今日も気づけば漁港釣り 8振り目
アジやイカ、キス、カサゴ、メバルー。魚種が豊富な丹後半島の日本海は、堤防からの釣りでもさまざまな獲物が狙えて面白い。一方、お目当ての魚が釣れず、やきもきすることも多々あります。2021年秋に宮津市へ赴任した直後に海釣りを始め、現在はルアーでアジを狙う「アジング」を極めるべく足しげく漁港に通う記者が、釣果や景色、釣った魚で作る料理を紹介します。さて、今日は何が釣れるのやら…。
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●いつもと少し雰囲気が違うようです
朋有り遠方より来たる
自然と、孔子の論語の一節が頭に浮かんだ4月下旬。学生時代から今も付き合いの続く友人から、久々にLINE(ライン)でメッセージが送られてきた。
「GWはどんな予定ですか?」
「(5月)5日あたり、釣りとかどうでしょう?」
現在、大阪府枚方市在住の友人が、はるばる京都・宮津まで遊びに来てくれるというのだ。
また楽しからずや
また、論語の一節が。ありがたい。振り返ってみるに、転勤して以来の1年半、両親と会社の同僚が来たくらいで、友人が来るのは初めてだ。1泊2日の計画となり、これは、十二分に丹後地域を楽しみ、味わっていただかなければ。
当連載において、釣り場が同じ場所▽食や景観といった現地の魅力が伝わらない▽内面世界の独白しかなく、広がりがない-といった反省点が前回までに浮上した。しかし無理もない。一人釣果を求めていたらそうならざるを得ない。
だが、2人で巡れば話は変わる。車中トーク、ランチ、名所巡り、からの夕まづめ(日の入り前後の、魚の活性が高まり釣りやすくなる時間帯)に釣りというコースが成立する。まさに、釣りをしながら日本海に面する町の魅力を発信できる。
これは、期待感が高まる。この日以降、「わくわく丹後釣り巡り」に向けたプランを四六時中、脳内で練り上げていった。
●まずはアジングの説明を
5月5日午前8時半、友人が宮津に到着した。自家用車での長距離移動ということもあり、ひとまずは我が家で休息をとりつつ、釣りの説明をした。アジングという、ちょんちょんとした繊細な当たりに素早く反応し、釣り上げる魚とのタイマン勝負の醍醐味を、ぼちぼち熱く語った。
一方、当の友人は釣りそのものが久々なもので「アジング」などという単語も聞いたことがなかった。
重り付きの針を使うのだけど、その重さはどれくらいと思うかい。
「100グラムですか?」
いや、1グラムを基準に、そこから少しずつ重たく、もしくは軽くする。
「えー、そんなに軽いんですかぁ」
そう、ゆえにアジングの最大の敵は風。少しの風で糸がたわんで当たりが伝わらなくなる。自然を相手にしているから、こればかりはどうにもならない。
「難しそうですねぇ」
などという会話を交わしている間に出発の時間となった。今回は、京丹後を中心にレジャー、グルメを堪能した後、アジングに挑むというプランを立てた。
●しばらく丹後の魅力紹介が続きます
まず、訪れたのは京丹後市峰山町杉谷のサウナ「ぬかとゆげ」だ。整形外科医がプロデュースした、5種類のサウナと酵素風呂が併設された、唯一無二の施設だ。まずはサウナで整い、感覚を研ぎ澄ませるという算段だ。
大型スクリーンで映像を眺めながらロウリュウ(サウナストーンに水をかけて発生した蒸気を楽しむ方法)もできるタイプのサウナで、しっかりと汗を流した。水風呂につかり、心臓から全身に血流が送られていく感覚をかみしめつつ、ライブ感を楽しみながら、あっという間の1時間半を過ごした。
友人は顔の部分に穴の空いた、うつぶせになれるベンチで休憩していた。「いやぁ、いいですねぇ」と満足げで、ヒノキの香りのロウリュウも体験した。
この時点でかなりの満足度だが、腹が減っては戦ができぬ。続いて同市弥栄町鳥取にある西日本最大級ともいわれる道の駅「丹後王国 食のみやこ」へ。本紙・丹後中丹版の連載「丹丹味な店」で紹介された卵かけご飯が看板メニューの「KUIYA918」へ向かった。
ここでは京都府伊根町や兵庫県の但馬地域の鶏卵5種類をそろえ、食べ放題セットで味比べができるのが魅力だ。ご飯はセルフでよそうスタイルだが、茶碗がくせ者だ。とても大きい。ここは大きさに惑わされず、ご飯少なめに抑え、全卵制覇といこう。友人も同様の作戦で、順調に卵の数を伸ばしていった。
サバのへしこや海藻「アカモク」付きの定食を注文したのだが、これが卵かけご飯の良いアクセントになった。ただ、ご飯を抑えめにしたつもりだったが、4杯目で満腹になった。とはいえ、この日は鶏卵が4種だったため結果的に全制覇した。
食後にアイスを食べる予定だったが、ちょっとおなかを落ち着かせようと施設内を散策した。どうやら犬の日だった模様で、愛犬を連れた家族連れが多かった。やたらでかい犬、ちまちまとした犬、多彩なわんちゃんがドッグランや飼い主との散歩を楽しんでいた。
