いのちの水が湧く―。安井酒造場の“井戸替え”を訪ねて
秋分の日の朝。今日は大安の日。
早朝の電車に揺られて、滋賀県甲賀市にある安井酒造場さんへ。
“笑顔こぼれるうまい酒”「初桜」を醸す蔵です。
この日は、酒造りの前の恒例行事「井戸替え」をされるとのこと。
そんな貴重な日に、初めて訪れることが叶いました。
貴生川駅からバスで20分ほど、最寄りの場所に到着。東海道のゆるやかな道沿いに見えた、レンガ造りの煙突。
宿場町だったという、のどかな街並み。
酒蔵に着くと、さっそく蔵元の奥様がお出迎えくださいました。
このあたりは、土山の茶所として有名で、蔵の裏手にも茶畑が広がっています。
茶畑と酒蔵、安井さんおススメ、蔵のベストショット。
昔ながらの和釜や木桶のある作業場。
そして、蔵の中心部に鎮座している井戸。
この井戸底の石を全て取り出して、磨き洗い、また納め直すという作業をするとのこと。 ポンプの着いたホースで水をほぼ全部抜いてから、作業はスタートします。
そもそも、毎年、井戸替えを行っている酒蔵はたいへん珍しく、ここは浅井戸だったこともあり、創業時から変わらず手作業で続けて来られました。
これまでは、もっと寒い時期に家族だけで行ってきたそうですが、近年は地元を中心に募集した愛飲家たちがお手伝いに来ています。 今年は10人程が集まりました。
もうすぐ始まる酒造りに供えて“井戸替え”をすると、いよいよという気持ちになるのだとか。
おそらく、生まれて初めて見た井戸底に興奮。
深さ約4メートルは、やっぱり浅く感じました。肉眼でも小石が見えます。
鈴鹿山系の豊かな伏流水がこんこんと湧いています。この清らかな水が、そのままお酒の仕込み水となり、蔵にとっては命の水。
まずは、蔵元さんはじめ参加者全員を塩でお祓いして、安全祈願。
いよいよ作業が始まります。
井戸内に梯子をいれていきます。
梯子が入ると、蔵元の安井さんが、底へ降りていきました。
最初は、井戸の壁面を、水を掛けながら手で丹念に磨いていきます。
そのあと、滑車を使ってバケツが下ろされ、井戸底の石をバケツ一杯ずつ引き上げる作業。
引き上げた石を次々と運び出して、洗い場へ。
運ぶ力仕事は男性陣が、石の洗い仕事は主に女性陣で分担作業。
さあ、私もやっと出番です。石の洗いをお手伝い。
たわしでひたすらごしごし。
川砂のような細かい砂が付着しているのを落としていきます。
石にぬめりもにおいもなく、やっぱり常々水が湧き続けているからか、泥水も綺麗な印象。
作業はスムーズに続く。最初は小石ばかりだったのが、だんだんと頭ほどの大きな石になっていきます。
洗い終わった石は、大きさで仕分けをします。
これは、参加者のアイデアで、底にいくほど、だんだんと石のサイズを大きいものにして、また来年の井戸替えの際にも、作業段階がわかるように工夫したのだとか。
その間に一度、蔵元の安井さんも地上へ戻りましたが、また石を戻す作業に移るため、再び井戸底へ。
滑車のバケツで、洗った石を下ろします。
大きい石から順番に、井戸底に収められて行きます。
徐々に井戸底には、綺麗になった石が敷き詰められて行きました。
そして、最後の石を入れたバケツが下り、全ての石が戻されました。
安井さんも無事に生還。
そして、なんとこの後、私も井戸底へと入らせて頂きました。
今日一番のどきどき、初めての井戸潜入。
見上げると、興味津々にのぞく皆さんの笑顔が。
そして井戸内に視線を戻すと、息をのみました。
壁面からこんこんと湧き流れる水。
まるで胎内。
地上の音が遠のいた静かな空間。
水を吸い上げるポンプの音が、まるで心音みたいに響いていました。
井戸の神様に会えたような気がして、地上へ戻りました。
清々しい生還。
その後、井戸にお供えをして、手を合わせました。
井戸替えの行事が、無事に終わりました。
今年も、美味しいお酒が出来ますように――。
ポンプを抜くと、すぐに水が壁面から染み出るように湧き、すぐに溜って来ました。
水は溢れることも、絶えることなく、一定の量で湧いてくれているとのこと。
穏やかな秋空の下、笑顔が溢れた一日となりました。
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