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『ブッシュマンの民話』【新人読書日記/毎日20頁を】

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新人読書日記シリーズ、2冊目です。
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記事一覧

終わり|導入された民話と、あとがきのあとがき 【新人読書日記/毎日20頁を】(28)

「ブッシュマンの民話」、読了です。これで、新人読書日記シリーズ、2冊目の完結です。 最後の第4章「近年導入された民話――近隣民族から借用したお話」では、お話の背景はこれまで語られてきた民話より少し現代的になり、白人の農場と修理工場なども登場しますが、主役は依然として、騙し合う動物たちです。時代背景が近くなったためか、お話を読んでも、まるで身近に起きていることのようで、面白かったです。 初めてアフリカの民話を読んで、少し不思議な心持になっています。お話を読みながら、時空を越

怪談篇|お祭り騒ぎの中の殺人 【新人読書日記/毎日20頁を】(27)

「ブッシュマンの民話」、221-240頁、読了です。  みなさん、『赤死病の仮面』(1842年)というエドガー・アラン・ポーの短編小説をお読みになったことがありますか。これはポーの短編小説集の中で、私の一番のお気に入りなのですが、今回のブッシュマンの怪談は、この短編小説を思い起こさせるものでした。  前回と同じ殺人鬼のお話です。村の人々が歌ったり踊ったりして、盛り上がっている最中、一人の殺人鬼がお祭りのような人混みの中に紛れて、みんなと一緒に歌い、踊っています。『赤死病の

怪談篇|現実と物語の差 【新人読書日記/毎日20頁を】(26)

「ブッシュマンの民話」、201-220頁、読了です。 怪談篇には、殺人などを含む怪談六話が載っています。これらのお話は残忍な殺人にいろいろ触れていますので、カラハリは殺人が横行する怖い世界のように見えますが、実は現実の世界では、真逆だそうです。田中二郎先生の解説によりますと、人殺しはほぼないといっても良いくらいです。ナイフや槍を他人に向けて持つことすらしてはならないとのこと。子どもでもナイフを構えたりする遊びは禁止です。 おそらく、狩猟採集民として槍やナイフなどの武器で動

怪談篇|欲張りのアウチとアフリカ食文化 【新人読書日記/毎日20頁を】(25)

「ブッシュマンの民話」、181-200頁、読了です。 今回は頭の後ろに口がある怪物の怪談です。江戸時代の奇談集『絵本百物語』にも容姿の似たような妖怪がいます。二口女といい、後頭部にもう一つの口を持つという女性の妖怪です。罪を犯した人が妖怪になるという因果応報の意味を含めるキャラクターです。欲張りで村の人に殺されてしまうアウチの話にも因果応報といった意味があると思います。狩人たちからもらった獲物に満足できず、残りの分まで全部食べてしまい、妖怪だと村民に気づかれ、死ぬ運命になり

寓話篇|「脂肪の子」と「恋ノ邪魔者」 【新人読書日記/毎日20頁を】(24)

「ブッシュマンの民話」、161-180頁、読了です。 今回のお話は脂肪からできた娘「脂肪の子」と、彼女に一目惚れした人間の男性の恋愛物語です。主人公の二人は「恋ノ邪魔者」を退治して、幾多の困難を乗り越え、ハッピーエンドを迎えます。ディズニーのラブストーリーにもよくあるパターンですね。 ただ、ここの邪魔者は意地悪い継母ではなく、「犬」です。世間では、犬は善良で強い忠誠心を持つとされていますが、ここで登場する犬はそんな私たちのイメージからはかけ離れています。「脂肪の子」と男の

寓話篇|ブッシュマン・バージョンのバッグス・バニー 【新人読書日記/毎日20頁を】(23)

「ブッシュマンの民話」、141-160頁、読了です。 今日も同じく「元気」なウサギのお話です。 いたずら者のウサギがまたずるいトリックでライオンを騙し暮らしています。ここで、ワーナー・ブラザースのバッグス・バニー(Bugs Bunny)を思い出しました。あのいつも元気いっぱいで、動きが早いバッグスです。 バッグスは相手を欺くために変装や女装をして登場することがありますが、こちらのウサギも危険な時や、敵をごまかしたいときは、他の動物の皮をかぶったりしていて、なりすますこと

寓話篇|ウサギと教訓のない寓話...【新人読書日記/毎日20頁を】(22)

「ブッシュマンの民話」、121-140頁、読了です。 今回のお話に登場するトビウサギは記事のカバー画像のように、前足が短く、後ろ足が長くて力強そうな小型動物です。一見ウサギに見えるので、ウサギと名付けられていますが、本当は兎形目(ウサギ目)じゃなくて、ネズミと同じ齧歯目(ネズミ目)だそうです。 ところが、話の中では、トビウサギは元は普通のウサギであったが、雷で前足を萎えさせられたために、前足の弱いトビウサギになったと説明されています。 トビウサギの話の次には、いたずらの

