見出し画像

13.あえてシビアな現状分析

 現在、Irish PUB fieldは休業を余儀なくされていますが、そんな折り、2000年のパブ創業以来の様々な資料に触れる機会がありました。そこで、2001~11年ごろにfield オーナー洲崎一彦が、ライターのおおしまゆたか氏と共に編集発行していた月刊メールマガジン、「クラン・コラCran Coille:アイルランド音楽の森」に寄稿していた記事を発掘しました。

 そして、このほぼ10年分に渡る記事より私が特に面白いと思ったものを選抜し、紹介して行くシリーズをこのnote上で始めることにしました。特に若い世代の皆様には意外な事実が満載でお楽しみいただけることと思います。

 noteから得られる皆様のサポート(投げ銭)は、field存続のために役立てたいと思っています。

 今回ご紹介する記事は、花見の季節になるとセッションの参加者が減る、という前回の記事からの続きです──。(Irish PUB field 店長 佐藤)

↓前回の記事は、こちら↓

あえてシビアな現状分析(というか愚痴です) (2003年4月)

 前回、この欄に「花見の時期はセッションに来るミュージシャンが少なく なる」と書いたが、今年もまたこの法則が当てはまってしまった。でも今年 は一概に花見の影響だけとは言い難い雰囲気があった。よく考えてみると、 この時期は学生達の中には卒業して行くのもいるし、社会人は移動の時期で もある。人々の環境ががらりと変わる時節なのである。fieldアイ研的に言えば、仕事の都合でこれまでどうり活動を続けることができなくなった人たちがけっこう出てきた。それと、最近特に若い層からしばしば聞かされる気になる台詞がある。

「最近、アイリッシュ離れしてまして・・・」

「このごろ、違うジャンルにはまってしまって・・・」  

 これ、ホントに多いのだ。私のまわりでこんなにも一斉にアイリッシュ離 れが進むというのはいったいどういう事か? やはり、アイリッシュ・ミュージックは一過性の流行だったのが、ここへ来て一気に崩落し始めたのか。もしくは、深読みをすれば、アイリッシュ・パブのおやじである私へのアピールとしては、この台詞が、「fieldに足を運ばない公然とした理由」になる ためか(ちょっとイジケ入ってます)。  

 とにかく、ひとつの観察として、確かに今は新しい演奏者がガンガン出て くるといった一昨年のような状況ではないことは言える。これは、あえて反 論があることを期待して書くのだが、

「近畿圏でのアイリッシュ・ミュージック熱が急速に冷め始めているのでは ないか!?」

 と思ったりもする。  

 若者が続いて出てきてくれないと、われわれオッサンは実に寂しい老後を 送ることになるぞ。かろうじて今頑張っている少数の若者もそのうちオッサ ンになるから、本当は彼らもこの危機感を共有するべきなのだが・・・  

 といいつつ、この2~3年、少なくとも京都のアイリッシュ・ミュージッ ク熱を盛り上げて来たのは、若い学生達のパワーだった。私たちfieldセッションも彼らのパワーに負うところが大きかったのは事実だ。ただ、善し悪しは別として、一端熱せられた彼ら若者は一気に「音楽の虫」状態になる。セッションであれ、ライブであれ、ストリートであれ、ただひたすら最大限に楽器を演奏するマシーンと化する。パブのセッションでギネスどころか水すら飲まずに私語も発せず軽く2時間演奏し続ける怪獣達である。  

 昨年私は、このコーナーで「アイリッシュ・セッションとは何ぞや?」という壮大なテーマを掲げて拙文を書き連ねていたわけだが、それで得られたひとつの結論が「アイリッシュ・セッションは音楽を道具に使った人と人とのコミュニケー ションではあるまいか?」という仮説だった。そしてこれは、音楽の質や形式というものを越えた極めて「人間の文化」的なるものなのだ。  

 ここで、ひとつの暴言をお許し願いたい。

「ギネスも飲まずに、一心不乱に楽器演奏だけにのめりこむ<音楽の虫>に、この<文化>が体現できるわけなかろう!」  

 セッションこそ「パブ遊び」のコアであり、このコアを形成する「人間の 文化」が生み育てた民衆の音楽こそが、私たちが憧れたアイリッシュ・ミュージックの姿ではなかったか? 「音楽性」も無用ではないが、既成の音楽にはない「人間の文化」の香りに惹かれてこの世界にさまよい込んだのではなかったか?  

 マニアックな音楽情報や音楽理論を語るより先に傍らのスプーンを叩いて足踏み鳴らせてしまったから、未だにここに居るのではないのか? 

 そりゃあ私たち日本人がどれほどのアイリッシュ・ミュージックを演奏し得るのか、そんなナンセンスは百も承知なのだ。しかし、この「人間の文化」の香りに見果てぬ夢を見て

「わしゃあ、パブまで作ってしもたんやないの!」  

 とまあ、吠えに吠えてしまったら、何やらスッとした。ここはひとつ気分 を取り直して、残されたワシらおっさんは、今年もまたネチネチとギネスを やりながら、時々興味深げにのぞきに来る若い女の子にエッチな事でも言っ て、気まずくなったら演奏を始めて誤魔化す、という格別のセッション遊び に興じることにしよう。  

<洲崎一彦:Irish pub field のおやじ・この頃漏電しっぱなし。放電するには体力不足ですか?>                 


皆様のサポート(投げ銭)よろしくお願いします!