見出し画像

チーズバーガーズ ボブ・グリーン著・井上一馬訳/文春文庫

 2020年、未知のウイルスが世界中の人々 を不安に陥れました。まだウイルスの全容が知れない中、学校や幼稚園は休校になり、街角からは人の姿が消え、私たちの「ステイホーム」が始まりました。そんなころ、見直されたのが読書でした。読んだことのないジャンルに挑戦、家族と一緒に読書など、普段と違う時間が作れるかも。そのお手伝いとして、京都新聞社の記者がそれぞれ思いを込めた一冊を紙面で紹介しました。あの頃の空気感も含め、note読者の皆さんにも紹介します。

 米紙シカゴ・トリビューンで健筆を振るったコラムニストの傑作選。主に1980年代の日常に潜むちょっとした「深イイ話」が詰まっている。

日常に潜む「深イイ話」

 「世界一有名な男」は、伝説のボクサー、ムハマド・アリの言動を丁寧につづり、引退後の空虚な心をありのままに写し出す。目的なく飛行機に乗り続ける女性を描いた「飛行機のなかの他人」、ローストビーフの切り分け方で父権を考察する「父」など全編に共通しているのは市井からのまなざし。冷静で飾らない文体に教訓めいた主張はない。それでいて人の温かさや悲哀、怒りが読後感にじわっと漂う。

#米国のスナップ写真

 本書を手にしたのは記者駆け出しの18年前。気軽に読める、と当初は常に鞄にしのばせていたが、いつしか本棚の片隅へ。懐かしい一冊との再会は皮肉にも外出自粛がきっかけとなった。不意に訪れたコロナ禍-。著者ならどんなコラムに仕立てただろうか。


山本 旭洋