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【アンテナの『あん』- 編集長:堤 大樹 03】続・私たちがアンテナをやる理由〜アンテナのゆくえ〜

アンテナの『あん』とは?
編集部メンバーがお互いを知るために、インタビューでメンバーを掘り下げ、アンテナの『なかみ』を副音声的にお届けします。
今回のテーマは『編集長・堤に聞く、フリーインタビュー』です。

2017年6月1日に公開したアンテナの記事、『私たちがアンテナをやる理由【編集長・堤編】』。同記事では、アンテナが始動した2013年から2017年までの活動を振り返りながら、それ以降に目指す様々な目標が記されていた。そこから2年経ち、様々な変化を経たアンテナを、ここでまた堤と振り返る。

堤 大樹(つつみ だいき)
アンテナ編集長。26歳で自我が芽生えたため、まだ6歳くらい。「関西にこんなメディアがあればいいのに〜」でアンテナをスタート。関係者各位に助けられ、発見と失敗の多い毎日を謳歌中。自身のバンドAmia CalvaではGt/Voを務める。


自分たちの「良い」という感覚に嘘をつかなくていい方法を模索する

——:アンテナは現在、Webマガジンを中心に様々な側面を持ったメディアになっていますが、活動のスタートは2013年に発刊したフリーペーパー『アンテナVol.0』でした。前回の記事では、その際に感じたフリーペーパーを世に出す意味合いや手応えを答えられていました。その後、現在に至るまでフリーペーパーはVol.6まで発刊されていますが、各号をリリースした際のリアクションはどうでしたか?

堤:正直、紙媒体はWeb媒体以上にリアクションを得にくいと感じています。Webであれば、SNSでの告知にリツイートやいいね!が付くなど、小さくてもわかりやすいリアクションを得られる。しかし紙媒体へのリアクションは、自分で言葉を綴って投稿なり問い合わせフォームから感想を連絡しなきゃいけない。そこまでやるって、よっぽどのことなのでなかなかないですよね。

——:多く配ることができた号や、あまり手に取られなかった号はありましたか?

堤:どの号でもあまり変わらなかったです。0号の頃から2000冊は刷っていて、その数だけ配り続けてきた。でも比較的人気で早くなくなる号はありましたよ。

——:Webマガジンを始めてからは、フリーペーパーよりもWebマガジンの方がリアルタイムに多くの情報を発信できますが、その中で紙という媒体を使う利点ってなんですか?

堤:紙媒体の利点ってやっぱり特集が組めることなんですよ。Webは特集をしにくいというか、記事同士の関係が希薄。Webサイトだと、関連する記事のリンクを貼ることはできる。でもその記事がどのくらいのボリュームで、リンクを貼った記事に対してどういう繋がりがあるのかが、視覚的につかみにくい。

でも紙媒体だと横断的に、様々な文脈を取り混ぜて扱うことができる。一冊を通じてまとまっていれば飛ばして読んでも楽しめるし、好きなところだけ拾いやすいしね。まあでもWebにも良いところがあるから、どのチャンネルを選ぶか場合によって使い分ければいいとは思ってるよ。

——:2017年の記事では、インタビューやプレス記事の依頼が増えてきたという話の中で、bedの山口将司さん(Gt / Vo)との関係性を出されていました。今ではより幅広いアーティストやイベントから依頼が来ていると思いますが、アンテナはアーティストやイベンターから、どのように見られているメディアだと思いますか?

堤:自分で言うのもなんですけど、「結構扱いづらいだろうなぁ」と思いますよ(笑)。「なんでもプレスなり依頼なり送ってよ」とは言うけど、リソースの問題や僕ら自身のこだわりもあるし、なんでもすぐに載せられるわけじゃない。そこは相手からはどう見えているのか、僕が知りたい。でも影響力は少しずつ出てきてるとは思う。ここ数年で「アンテナにやってほしい」という依頼や読んでくれている人も増えてるし、そこはやっぱり嬉しい。今所属してくれているメンバーのおかげだね。

——:山口さんからのライブレポートの依頼は、「自分たちが巨大資本に頼らないメディアとして何を取り上げるのが正解なのか」という判断基準を考え直す瞬間であったと話されていました。この判断基準は今も変わらないですか?

