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『人間性はどこから来たか』【新人読書日記/毎日20頁を】

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新人読書日記シリーズ、3冊目。
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#京都大学学術出版会

小猿の金切り声、ねこの喧嘩【新人読書日記/毎日20頁を】(39)

「人間性はどこから来たか」、201-220頁、読了です。 動物の言語に関する研究は世界中で数多く行われています。本章「言語の起源」では、霊長類の「言語」について世界各地の実験や研究の成果が論じられています。非専門家は、サルの金切り声はだいたい同じと感じますね。ところが、サラ・グーズール等の研究者によると、なんと5種類あるようです。小猿の5パターンの鳴き声に対する母猿の反応強度がそれぞれ違い、同じように聞こえる鳴き声に実は違う意味が含まれていることがわかります。 近頃ネット

仲間を殺せば殺人、敵を殺せば英雄 【新人読書日記/毎日20頁を】(36)

 「人間性はどこから来たか」、141-160頁、読了です。  高校時代初めてジョン・レノン(John Lennon)の歌「ハッピー・クリスマス(戦争は終った)」(Happy Xmas (War Is Over))を聴いた時、よくわからないものに心を動かされました。気分が上がるメロディー、かわいい子どもたちのハーモニー、何もかも気に入って、ネットでジョン・レノンに関して色々検索しました。彼の反戦精神や、反戦のために行なった活動の関連記事を読み、戦争を体験したことのない私ながら

排卵の隠蔽、家族の成立 【新人読書日記/毎日20頁を】(35)

 「人間性はどこから来たか」、121-140頁、読了です。  引き続き、「家族の起源」を巡る議論です。人間と動物の違いは、男女の性差による労働の分業の有無にあるそうです。狩猟採集社会では、男性が大型獣の狩猟など、より「汗をかく」仕事を担当するのに対して、女性は子どもの世話、植物の採集や小型獣の狩猟など、キャンプから遠く離れない仕事をするということです。ただ、現代社会では、男女による性的分業はほとんどなくなってきていますね。  最後の節に、「排卵の隠蔽」という議題が語られて

兄弟姉妹はなぜ大人になると離ればなれになる? 【新人読書日記/毎日20頁を】(34)

 「人間性はどこから来たか」、101-120頁、読了です。  日本の生態学者、文化人類学者である今西錦司により、「人間家族」になる必要な条件が4つにまとめられています。ここで著者は4つの条件の1つ「近親相姦の禁忌」(インセスト・タブー)について論じています。動物の世界でもまれではない現象ですが、その根本的な要因はやはり繁殖です。近親の結合で繁殖にとって様々な不利な状況が発生するからです。  インセスト回避の一例として、子ども時代を一緒に過ごした兄弟姉妹は、大人になって恋愛

年賀状と人間の互酬性 【新人読書日記/毎日20頁を】(33)

「人間性はどこから来たか」、81-100頁、読了です。  第5章「互酬性の起源」では、霊長類から人間社会まで、互酬的行為や協力のパターンが論じられています。利他行動と利己行動は血縁関係に限らず、普遍的な人間関係にも大きく影響を及ぼしていると感じました。著者は日本における年賀状のやり取りを例として挙げて、人間の互酬性を語っています。年賀状を出したのに、相手からは来なかった場合、大体翌年は年賀状書きません。それは相手のことを「お返しをしない人」だと認識したのです。同じように、霊

なぜ集団生活をするのか 【新人読書日記/毎日20頁を】(32)

 西田先生はアリストテレス『政治学』を引用して第4章の議論を始めています。  本章は霊長類が集団生活を進化させた要因を探る章です。なぜ霊長類は集団を作る必要があるのでしょう。それは集団を作ることによって、捕食者に食われにくくするためです。人が多くて力を合わせれば共同で敵を退治することができますし、しかも、集団に入ると、自分を「目立たない」ようにすることができ、賢い捕食者対策になります。あらゆる所に脅威が潜んでいる原始社会だとすれば、理解できます。現代社会でも同じ生存ルールが

満員電車に痴漢が絶えない理由は… 【新人読書日記/毎日20頁を】(30)

 「人間性はどこから来たか」、21-40頁、読了です。  第1章「現代人は狩猟採集民」では現代人のいろんな特徴や習慣、また病気は昔々の狩猟採集民時代から受け継いできた遺伝子型や本能から生じた文明社会不適応性だと主張されています。  今読んでいる第2章にもこういった主張に触れています。本題に入る前にまず、人間性研究の歴史が紹介されています。様々な分野の国内外の学者の研究努力と成果を概観することができます。まるでバイキングのように、人類の進化に関する面白い議論を一気に満喫でき

霊長類学者が書いた文明社会啓示録 【新人読書日記/毎日20頁を】(29)

 「人間性はどこから来たか」、1-20頁、読了です。  おそらく、「狼少年」のことを誰しも一度は聞いたことがあるでしょう。狼に育てられた狼少年は作り話ではなくて、実在すると信じる人も少なくないのではないでしょうか。実際、私はずっと信じ込んできたのです。とはいえ、本書の冒頭から、西田利貞先生は辛辣な言葉で、理性的な考えで反対の姿勢を示しています。著者は人間と動物の違いについて、まだまだ知る必要があると感じて本書を執筆したとのことです。  西田先生は人間の本性を探るため、狩猟