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たなからルーツ - Amia Calva 堤サバヲの棚 -

友達の家に遊びに行ったとき、CD棚にどんな音楽が並んでいるのかつい気になって眺めてしまうことはありませんか?CD棚というパーソナルなスペースには、持ち主が音楽とどのように歩んできたかのストーリーがギュッと詰まっているように思います。
そんなことを思いながら、ANTENNAの編集長でもあり、Amia CalvaのVo / Gtでもある堤サバヲのCD棚を見てみます。そして彼の人生のプロットポイントを生み出した2枚のディスクを選んでもらいました。選ばれた2枚を借りて持ち帰って、あらためてじっくり聴き直すように。棚の中のストーリーと、選ばれたディスクが彼の音楽性にどんな影響を与えたのか、その歴史やクリエイティヴィティを感じながら、棚から溢れるルーツに思いを巡らせます。

shelf00 堤サバヲ(Amia Calva)の棚

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Amia Calvaの音楽性から想像して、90年代のUSもしくはUKオルタナインディーロックの名盤が、アーティストごとに理路整然と並んでいるのではないかと予想していた。ところが、思った以上に洋楽・邦楽、メジャー・インディーが入り混じり、オルタナ~ポップスを偏り過ぎず横断する棚。散見される宇多田ヒカルを始め、B’z・スピッツ・東京事変・凛として時雨……といった、5年前の自分(まだインディーミュージックの魅力に出会っていない頃)でも分かる日本のポップ・ミュージックの面々が意外な発見でもある。ポスト・ハードコアの代表格Fugaziや、Aphex Twinのエレクトロニックな一面など、どれも薄っすら影響を感じるが……いや、だからこそAmia Calvaの楽曲ってライブハウスでみんなと肩を組んで聴きたいような、ひとり部屋に籠って聴きたいような、どちらも兼ね備えた掴みどころのなさがあるのかもしれない。

気になる音源は数あれど、この中から下記のテーマで本人に2枚のディスクを選んでもらい、それぞれについてのコメントもいただいた。そんな2枚を中心に、Amia Calvaについて思いを巡らせよう。


Disc01:あなたが音楽を好きになったきっかけの1枚

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Radiohead - OK Computer

中学校を卒業したタイミングで、親の転勤で名古屋から愛媛県の片田舎へ引っ越した。工場地帯で自然が豊かなわけでもなく、駅を降りれば製紙工場の煤煙の臭いがツンと鼻をつくその街には、遊び場などほとんどない。高校生には縁のない大きなパチンコ屋が国道沿いに並ぶだけだった。僕は公立の高校に入学したものの「幼稚園の頃からの幼馴染ばかり」という人間関係に全く馴染むことができず、家で時間をもてあますことが増えた。

そんな時に名古屋の同級生“ダンディ”が「暇ならこれでも聴きなよ」と教えてくれたのがRadioheadの『OK Computer』と、Red Hot Chili Peppersの『Californication』だった。僕はCDコンポに音源を入れ流れ始めたAirbagのイントロにしびれ、Thom Yorke(トム・ヨーク)のシニカルな歌に心酔してしまったのだ。この時どちらのCDにピンとくるのかで今の自分の趣味趣向が定まった気がしてならない。

Disc02:あなたを成長させた1枚

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ザ・サイクロンズ - レッツゴー!サイクロンズ

元々ギターとしてバンドをはじめた自分が歌うきっかけをつくってくれたのは、サークルのNUMBER GIRL好きの同期だったが、(忘れもしない人生で最初に人前で歌ったのはTombo the Electric Bloodredだ)シャイで、ええかっこしい、更に思春期でこじらせにこじらせていた当時の自分に、歌うことの楽しさを覚えさせてくれたのは先輩に誘われてコピーしたザ・サイクロンズである。

ベッタベタなロックンロールのギターを弾き、スウィートでバカバカしさすら感じる歌詞を歌うのは本当にただただ楽しかったのだ。そして音楽とはえてしてそうあるべきだろう。


Amia Calvaを構成する、OK Computerの美しい矛盾

あなたが高校生だったら、RadioheadとRed Hot Chili Peppers、どちらに心惹かれるだろうか?

