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小松倫世さん(TAKUHI. cafe & lifestyle) -食の伝統、日々を楽しむということ-

To Be Dozen』プロジェクト
 2020年から現在まで、新型コロナウイルスの影響で島前地域の多くの人々の生活や交流に変化があったが、この変化は島前地域の魅力について深く考える一つのきっかけにもなったのではないだろうか。そして、この島前地域はこれから、さらなる変化を遂げていくことだろう。
 そんな今、「働く場所が島前である」「学ぶ場所が島前である」「人生の1ページを刻む場所が島前である」意味はなんなのか。「島前が島前である」ためには何が大切で島民は何を願うのか。そんな島前地域の人々のストーリーと想いをのせた記事を作りたい。そして、これから私たちはどこへ向かうのかを皆さんと一緒に考えたい。        
                    隠岐島前高校2年 高橋恭介

島らしさとは一体どんなものなのだろうか。伝統文化、大自然、はたまたその他の何かか。皆さんもこの島らしさ、魅力や愛すべき文化について一度は考えたことがあるのではないだろうか。

だが、意外とそういった魅力は日常に潜んでいても気づきにくいのかもしれない。例えば、普段の住民同士のやり取り、毎日のご飯、家から目と鼻の先の海。そんな島暮らしの心地よさのありかを教えてくれた場所が、西ノ島町大山地区にある「Cafe TAKUHI.」だ。


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住む中で見つけたカタチ

西ノ島町の大山地区は比較的小規模な集落で、目立った公共の施設などは存在せず、住居と牛舎が点在し、穏やかな海がが広がる。そんな場所で「Cafe TAKUHI.」を切り盛りするのが、今回お話を伺った小松倫世さんだ。

小松倫世(こまつ ともよ)
1981年生まれ・隠岐の島町出身 / 看護師免許を取得後、静岡県で看護師として就職 / 2008年 西ノ島町へ移住 / 2018年 Cafe TAKUHI. オープン

小松さんは隠岐の島町の生まれで、中学生までを地元で過ごし、高校入学時に全寮制の学校で学ぶため本土に出た。小さい頃から隠岐の自然に触れながら生活をし、家の畑や田んぼ、牛の世話を手伝っていたという。そんな小松さんの西ノ島との出会いは14年前、第一子を出産して「自分が育ったような地域と大自然がある場所で子育てをしたい」と考えていたときだった。

それから一度は隠岐の島町に戻ったが、ご主人の仕事の都合で西ノ島に行くことになった。それと同時に「子供たちが周りを気にせず自由に思いっきり遊べて、自分たちも畑をしたり、牛を飼ったりできる場所に住みたい」という気持ちがあったため、大山地区に移住を決めたという。それからは保育園で看護師として働きながら、仕事と育休を繰り返して四人のお子さんを育てた。その間に趣味として料理と畑も続けていた。そして、ある程度子育てにも区切りがついた頃、小松さんは、港に西ノ島特有のお土産が少ないことや、この島の郷土料理に関心があったことをきっかけに”島ならではの食”を体験できるような商品を開発しようと決意。最初は工房だけを作る予定だったが、古民家を借りられることになり、今の ”カフェ×ゲストハウス” の形になった。

大山地区(奥:Cafe TAKUHI.)


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郷土料理は島の伝統そのもの


今、小松さんは隠岐の郷土料理(家庭料理)をメインとして提供している。日本は南北に長く、自然に恵まれ、四季もあるので、様々な郷土料理が存在する。この郷土料理が地域の伝統や文化、自然を知るものさしとしての役割を果たしていることはみなさんの知るところだ。だが近年では、少子化や地域との関わりの減少によって料理の知恵の継承が難しくなってきている。小松さんは ”郷土料理は料理の枠にとらわれない、暮らしの伝統そのもの” だと語る。

「島らしいもの、島だから残ってきたもの、伝承されてきたものって、他のどこからも得ることのできない自然の恵みであり、地域の歴史でもあると思うので、それ自体が残っていくことは、人の営みとしてはごく自然なことだと思うんです。残らないものは残らないけど、みんなが残したいと思ってるものはやっぱり良いものだから。だからこそ、私自身が上の世代の人たちと同世代・下の世代をつなぐ中間の役割をやっていきたい。」

しかし、郷土料理は基本的に家庭料理であり、その家庭料理を商業化するのはとても大変なことだ。小松さん自身、「家庭料理にお金を払って買ってもらう」ということについて深く考え、メニューや味付け、盛り付けなどいろいろなところに付加価値をつけていきながら、日々試行錯誤を続けている。最近では、一般的な外食産業とは違う、家庭料理の素朴な味付けや島のものを使用しているというこだわりをちゃんと感じ、懐かしんでくれる人が増えているそうだ。

