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折々の絵はがき(27)

〈うしろ姿のしぐれてゆくか 山頭火〉池田遥邨
昭和59年 京都国立近代美術館蔵

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◆絵はがき〈うしろ姿のしぐれてゆくか 山頭火〉池田遥邨筆◆

 すすきの中を歩くのは池田遥邨が思い描いた、俳人 種田山頭火の姿です。少年時代より俳句に親しむものの、母の自殺や生家の破産など幼少期から数々の不幸にみまわれた山頭火。彼は堂守となったのち、托鉢をしながら日々を生きる「行乞」の旅に出て、漂泊の中で自由律の句作を続けました。一方、山頭火の死から40年以上が経った頃、89歳の遥邨は彼に思いを寄せ、92歳で亡くなるまで山頭火の句をモチーフに句境の絵画表現に挑みました。

 秋風が一面のすすきを揺らす中、山頭火は歩き続けています。辺りに人はいません。風が穂を揺らす音は絶え間なく、彼の足音まですっかりかき消しているのでしょう。深い秋は豊かで美しいものの、どこか祭りの後のような寂しさが漂います。自分に向き合わざるを得ない状況のなか、ただ黙々と歩みを進める彼がいま何を思うのかうまく想像することができません。時を超え、遠くから彼を見守るのは遥邨です。旅をするほかなかった山頭火をここに浮かび上がらせたまなざしには、優しさと憧れが混ざりあっているようです。

 「旅をして本当に見たときの感動を絵にしたい」と語った遥邨は、生涯にわたり旅と自然を愛したといいます。歩き、実際に感じたことだけを率直に言葉にした山頭火に自分と重なる部分を見たのかもしれません。時を経て作品に心を寄せ、歩いた道をたどり、あなたを描いたひとがいたと山頭火に伝えられたら彼はどんな顔をしたのでしょう。二人の旅人が見せてくれる作品は、そこに行かなければ生まれなかった言葉と見えなかった景色でできています。

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