堤:変わらない。別に正解があるわけではないけど、大きくなるにしても自分たちの「良い」という感覚に嘘をつきたくはないよね。難しいなと感じているのは、僕は元々好きなものが幅広いタイプではないし、今後さらに歳を取って新しいものをより受け入れられなくなること。だから僕の好きだけで継続しちゃうと、規模が縮小してしまうんだろうね。今いるみんながそれぞれに「これをが面白いんじゃない?」って継ぎ足していってしてくれると嬉しい。

変わるってことがなにより大事だし、健全なことだと思います

メンバーにアンテナのために何かをやって欲しいとは1度も思ったことがないし、これができないとっていうこともひとつもない。最低限コミュニケーション取れて、好奇心が強ければそれでオーケー。 関西にはクリエーターがやりたいことを実現できる場所が少ないよね。自分の表現や自分の好きを最大限にアピールできる場所として、アンテナを最大限に使って欲しいとも思っているから、何よりも自分の表現したい・伝えたいことがちゃんとあるのかが一番大切。

(私たちがアンテナをやる理由。【編集長・堤編】より)

——:2017年当時は、メンバーに対してどういう姿勢でアンテナに向き合ってほしいかを上記のように話していました。今またメンバーは変わっていますが、求めるものは変わりましたか?

堤:前回のインタビューを行った頃には僕も本気で取り組んでいたんだけど、今思えばまだ余暇に近かった。余った時間で楽しくできれば良いと考える部分もあったしね。今でも、もちろん楽しくはありたい、が、本気で今の環境、自分が好きなアーティストのことを伝えたり、ライターやカメラマンの社会的立ち位置を変えたいって思った時に、「この向き合い方じゃもう無理だな」と感じたんですよ。それで僕自身も変わるところはあったし、今はいるメンバーにもそれを求めてしまっているとは思います。

——:マーガレット安井さんにインタビューをした際、ライターとして活動していることについて「僕は半ば宿命としてやっている」ということを言っていましたが、堤さんもそう感じることありますか?

堤:宿命だとは思っていないけど、自分たちに果たせる役割があることは幸せに感じている。僕たちが作った記事を見て、何かが変わるかもしれない。変わるってことがなにより大事なんですよ。「今までこんなことダメだと考えていたけれど、いいんだと思えた」とか、「寄り道していつもと違う場所に行ってみた」とか、劇的じゃなくて良くて、そういったことに寄り添えればいいです。

良くも悪くも僕らの存在なんてたかが知れている。ここ数年で一つの記事が与えられる影響なんてそんなに大きくないことはよくわかったんです。正直、どんなメディアもなくても困らないし、代わりのモノなんていくらでも生まれてくる。でも僕はもう少しみんなで希望の話とか、過去を眺めて立ち止まって明日からどうするかかを、見つめ直すような場所を作れればと。

——:2019年10月に新メンバーが8人加入し、人数が大きく増えました。そこにはどういった背景がありましたか?

堤:正直、ライターやエディターやカメラマンって、1年や2年で育つものじゃないんですよね。育つためにはたくさんインプットもアウトプットもし続けないといけない。関西ではそういった経験を積める場所も多くないし、それなら早めに一緒にやっていくのがいいと思ったんです。でも一番大きかったのは、酒の席とは言え既存メンバーの阿部ちゃん(阿部仁和・ アンテナ ライター)とか、川合ちゃん(川合裕之・アンテナ ライター)、乾ちゃん(乾和代・アンテナ ライター)が「僕らが面倒見ますから、みんな入れちゃいましょうよ」と言ってくれたことですね。それがなければ2人くらいしか増やさなかったと思います。

——:心強いですね。

堤:そんなこと言ってくれると思っていなかったし、本当に嬉しかった。それで僕自身も雑務的な部分から、手を離すいい機会だとも思った。結局既存メンバーが新しく増える人やまわりの人に、「自分たちはとはこういうものだよ」と伝えることで彼らも成長すると思うし、組織はそうやって少しずつ大きくしていくしかないから。今までは、全部一人でしようと思っていたから、大きくならなかったという自覚もあるんです。それで新メンバーの大増員が決まった。

——:アンテナ立ち上げからの6年間で堤さん自身、アンテナに対しての姿勢の変化はありましたか?

