されたのでしょうか。

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大野先生「探究というのは、がぐるぐる回っていることです。は、なるほど、すごいなと自分の心が動いた場面。があると、次になんでだろうという風に、(問い)が出てくるんですね。自分なりのから次の(問い)をつくり、自分なりにに導いていけるように、そのプロセスを経験してほしいなと思っています。」

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生徒には上の目的をガイダンスで説明した上で、各自で問いを作ってきてもらい、1時間目の授業では作った問いの共有、教員からのコメントなどグループワークなどをされるそうです。そして、課題として各自でプレゼンテーションを作成します。事前にプレゼンテーションを提出してもらい、2時間目の授業では代表者数名のプレゼンテーションを行い、授業後にはスクールタクトを用い相互評価を行なっていくそうです。

しかし、課題を投げただけでは取り組むのに難しい生徒もいるため、自分にできないこととできることを区別した上で、教員のサポートが大事だとおっしゃっていました。

問いを作るサポートとして、下記のことも生徒に示されていました。

●5W1H
 Why:なぜ?何のために?
 What:何が?何を?
 When:いつ?いつから?いつまで?
 Where:どこで?
 Who:誰が?誰に?誰を?
 How:どのように?どんなしくみで?
●比較:時代、年代、季節、場所、環境、年齢、性別、職業など
●前提、枠組み、主張と根拠(本当にそうか?)
●関連付け(ある知識と、別な知識な個人的な体験・経験を結びつける)

また、探究課題に取り組む上での考え方として、強制的に行うのではなく、楽しく、自分なりの意味を見出して取り組んでほしいと、生徒に伝えているそうです。

大野先生「通常ではありえないこの期間に、みんなで楽しみながら成長できたら、最高じゃないですか?」

生徒さんの実際のスライドを見せてくださったのですが、問いがどれもおもしろく、またその問いに対して調べたスライドもどれも完成度が高く、驚きました。また、最低10個のスライドに対してコメントをするという課題を出されており、スクールタクトにはコメントをした回数を生徒ごとに表示する機能もあるそうです。自分で集計する手間がなくなるのは、大きいですね。

9.他の先生方の実践の紹介

最後に、他の先生方の実践を紹介してくださいました。生徒の回答が書かれていたため、写真は掲載できないのですが、テキストで紹介します。

①数学
大野先生の生物の授業と同様、問題が事前に配信されており、生徒は課題に取り組んでから授業を受けます。ノートに書いたものを写真で貼り付けている生徒もおり、わからなかった部分をテキストで打ち込んでおくことで、先生が疑問に答えるという使い方もされていました。生徒がつまずいている部分がわかるのは、先生としても、とてもありがたいですね。

②生物
課題の回答をノートに書いてもらい、生徒は写真を載せていくという形をとられていました。それに対して先生はスクールタクト上でコメントをし、双方向のやりとりを行ないます。授業のときも、課題を解くときにも画面をみているため、身体的に不具合が出ている生徒もいるそうで、画面を見なくても取り組める課題設定というのも意識されているそうです。

③国語
「自宅にいる友達に読んでもらいたい私のおすすめ小説」を、keynoteのスライド1枚にまとめて、クラスルームに提出する、という課題を出されていました。生徒のスライドはどれも目をひくものばかりで、楽しんで課題に取り組んでいる様子が感じられました。他の生徒のスライドに、いいねやコメントをつけていく交流活動もされるそうです。

④美術
美術では作品鑑賞を通して、スクールタクトで気づきを記録し、提出するという課題が出されていました。生徒は、作品をよく見て、何が見えるのか?どんな状況だと思うのか?タイトルをつけるとすると?などを言語化していきます。このように、三田国際学園では5教科の他に実技教科のオンライン授業もされていました。

⑤HR
「やろうかな」「やったこと」と書かれているスライドを置いておき、そこに生徒が日々のことを書き込んでいく、というものが実践されていました。そのスライドに対して他の生徒がコメントしていく活動があり、コメントがついているだけでも、嬉しいですし、モチベーションも上がりそうです!
また、小さな探究課題として、①今日起きたこと、②①に対する疑問、③自分の考えというものを出すことで、日々の中にある気づきに敏感になり思考の練習を行う、という実践もされていました。

最後に

内容が盛りだくさんで、あっという間の2時間でした。
大野先生は、オンライン授業を通して学校にくるのが難しかった生徒が顔を出すようになったり、普段は発言の少ない生徒でもオンライン授業では発言をしていたりと、伝え方、やり方の工夫次第で可能性は開けるとおっしゃっていました。

このようなオンライン授業ならではの良さもあるなか、緊急事態宣言が解除されたら今まで通りの授業に戻ってしまうのではないかと、私は感じています。なかには、慣れないオンライン授業を模索し、実施されている先生方もいらっしゃるのではないでしょうか。そのときかけた時間を無駄にせず、得たことを生かしていくために、日常に戻ってからも対面授業とオンライン授業、どちらの良さも生かし、授業を設計していくことが大事なのではないかと考えております。教育開発研究所でも、出版物や各種イベントを通して先生方をサポートしていく方法を、模索していきたいと思っております。


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