アイスを食べた後、次は丹後の大地と日本海が生みし、山陰海岸ジオパークの圧倒的な絶景を堪能してもらおうと、同市丹後町竹野の大成古墳群に向かった。
ででーん!大きな石の造形物のかなたには青く澄んだ日本海とそそり立つ柱状節理の一枚岩「立岩」がたたずむ。
遊歩道が設けられ、立岩へと続く砂浜まで降りられるので、散策した。すると、友人が「遊歩道があるのに観光に結びついていないようですね。せっかくなのに、うまく周遊できる仕組みが作れないものですかね」とぽつり。京丹後市役所職員に言ってやってほしいところだ。
強いながらも心地よい浜風を浴びつつ、そろそろ釣りに向かおうか、と遊歩道へと戻ったのだが、思ったより階段が急で長い。この階段がきついから観光にもあまりこないのでは。友人に話を振ると、呼吸を整えつつ、苦笑いをしていた。
●ようやく釣りを始めるようです
いざ、本日の釣り場、中浜漁港(同市丹後町中浜)へと向かった。が、道中、胸騒ぎが止まらなかった。「風が強い」。しかも、普段あまり行かない漁港で釣果が未知数。チャレンジングに攻めたつもりが「たくさん釣るぞ」との意気込みもみるみるしぼんでいった。
友人を手ぶらで帰らせるわけにはいかない。思い切って宮津のいつもの釣り場にするか。最近はよく釣れている。京丹後は十分楽しんだ。友人にも相談し「そうしますか」と了承。一応、中浜漁港に降り立ったが、やはり強い風、先客も釣果が芳しくなさそう。そそくさときびすを返した。
だが、状況は全く変わらなかった。宮津も強い風。最近では入れ食いとなる時間帯も当たりは乏しく、それぞれ1匹のアジを釣り上げるにとどまった。あまりのできに、写真すら撮っていなかった。
それでも友人は「いやぁ、自然が相手ですから」「1匹釣れたんで楽しかったですよ」と見かけ上、喜んでくれた。アジ2匹はささやかながら刺身にして「身がやわらかい!」とかいって味わった。
翌日は伊根町蒲入の漁港飯で海鮮丼を堪能し、友人は帰路へと着いた。
●後日談とみせかけてここからが本題のようです
改めて、釣りというのは自然が相手で、うまくいく時、いかない時があり、仕方がない。そう、言い聞かせても、あの言葉が頭に去来する。
弱気は最大の敵
広島東洋カープで炎のストッパーとして活躍した故・津田恒実さんの格言だ。
釣れなかったのは場所のせいでも風のせいでもなく、気持ちに揺らぎがあった、自分の心の弱さのせいだ。
10日後、再び中浜漁港に向かい、リベンジを誓った。
今回は、標準的な1グラムでどんどん攻めるぞ、と、1投目から出鼻をくじかれた。ワームがかみちぎられている。フグの仕業だろう。何度投げてもかみちぎられるもので、早々に諦めた。弱気はいけないが、必ずしも強気だからといって釣れるわけではないのだ。
日も沈んでいないのに帰宅するのももったいないので、伊根町へと移動して再開することとした。
伊根に到着してからは、久々ににおいの強い液体系ワームを使ってみた。着水後15秒くらい沈めてリフトアンドフォールを繰り返していると、ゴンッという手応えに観念したかのようにずるずるとリールを巻いた。ガシラ(カサゴ)だろう。ガシラはいつも裏切らず、われわれ釣り人を楽しませてくれる。
と、しみじみ感じながら回収していると、手前まできてからさおに伝わる振動が徐々に大きくなった。そして、水面から銀色のボディーが。アジだった。今までに釣ったことのない大きさを目視で確認でき、変な声が上がった。大きくなるドラグ音に、気を引き締めて慎重に引き上げた。ついに20センチ級のアジが釣れたのだ。
アジングを始めて1年半。小アジしか釣れたことがなく、20センチのアジなんて都市伝説ではないかといぶかしんでいた。もしくは、丹後では大きなアジは釣れないのでは、と場所のせいにもしていた。釣り動画で「20センチ、小型ですね」とか言うアングラーをぶちかましてやりたいとも思っていた。
1年前、当時の支局長と「どちらが先に20センチのアジを釣れるか勝負しよう」と話して以来、ついに釣れました。
●念願のなめろうですね
今回は釣りたての新鮮さをと、なめろうと刺身でいただいた。なめろうには京丹後産無農薬大豆で造ったみそを使用。マイルドな味にアジの風味がなじむ。そして、刺身だ。弾力がスーパーで売っている品と格段に違う。甘みもあり思わず「うまっ」と独りごちた。酒は向井酒造(伊根町)の「伊根満開」で合わせた。甘き香りと飲みやすい口当たりに、味濃いめのなめろうとよくなじんだ。
今回の釣果を友人に報告すると「このサイズを釣られた記事、楽しみにしてます!」と返してくれた。
しかしながら、現地の魅力を伝えながら魚もたくさん釣るというのは、想像以上に難しいと痛感した。
「自然が相手ですから」
友人の言葉が浮かんだ。
能美 孝啓