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折々の絵はがき(28)

重文〈夏秋草図屏風〉酒井抱一 江戸時代(18世紀) 東京国立博物館蔵

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◆長型絵はがき〈重文 夏秋草図屏風〉 酒井抱一筆◆

私淑ししゅく」を辞書で引くと「直接教えを受けたわけではないが、著作などを通じて傾倒して師と仰ぐこと」とあります。酒井抱一が100年前の時代を生きた尾形光琳へ向けたまなざしはまさに私淑にほかなりません。その思いの強さが実を結んだのか、彼が61歳の時、光琳が描いた「風神雷神図屏風」の裏側に作品を描く依頼が舞い込みました。抱一がこのまたとない機会に描いたのが「夏秋草図屏風」です。

 彼は表の「天」に対して「地」を描き、神の御業と自然の姿をつないでみせました。照りつける日差しになす術もない夏草へ恵みの驟雨を降らせる雷神。一方で風神は秋の草を大きく揺らし、色づいた蔦を舞い上がらせます。絵はがきを眺めていると、自然の圧倒的な力を畏れつつ、草花のたくましくも美しい姿に魅了された抱一の心情が伝わってくるようです。

 そんな雨と風の向こうには、突風に着物の裾を押さえる人や軒先で雨宿りをしながら困ったように空を見上げる人々、物干しの洗濯物を急いで取り込む人の姿が浮かび上がります。田畑では濡れるのもかまわず天を仰ぎ喜ぶ人が大勢いるかもしれません。足元の潤った土からは生き物が顔を出し、空には風を受けて飛ぶ鳥の姿があるでしょう。頭の中にはまるで映画のように、脈々と続く人と自然の営みが次から次へと映し出されていきます。抱一は光琳が描いた風神雷神の姿から終わらない物語を紡ぎました。見えないはずの神の姿と見知ったつもりになっている自然の姿はどちらも生命力にあふれていて、天と地はつながっていることを教えてくれます。

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