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兵庫県の醸造所を訪ねました

2022年7月13日

国産麦芽の利用について意見交換の機会を設けて頂けるということで、農水省の方々にお声がけいただいて、以前試験製麦したモルトを提供したことのある兵庫県の醸造所を2か所回りました。国産麦芽について、実需者の方々がどこを重視しておられるのかを直接伺えて、大変勉強になりました。深謝。
 
兵庫県では、JA兵庫南さんが「シュンライ」(長野農試 1992)という品種の六条大麦を麦茶用に生産しておられて、積極的に新しい用途を開拓しておられます。

これを麦芽に加工(製麦)してビールやウィスキーにできれば、正真正銘の「地ビール」ができると考えられるわけですが、実際にそれを調べた論文があることを、ディスカッションの中で農水省の研究者の方に教えて頂きました。
 
寺島晃也 and 菅野三郎 2001 六条大麦によるビール製造技術の確立https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010641830

ここで原料として使われている「ミノリムギ」(長野農試 1969)は、シュンライの母親にあたります。そしてシュンライの子である「ファイバースノウ」(長野農試 2013)についても、
 
佐藤 有一 2013 六条大麦「ファイバースノウ」(Hordeum vulgare f. hexastichon)を利用する場合のビール醸造条件https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010872366

という論文が存在します。いずれも結論としては、βグルカンやポリフェノールが高めだけれど、これらの六条大麦を使っても二条大麦のものとそれほど遜色のないビールが造れる、というもの。

βグルカンは濾過性に、ポリフェノールはビールの渋みや濁りに関わるので何とかしたいところですが、これらの論文の製麦条件を見ると、発芽工程で設定されている12℃×6日間(ミノリムギ)、15℃×4日間(ファイバースノウ)では、完全には麦が「溶け」ていない(細胞壁が十分に分解されていない)だろうと思います。二条大麦を使って溶けの浅いピルスナーモルトを作る、大手ビール会社の製麦条件を下敷きにしているのだと思いますが、篠田が以前ファイバースノウを製麦したときは9日間粘ってみたことがあります。

一方で、麦茶用を想定して生産したものの豊作で余ってしまったものなどの中には、醸造に適さないロットがあることも分かってきていて、これを製麦技術で醸造に適するようにできないか、といったことが、意見交換の中で解決すべき課題として浮かび上がってきました。そろそろ研究室に戻って実験しようと思っています。(表題写真は8月17日撮影 神戸港)