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公開質問状提出の経過と目的

 発案は、京都でヘイトスピーチ対策を求める市民団体「京都府・京都市に有効なヘイトスピーチ対策を求める会」と、東九条CAN・フォーラムの2団体の事務局メンバーからのものです。昨年2月と9月に、この2団体が共催して、ここ東九条地域・多文化交流ネットワークセンターで、ワークショップと講演会を開催し、昨年4月の京都府議会・京都市会議員選挙の際には、ヘイトスピーチをしてきた候補者が立候補したときの対応を検討してきました。その流れで、この2月の京都市長選挙がせまってきたので、東九条という幅広い多文化共生の取り組みがおこなわれている地域から、市長選挙予定候補のヘイトスピーチ対策に関する見識を尋ねておこうという話が出ました。
 それに加えて、この地域の喫緊の課題として「再開発」の真っただ中に晒されているということがありますから、「再開発」についてどういう考えを持っているかを示してもらい、住民との話し合いを大切にする候補者なのかどうかを何よりもまず確認しておきたいという話が出ました。
 最後にも説明しますが、この公開質問状は、特定の予定候補者の政策を広めることや応援をすることが目的なのではなく、どの予定候補者が新しい京都市長になったとしても、その市長がこの地域の置かれた現実やこの地域の取り組みと真正面から向き合い行政運営をしていくよう、対話の糸口をつかんでおくことが目的です。
 
 京都市長選挙は1人の首長を決める選挙ですから、おさえるべき政策も、選挙の争点も多様です。主要メディアが取り上げている課題は、財政再建、人口減少(なかでも子育て世代の流出)、教育問題、地価の高騰、オーバーツーリズム、都市計画や景観条例のビジョンといったものが中心的に取り上げられています。ここに表れない様々な市政課題がありますが、今回の公開質問状の内容は、子育て世代の流出、地価の高騰、オーバーツーリズム、都市計画の問題と深く関わる市政課題でもあり、東九条地域が晒されている問題というだけでなく、京都市が直面している全市的な問題だといえます。つまり、地域特有の内容であると同時に、京都市に暮らす市民全体に関わる内容だといえます。
 
 公開質問状の質問の意図と目的です。質問項目が3つあり、1つ目と2つ目は、東九条地域――行政施策で言えば京都駅東南部地域の、まちづくりに関する内容です。3つ目はヘイトスピーチ対策に関する内容です。
 まちづくりに関しては、京都市は2017年3月に「京都駅東南部エリア活性化方針」を策定しています。「活性化方針」に示された内容は、まだ達成されていない、と質問状提出者たちは認識しているのですが、予定候補者たちが同じ認識かどうかを尋ねるのがポイントの1つです。それから、この方針をどのように進めていくか、何を優先して進めていくか、何に配慮しながら進めていくかということもポイントです。門川市長の時代に、地域とも話し合いを重ねながら策定したのがこの「活性化方針」ですが、2024年度末で期限を迎えます。内容が未達成のまま来年3月で終えるのか、延長するのか、内容を更新するのかを決定するのが、新市長の仕事です。質問1は、「活性化方針」が地域で解決をめざすべき課題としている4つの課題がいずれも未達成で、公共の役割が求められているという認識を持っているかどうかを確認しています。
 質問2は「活性化方針」の実現方策についてです。実現方策の柱は4つ定められていて、柱➊「日本の文化芸術を牽引し、世界の人々を魅了する創造環境の整備」、柱➋「京都駅周辺の都市機能を強化する魅力的な施設の誘導」、柱➌「若者の移住・定住促進とまちづくりの担い手育成」、柱➍「これまでのまちづくりと多様な新しい力との融合」です。市民目線でいえば「まちづくり」と位置づけられる変化を、事業者は「再開発」と位置づけるかもしれません。柱➊や柱➋は「再開発」と呼ばれやすいのでしょうが、「まちづくり」でもあります。「まちづくり」と「再開発」は重なり合う領域もあれば衝突する場面も予想されます。東九条地域の「まちづくり」と「再開発」は、京都市立芸術大学が移転してきた崇仁地域のそれや、京都駅周辺の「まちづくり」や「再開発」とも密接に連携しています。事業者の目には、大きなスケールメリットをもつ「可能性ある土地」として映ることでしょう。生活者にとってみたら、地域活性化への期待が大なり小なり有るにしても、または無いにしても、大きな不安がつきまとう事業です。
 そこで、予定候補者の見識で注目したかったのは、「活性化方針」の実現方策の4つの柱について、柱❶に優先順位をつけるのではなく、それぞれを連携させながら同時並行で調整しながら進めていく見識を持っているかどうかです。質問2の、①~⑩の項目は、4つの柱のなかの推進項目を抜粋して散りばめてあります。(ちなみに柱❶の項目は①②④、柱➋の項目は③⑤、柱➌の項目は⑥⑦⑧、柱➍の項目は⑨⑩です。)
 
 質問3はヘイトスピーチ対策についてです。東九条地域は歴史的にコリアンルーツの住民が多く住んでいる地域ですし、それ以外の外国籍住民も増えており、観光客が宿泊する施設も増えています。これは東九条に限らず京都市全体の動向とも一致しています。2010年に東九条はヘイトスピーチの対象に晒されたこともありました。2016年に国が法律を制定し、全国各地でヘイトスピーチ対策の条例づくりが進められ、対策が打ち出されているなかで、京都市の現状と課題をどう認識しているかがポイントになる質問です。
 ヘイトスピーチは、民族や国籍に基づく差別に限らず、障害者やLGBTQなどに対してもおこなわれています。幅広い多文化共生の推進とともに、差別を許さず、誰もが排除されずに生きていく社会をつくっていくことの大切さは、東九条地域が歩んできた歴史が教えてくれることでもあります。ヘイトスピーチは許されないというメッセージを、京都市長として全国や世界に発信する考えをもっているかどうかもポイントです。
 対策を考えるときに、ヘイトスピーチを禁止する条例をつくるだけでなく、事件が起きてしまったら真っ先に許さない声明を出したり、差別禁止の宣言を採択したり、被害者に対する支援制度や被害の通報制度を整えたり、加害者に対する反差別研修プログラムを検討するなど、できることはいくつかあります。それらを検討していく姿勢をもっているかどうかもポイントになると思います。
 
 最後に、途中でも述べたことですが、今回の公開質問状によって、特定の予定候補者の政策を持ち上げたり、批判したりすることが目的ではありません。誰が新しい京都市長になったとしても、いただいた回答の中からこれからの「まちづくり」につながる要素を読み取り、その芽を育てていくことが重要なのだと考えています。現職が退任されるのですから、何かしらの変化が起きるはずです。とはいえ、市長が1人で政治をするわけではありません。市民の活動、住民の活動があってこその社会づくりであり、まちづくりだと考えています。今回集まった回答をじっくりと検討して、新しい市長と対話をしながら、京都駅東南部のまちづくりについてともに考え、取り組んでいきたいと思います。

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