見出し画像

金沢城のヒキガエル 奧野良之助著/平凡社ライブラリー

 2020年、未知のウイルスが世界中の人々を不安に陥れました。まだウイルスの全容が知れない中、学校や幼稚園は休校になり、街角からは人の姿が消え、私たちの「ステイホーム」が始まりました。そんなころ、見直されたのが読書でした。読んだことのないジャンルに挑戦、家族と一緒に読書など、普段と違う時間が作れるかも。そのお手伝いとして、京都新聞社の記者がそれぞれ思いを込めた一冊を紙面で紹介しました。あの頃の空気感も含め、note読者の皆さんにも紹介します。

定説「競争社会」に疑問

 私が小学生の頃、近所の池でヒキガエルの一群に出会いました。冬眠から目覚め、雄が雌を奪い合う。季語にもある「蛙(かわず)合戦」。

 すると1匹、白いカブに抱きついている「おっちょこちょい」が。幼心に男の悲哀を感じました。「来年こそは頑張れよ」。赤い糸を彼の腕に巻き付けて逃がしました。翌春。再び訪れると、赤いしるしを付けた彼が見事、雌を抱きかかえているではありませんか。

#人間世界を見つめ直す


 著者も、出会いに恵まれます。金沢城跡の池に住む1526匹に標識を付け、10年近く追跡調査する中で、足を1本失った雄が長生きを遂げ、老年を前に初めて彼女を得た瞬間を目撃するのです。のんびりと、おおらかな世界がそこにある。動物社会は厳しい生存競争にさらされているというダーウィン以来の定説に疑問が投げかけられます。

 「おっちょこちょい」は、こちらの側なのです。


樺山聡