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折々の絵はがき(24)

〈浮絵浪花天満天神夜祭之図〉 歌川豊春
明和後期~安永初期頃 千葉市美術館蔵

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◆絵はがき〈浮絵浪花天満天神夜祭之図〉 歌川豊春筆 C-83◆

 なんとわくわくする景色でしょう。何よりもまず星空と橋に見とれ、しばらく目が離せませんでした。満点の星はこの格別な夜の総仕上げをするみたいにまたたいています。夏、漆黒の空には雲一つなく、広々と描かれた星空にはこのずっと先まで広がる宇宙を感じます。川にかかる大きな橋はまるで消えない虹のようで、この夜にこの橋を渡ってみたいと、出来るはずもないことを考えました。橋は星空に浮かんでいるようにも見えて、橋だけでなくこの場所全部が明日の朝にはふっと消えてしまう一夜の夢のようです。川には何艘もの船が浮かんでいます。今年も無事にこの日を迎えられたことに安堵して、橋を渡る人も、船にいる人も、みんな口元がほころんでいる気がしてなりません。上半身裸で神輿を運ぶ男たちからは熱気と興奮が伝わってきます。両手を振り上げ力いっぱい太鼓を打つ人々を、屋形船に乗った旦那衆が扇子で優雅に風を送りながら身を乗り出して眺めています。数えきれないほどの提灯に火が灯され、星と一緒に辺りを照らしていますが、その明かりは見ている私たちの心まで照らしてくれるようです。

 江戸時代中期の浮世絵師 歌川豊春は門人に豊広、豊国を擁し、後に国貞、国芳、広重を輩出した歌川派の開祖です。西洋の銅版画を浮世絵に模写して遠近法を研究し、浮世絵に奥行きの表現を取り入れた「浮絵」の作風を発展させたことでも知られています。

 長い間思い出すことのなかった子どもの頃の夏祭りをふと思い出しました。何日も前から楽しみで仕方なかったあの日の懐かしさに思わず目を瞑ります。こんな風に、時として絵はがきは切符を買ってもたどり着けない思いがけない旅へわたしたちを連れだしてくれるのです。

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