寓話篇|アフリカの動物たちの話【新人読書日記/毎日20頁を】(21)

「ブッシュマンの民話」、101-120頁、読了です。 寓話篇には特徴的な動物たちが登場します。まるでカラハリ砂漠にいる様々な動物たちのイメージが紙面から立ち上がってくるようです。 特に私が面白いと思うのは、小鳥たちの話です。しつこい性格を持つカエンカエン(ムナグロハウチワドリ)の胸の黒い斑紋は季節により出たり消えたりするそうですし、グアェネ(アカガタテリムク)の目が赤くなり、金色っぽく見えるのは、首を絞められ、充血したためだとか。 また、ライオンやヒョウたちのエランドを

神話篇|ライオンに復讐する神...【新人読書日記/毎日20頁を】(20)

「ブッシュマンの民話」、81-100頁、読了です。 父を真似て、エランドに変身した神様の子どもがライオンに食べられてしまいます。ちなみに、ブッシュマンの世界では、ライオンは太陽とならぶ悪の代表格と言われています。そこで、エランドに化けた神様がトリックと魔法を併用して、ライオンを殺し、子どもを助けます。この件では、ライオンが人間の姿になったり、もとの姿に戻ったり、想像力に溢れた展開に魅了されます。 ここで、ブッシュマンの民話、神話篇終了です。いたずら者の神様の姿から、ブッシ

神話篇|子殺し、太陽の誕生...【新人読書日記/毎日20頁を】(19)

「ブッシュマンの民話」、61-80頁、読了です。 神様の可愛がっていたエランドが息子二人に殺されてしまいました。彼らに罰を与えるため、神様はゼーネという手作りのおもちゃで太陽を作り出し、大地を焼けるようにしたため、やがて、息子たちは体が焼けて死んでしまいます。 太陽が憎しみで作り出されたと思われるのは、おそらく現地の厳しい自然環境と深く関わっているのでしょう。田中先生の解説によりますと、カラハリ砂漠の真夏は大地が歩けないほど熱くなり、人々は「太陽が私を焼き殺す」とよく苦情

神話篇|人間を騙す、人間を食べる、人間に殺される 【新人読書日記/毎日20頁を】(18)

「ブッシュマンの民話」、41-60頁、読了です。 少し怖いお話です。 主人公は神様の子供、コアテです。お父さんとは同じようないたずら者で、残忍さはさらに酷いです。 男女を騙して家に連れて帰ったコアテが、二人に人間の肉を食べさせ、太らせてから食べようと企んでいます。ですが、そのうち、陰謀が気づかれ、逃げられてしまいます。追いかけてくるコアテを邪魔するため、逃げる男女は林や池を作ります。ついには、コアテが池の水をいっぱい飲んで、お腹が裂けて死んでしまい、男女は無事に帰ること

神話篇|創造主の創世神話|ダイナミックなシーンが目の前に...【新人読書日記/毎日20頁を】(17)

「ブッシュマンの民話」、21-40頁、読了です。 相変わらず素行不良の神様が、今回は木に化けて、人々が木の枝にかけて乾かしている肉を盗んでしまいました。その後、そのことがバレて、人間に追いかけられ、火にまかれて、ジタバタしている間に、全ての動物を創り出したという…創世神話です… 話の内容は少し「あれ?」と思われるところもありますが、語りにリズム感があり、まるで人間と神の戦い合うダイナミックなシーンが目の前で展開しているような、面白さを感じます。 少し興味深かったのは、神

神話篇|神様らしくない神様の逸話 【新人読書日記/毎日20頁を】(16)

「ブッシュマンの民話」、1-20頁、読了です。 これはブッシュマンバージョンの火の由来です。 神様がライオンゴロシで罠を仕掛けてダチョウの脇の下から火を盗み、人間にもたらしました。それでようやく生で食べると病気を起こす果物や肉が調理できるようになりました。 神様といえば、全知全能至善の存在と思いますよね。泥棒のようなことを行うなんて想像しかねます。これはブッシュマン神話の面白いところだと思います。ブッシュマンの世界の神は至高な存在ではなく、生の果物を食べたら尻の穴が剥け

『ブッシュマンの民話』まえがきのまえがき|想像しかねる遙かにある世界で...【新人読書日記/毎日20頁を】(15)

「ブッシュマンの民話」、まえがき、読了です。 著者の田中二郎先生は25歳から半世紀をわたり、100%自然にのみ依存した生活を送っている狩猟採集民ブッシュマンの住むカラハリ砂漠へ通い、調査を行ってきました。80〜90年代にテープレコーダーで録音した現地の人の語った民話(神話、寓話、怪談など)を日本語に翻訳し、この1冊になりました。 お話の中に登場する動物や植物、神様まで、絶えず人間の姿になり、人と同じように振る舞うという、著者の紹介文を読むと頭の中にすごく不思議なシーンが浮