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RE:cycle of the PENGUINDRUM後編 雑感

見てきました、ピングドラム後編。体としては、勿論新規映像もあるけど9割はTV版の再編集と、強いて言うなら再演のそれである。然しながら、この作品は何回見ても情緒を不安定にさせ、いつの間にか涙を流させているのである。リアルタイムでも見てなんて物語だと泣いてしまって、1年前にニコニコで一挙やってるから見直すとボロボロ泣いてしまったし、映画見る前にもTV版見直してやはり泣いてしまった。そして後編を見た今日も、何回も見たシーンなのに泣いてしまった。特に映画館という環境は逃げ場がないし、一時停止もできないから、後半の怒涛のシリアス展開が続くのでとてもカロリーを使う作品であります。142分もある上映で、上映中トイレ大丈夫かなあと不安もありましたが、見終わった後はもう終わってしまったという気持ちになってしまいました。

ピングドラムという作品、色んな見方ができるし、登場人物の背景もタブー視されていた(いる)リアルの事件からも汲み上げているから、人にとってはセンシティブな部分もあるのもあり、評価が2分しやすいというか、多くの人に受け入れてもらえる作品でもないと思います。毒親設定や、家庭環境が円満とは言えない人物ばかりなので、見ててトラウマ思い出される部分もあります。結末もみんな救われてハッピー!っていう訳では無い(解釈にもよりますが)作品だと思います。でも、イクニ監督もパンフで言っていますが、見た人の中には記憶に残り続ける作品になったり、心の拠り所の一つになっている作品だと思います。その結果がクラファンで当初1000万目標でスタートしたのに、最終的には1億以上集めて前後編になった事が結果としてあるわけで。自分も微力ながら支援させてもらいました。それもこれも、ファンもスタッフも含め幾原邦彦監督の作品が好きだからってことに収束してくるのかなと思います。何回かピンドラ公式でツイッターのスペーストークをやっており、その中でスタッフの方が言ってますが監督と一緒の連帯感を持ちながら歩みたいって人達が多いのかなと思います。監督自身はそうかな?とか言ってて笑ってしまいましたがw

ストーリーとしての出来栄えは勿論ですが、やはり映画館でみるのででかい映像と、でかい音響で作品を楽しめるのはとても嬉しいですね。橋本女史のBGM、トリプルHHHの歌、そしてやくしまるえつこ氏の主題歌を浴びる事はできるのはとても至福の時間でしたね。個人的にTV版で好きな劇伴のアレンジで出してくれた見つけてあげてが聞けたのが良かったです。TV版で流れるシーンが、ピングドラムという作品のいちばん重要なテーマを書いてるシーンだと思うので聞けて良かったです。

「きっと何者にもなれないお前たちに告げる」という、パッと見断罪にも聞こえる言葉がキャッチーで、独り歩きしていきがちな言葉なんだけど、本編見ていけばなれないことなんてないし、きっと何者になれるって事を再度伝える事が映画化するにあたっての主題の一つなんだろうなってのが、映画見終わった後に感じた感想の一つでした。それこそ見つけてあげてのシーンは、陽毬にとって高倉兄弟は何者になっているシーンでもあるし。世間が高倉家にとってどういう感情を持っていようが、この兄妹でそれぞれの関係性を持っている以上、何者であることは間違いないのだから。

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しかし世界には見つけてもらえないまま大人になり、自分という、もしくは社会という箱を破壊して自分の存在証明を確立しようとする者もいます。劇中だと渡瀬眞悧(わたせさねとし)、サネトシ先生ですね。彼のような世界に絶望しているもの、世界を変えようと暗躍する、それでいて言葉は甘美のように聞こえる、掴みどころのないキャラクター、とても魅力的です。(現実にいたら騙されそうなのであまり会いたくないですがw)世界を変える、革命しようとするピング髪のキャラクターというと、イクニ監督の代表作にも似たキャラクターがいましたね。状況や環境が変われば敵か味方も変わる、監督なりの二律背反というかアンチテーゼな意味合いなのかなと思います。TV版では生前?での幼女桃果との戦いで共倒れになり、幽霊(もしくは呪いのメタファー)として高倉家を惑わし、唆して世界を破壊しようと暗躍します。今回の映画ではTV版の再演を兄弟に見せることで、自己犠牲をしても意味はないのではないか?と見せているのかなと思いました。けれども、兄弟達はむしろ「僕たちは陽毬のお兄ちゃんだ!」と改めて自分の存在証明を認識し、転生?して運命を乗り換えた世界にも降り立っていきました。じゃあサネトシ先生はまた負けたのか、というと負けたのかもしれませんが、劇場版の最後の桃果とのやり取りを見る限り、悪役として何回でも邪魔してやるぜ、それが僕の存在証明なんだからさと、そんなある意味充実しているような気持ちが伝わってきました。「だよね?」
案外桃果との今の関係性が、彼にとって幸せなのかもしれませんね。


劇場版という形で、この2022年にもう一度ピングドラムの世界を体験することができて本当に良かったです。イクニ監督もインタビューで言っていましたが、昨今の流行り病もあって、人とのつながりがより一層重要視される世界になって来たと思います。世界は未だに争いは絶えませんし、過去からの境遇からの不幸が、積もり積もっていき、ある日国中を混沌とした気持ちにさせる事件も起きかねません。自分に世界を変える力なんてあるとは思えないですが、今ここに自分がいて文章がかけているのも、色んな人からの「ピングドラム」を分けてもらえた結果だと思います。そして今度は、自分がピングドラムを親しい人、隣人の方、繋がりを持ってくれた方々に分け与えていくのが大事なんだなと思います。別に大層なことじゃなくていい、繋がりを持った(持てた)人にありがとう、愛している、好きだと伝えるだけでいいと思います。その一言で明日への活力になると思いますし、自分もそうやって救われた事も幾つもありましたから。

ピングドラム、自分にとってとても大切な作品だと再認識できました。


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