『OK Computer』全体を通して漂う、晴天や降雨というよりは曇ってスッキリしない空の中、低気圧の片頭痛を薄っすらと感じる物憂げさ。ハッキリとエレクトロニカに傾倒するでもなく、アコースティックギターの音色も、エフェクティブなビートも、不安を掻き立てるベースラインも、不安定に交じり合う。それはどことなく、行き場のなさと、どこへでも行ける自由さという矛盾を同時に表現しているようにも聴こえる。
ひとりきりで音楽に陶酔する、そんな時間をちゃんと迎えた少年が手にしたクリエイティヴィティが、Amia Calvaというバンドの核になったのだろう。海面のキラキラしたところを水しぶきをあげて跳ね回るような音楽(もしかしてレッチリにハマっていた彼だったら、そんな音楽になり得たのかもしれない)の対局にある、海底深くを潜り続けるような不安定さの中で、時折胸を抉るようなエモーションをぶつけてくる彼らの表現は、『OK Computer』の持つ美しい矛盾に通ずるようにも感じる。

歌い継がれる歌心

近年のAmia Calvaのライブをみていると、エレクトロニカに引き寄せられつつ、リズムや音のコラージュの妙を味わうような、よりエクスペリメントな表現に向かっているように思え、そのスリリングな楽曲は「そのうち歌うことをやめるんじゃないか」と思わされた。私はそんな「堤が歌わなくなる日」がちょっとだけ楽しみでもあったのだけど、そんなことに思い巡らせる中でまさかの『レッツゴー! サイクロンズ』、である。

60年代グループ・サウンズの美味しいところを寸分損なわずリヴァイヴァルして2000年代に持ち込んだ京都のバンド、ザ・サイクロンズ。ジャケットや歌詞カードのフォントまで徹底的に昭和レトロ。高度成長期の古き良き文化が、70年代生まれのザ・サイクロンズによって復興され、80年代に生まれた彼に歌う喜びを伝えるなんて、理想的な文化継承、音楽のリレーだ。ポストほにゃららや、ほにゃららリヴァイヴァルというジャンルの継承は、結局のところ「音楽、めっちゃ楽しい!」の継承でもあるのではないか。いやもちろん、当時の政治的背景を今の時代に投影する、とか、芸術表現である以上そういうことも大切ではあるのだが。

手放しそうで手放さない歌心はThom Yorkeのそれでもあり、ザ・サイクロンズをなぞった日に感じた歌うことへの根源的な慈しみだったとは。これからAmia Calvaの音楽はますます矛盾を抱えたエクストリームな音像と、根源的な歌心が共存していくのだろうか。捉えどころのないアイアン・ポップに磨きがかかることへの期待が広がる。

次は何を借りよう 堤サバヲの“巣”

そう言えば、Thom Yorkeはあちこちから木々や葉っぱを集めて巣作りをするカササギになぞらえて自分のことを“音楽的カササギ”と言っているのだが、それは色々なところからリファレンスを集め新しい文脈をつくるというのがRadioheadの創作スタイルの基になっているからだ。一見脈絡のなさそうな堤の棚も、カササギの巣のように感じてならない。Amia Calvaの音楽性をビシッと言い表すのが私の目標でもあるのだが、もう少し彼の棚の中を隅々まで散策して、その言葉を拾い集めたいと思う。


Amia Calva
2009年ごろから活動を開始。度重なるメンバーの拠点変更を経て、各メンバーが現在の東京・静岡・京都に落ち着く。その楽曲はアイアンポップと称され、強靭なリズム隊とVo.堤の漫画や映画から影響を受けたストーリーを感じる歌詞が特徴。US・UKインディーをルーツとした繊細な楽曲と、レゲエやR&Bから影響を受けたリズム隊が加わることで深いところを泳ぐような独特のグルーヴを作り出している。

ライター:小倉 陽子

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