堤:アンテナに関しては何も変わってないと思う。でも、ライフスタイルの部分で言うと、4年前に転職をしたんですけど、全くの未経験の業界に飛び込んで、難易度も高くて。そこで怒られたり失敗したり、自分ができることやできないことを振り返る時間がいっぱいできた。

——:それがどのようにアンテナに影響を及ぼしているのでしょうか?

純粋に僕が回しているタスクの割合が多いから、僕がアンテナに及ぼす影響は大きいけれど、それを減らす必要を感じている。でも最近はみんな、僕が放っていても自発的にやるようになってきたと思っていて、それは大きい変化だよね。今、僕が急に一年間海外に行ってもなんとかなるんじゃないかな。それは、峯ちゃん(峯大貴・アンテナ副編集長)の力が大きいと感じてる。今まで、僕と岡安(いつ美・アンテナ副編集長)がフルで回していたものを、彼が音楽の記事では中心となって引き受けてくれている。どうして峯ちゃんがここまでアンテナを自分のこととして運営できているのか本人もわからないらしいんだけど、今とても3人でフラットに喋れるし、すごく頼れる。

——:そういう意味でも、昨年のki-ftのメンバーの合流っていうのは大きかった。

堤:彼らは岡村詩野さんに音楽やライティングを体系的に学んでいることもあって、文章への向き合い方が、なんとなくライターやりたいって人とは大きく違う。情報のキャッチも早ければ、リサーチは入念、好奇心も強くて心強い。本当に素晴らしいことだなと思う。そうなるとやっぱり文章がうまくなる、発信をする、情報が集まるといういい循環が生まれるよね。

——:ki-ftのメンバーが加入して1年半ほど経ち、アンテナ全体としてのライティング力は上がっていると思いますか?

堤:それはもちろんあがっただろうね。次のステップは、そのki-ftイズムを他のメンバーにも吸収してもらうこと。。みんな仕事をしていて普段会う機会も多くないから、今回事務所を借りたことで一緒に過ごす時間が自然に増えればいいなと思っています。

ヒトもモノもゲートウェイを通過せずに、交流させることができたら面白いものが生まれるかもしれない

——:その事務所の話にもつながるんですが、2017年の記事では、直近の目標として「京都以外の場所にもアンテナを作り、お互いの都市の文化をインポートしたりエクスポートしたりできるようにしたい」と仰っていました。また、同時に「2020年までに事務所だけでなく、様々な文化施設が入ったアンテナのホームとなる場所を作る」ということも。それらの目標は変わらないですか?

堤:変わらないですよ。でもやりたいと言ってたらダメだね。作ります!今から3年後の2022年。とりあえずこの2年で事務所を運営して、そのネクストアクションとしてやりましょうよ。

——:お互いの都市の文化をエクスポート、インポートさせるってすごく良いと思ったんですよね。やっぱり国内って言っても地域で文化は違うし、そこに刺激を受けて各地域がより発展していく。京都だけじゃなく色んな地方のカルチャーを盛り上げたいという考えはありますか?

堤:僕自身がもうマス向けのものに対して興味が持てなくなってきているみたい。どの本で読んだか忘れてしまったのですが、カルチャーというものは少人数の小さなシーンからはじまって、円を描きながら徐々に大きくなるのだけど、僕はそのはじまりの、土着的な濃いものが好きなようで。そしてそこに小さな経済圏が生きるヒントみたいなものがあるような気がしている。もはやヒトもモノにもボーダーはないので、ゲートウェイを通過せずに交流させたら面白いものが生まれるかもしれないね。まずは文化的にも物理的にも近しい台湾かな。

——:2017年以降、新たにできたアンテナの目標、またはアンテナを通しての堤さんの目標はありますか?

堤:場所を借りることができたから、あとはその場所を使ってガンガン発信して自分たちの活動に価値を与えたい。社会的にはお金は信用であり、価値そのもの。だからお金がもらえないということは、自分たちがまだ信用されてないということ。今、音楽業界全体がその状況で、ライブハウスに行く2000円が高いと言われるのは、払う価値がないと思われているということだから。そんな状況を変えたいとは思います。今まで多くのいい体験をさせてくれた、大好きなポップカルチャーにお金が回る仕組みを作らないといけないし、そう言いながら6年経ってしまったから、事務所を借りたこの今のタイミングで小さくても実際に動かしていこうと思います。


ライター:岡本 海平
写真:堤 大樹

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