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折々の絵はがき(46)


おしろい 昭和12年 京都文化博物館

◆絵はがき〈おしろい〉広田多津◆

  ふっくらした指先でおしろいの様子をそっと確かめる、いうなれば「仕込み」のような場面。彼女から漂うのはさわやかな色香です。きっと本人は気にも留めていないでしょう。この絵からはまるで夏の早い朝のような瑞々しさが感じられます。ふと、袖口ではなく脇から出した腕に目を留めると「だってたもとが邪魔なんやもん」と言い訳めいた声が聞こえる気がしました。そんな「くせ」は、お座敷のお化粧をするようになっておのずと身に着いたものかもしれません。日々の中で生まれる自分だけの決まりごとがある彼女に親近感を覚えます。少し腰を浮かせたところを見ると、仕上がりは間近なのでしょうか。

 
 鏡をのぞく彼女の表情が「まあこんなもんかな」という風にも見えるのは、美しく装うことよりも、この後のお座敷に気を取られているせいではないでしょうか。こうしている間も頭のなかでは唄の節や振りを繰り返しおさらいしている気がするのです。おしろいを塗りながら、無意識にこぼれる歌声を想像しました。口三味線の音量はだんだん上がっていくのでしょう。

 広田多津は京都の女流画家です。健康的な色気のある裸婦や舞妓を描き、日本画の新境地を築きあげました。白いうなじは芸妓のしるし。彼女たちは何年もお稽古を重ねた踊りや唄、三味線でお客さまをもてなします。「よっしゃ」。最後にはそうつぶやいて、すっと立ち上がる姿が目に浮かびました。もっと上手になりたい。美しい横顔からはそんなひたむきさが伝わってきます。

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