「『野菜がこんなに美味しく食べれる料理はすごく珍しい』とはよく言っていただけますね。野菜中心で野菜がちゃんと味わえるっていうことが新鮮に感じられるみたいです。販売しているお弁当でも、メインよりも『副菜がすごいよね』って言っていただけることが多くて。その辺はお母さんたちがお家でやっている、同じ食材を使っていろいろなレパートリーの料理を作るっていうのと同じだと思ってるんです。

また食べたいっていうおかずができたり、季節が巡ると旬な野菜のいろいろな顔が楽しめたりするみたいな。簡単に作れるものだからこそ、ぜひ家で真似てみてほしいと思っています。郷土料理がそうやって広まっていく、根付いていくっていうことにすごく意味があると思うので。」

食だけでなく、暮らしを提供する場所

そしてもう一つ、この場所で小松さんが提供しているのが ”ライフスタイル” そのものだ。ライフスタイルは、広い意味では「生活の様式や営み方」を指すが、今では「人生観・価値観・習慣などを含めた個人の生き方」を表す言葉として使われるようになってきている。実は「Cafe TAKUHI.」の正式名称は”「TAKUHI. cafe & lifestyle」。このライフスタイルという言葉には、「島の伝統」や「島の食」という意味も含まれているが、それと同時に ”日々の暮らしを楽しむ、季節を楽しむ” ことを体験できるという意味があると小松さんは教えてくれた。

「西ノ島に引っ越してきた頃から地域のおばあちゃんたちに郷土料理の作り方や味を教わってきたんですけど、そのおばあちゃんたちが、節句にお餅を作ってくれたり、ひな祭りの時に菱餅を作ってくれたり、すごい細やかに行事食を振る舞ってくれたんです。『栗ご飯炊いたよ〜』とか、『ちらし寿司作ったよ〜』とか、『これが取れたけん、これしてみたわ〜』とか。とにかくその季節に合わせて、楽しみながら食事を作っていらしてたんですよね。

そのときに、そういう ”自然な島の生活” や ”季節の流れと生活の流れが一緒にある” ことの心地よさを直に感じることができたんです。最近も地域の方が『今年の初物だよ!』って岩のりを持ってきてくださって。それを、ストーブで炙っておにぎりにして食べたんです(笑)もうそれだけで私は満たされました。岩のりだけで。」と小松さん。

他にも、昔からなめ味噌はお盆が開ける(涼しくなる)タイミングで作り始めていたことなど、地域の人たちの知恵や習慣などを教えてくれた。小松さん自身、今は春には山菜、夏にはサザエや鯵、寒くなったらイカをとって日々の生活を楽しんでいる。

「最近になって『ライフスタイルが』って言われてきたけど、昔の人はそれをずっとやってきたと思うんです。農家の人って自分の家や土地が仕事場だから、畑で農作業して、家に帰って加工品を作って、っていうのが暮らしの中にちゃんとあって一年中ずっとそれが続くんです。その ”季節感” っていうのが暮らしとかけ離れてしまったのが現代の生活だと思うんですけど、地域の人を見ていてもまだここは残ってるなって感じる部分がすごくあって。つまるところ、自然にあわせることは人として楽に生きるコツなんです。」


ヤギの世話をする小松さん


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みんなのお母さん

”カフェ×ゲストハウス” のサービスのなかで島の暮らしをそのまま提供する小松さん。その周りにはおじいちゃんおばあちゃんから高校生まで、幅広い世代が集まり、さらに環が広がっていく。数年前からは念願であった牛とヤギも飼い始め、多くのイベントを開催するようにもなってきた中で、最近は『ワークショップを開いてほしい、教えてほしい』という声が大きくなってきた。

「島の暮らしがつくってくれた『Cafe TAKUHI.』が今度はみんなの暮らしと地域での思い出をつくる場所になっているんです。今ではいろんな高校生がお手伝いとして来てくれて、そこで料理を教えることが実はワークショップの練習になってたりします。ここで私が好きなことを好きなだけやっているところや子育てを楽しみながら働くところを自分の子供や高校生に見てもらって、大人になってもし島を出ていくことになっても『こういう生き方もあるんだ』と覚えておいてもらえたら嬉しいですね。 ”TAKUHI” は『HIびのKUらしをTAのしんでいたな』ということなんです。」

ここでは今日もまた、食べることを通して誰かが島と繋がる。


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