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舞文弄墨

舞文弄墨(ぶぶんろうぼく)
[隋書・王充伝]
意味:詩文を生み出すに表現技巧を弄び、身勝手な論理を組むこと。法の条文を曲解しこれを濫用することにも言う。
類義語:舞文弄法/曲筆舞文

※以下の文章に出てくる人物の名前はすべて実際とは異なります

部活の思い出:出会い

「……聞いたか?柳井。うちの高校、やっぱ部活加入は強制らしいな」
「うわぁめんどくさぁい。なあ西川よ、ここ一応進学校だよな。なんなの?ブンブリョードーってやつ?」

あからさまに俺が顔を顰め肩を竦めてみせると、西川は苦笑とも失笑とも嘲笑ともつかぬ表情を向けてきた。

「お前はそもそもこの高校に入ってくる動機が不純だろう」
「なかなか言ってくれるね西川君。知り合って間もないやつの放つ台詞とは思えんよ。こんな男と趣味が同じだなんてストレスが溜まりそうだ」
「おいコラ。お前が自分で言ってたんじゃねえか」


高校1年、4月。
クラスの一人一人が自己紹介する年度初めの恒例イベント。
そこで、文章を読んだり書いたりするのが好きだという共通点があることが分かったことから、俺と西川はすぐにつるむようになった。

西川は、文章を書かせては実に軽妙洒脱で、ファンタジー系ライトノベルの文体の作法が身に着いている人物だった。
後になって俺もラノベを書いてみたいと思って挑戦したのだが、いざ書こうとしてみると全然「ライト」なんかじゃない。ものすごく技術もセンスもいるということが分かり、あっさり断念したのを覚えている。

加えて西川は、中学校では生徒会長を務めていたそうで、弁が立ち人心掌握も巧みだった。

「まあ、動機が不純ってのは認めよう。前も言ったけど、進学したいわけじゃないからね。校則が緩いっていうのが気に入ってここに来ただけなんだわ。俺自身としちゃ、限りなく純粋な動機のつもりだけどな」
「……で?実際どうするんだ、部活は」

改めて問われ、部活と同好会(部員数が規定を満たさず、部室と部費が支給されない集まり)の一覧が載ったプリントを眺める。

そういえば、小学校からずっと一緒の小山優香ちゃんは漫画研究部だったっけ。
その漫研の同じ先輩メンバーが文芸同好会も作っているらしい。

「あの……俺と同じ中学校から来た小山って子が教えてくれたんだけどさ、文芸同好会にしようと思う」
「柳井、何だその脈絡のない前後関係は。限りなく不純な動機を感じるぞ」
「あれ?女の子って教えたっけ?」
「お前は女子の場合絶対『子』って呼ぶだろ。男は『奴(やつ)』だな」
「おう、よくご存じで」

どこまでもいいようにあしらわれてしまったが、西川はなんだかんだで一緒に文芸同好会に入ってくれた。

高校2年になって西川とはクラスが離れてしまったが、部活(俺と西川で頑張って部員を集めて同好会から昇格させた)ではほぼ毎日顔を合わせていたから特にどうということもない。
また、予め相談してそれぞれのクラスで図書委員に立候補し、図書委員会内でも互いに役員に推薦し合って、ふたりして本と文章に塗れる3年間を送ったのだった。

ちなみに、小山優香ちゃんとは3年の間何のイベントも発生しないまま卒業を迎えた。
心残りだったとか勇気が足りなかったとか、そういうことは少しも思っていない。思っていないのだ。

※キリがいいのでここまで。その気になったらほかにも書くかもしれない。

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