エンジニア上がりのマネジャーがPdMを経験し、GMへと変わっていった時の闇と光

エンジニア上がりのマネジャーがPdM(Product Manager)を経験し、GM(部長)へとロールを変えていった時に感じた闇と光の記録です。弱いマネジャーである僕が見つけた生存戦略であり、2019年の振り返り。

Who am I ?

・BtoBのマッチングサービスのベンチャー企業勤務
・エンジニアリングはそこそこ好きだが、趣味でやるほどではない(元々ゲーム作りたかった人)
・エンジニアを2年ぐらいやった後にマネジャーになった

PdMへの誘い

へーしゃでは取締役の方が事業企画とPdM、その他諸々を兼務するような、その人に強烈に依存するような組織でした。その方は仕事をこなすという点においてスーパーマンでしたが、流石に仕事量に埋もれていく現実があり、2019年の1月にPdMのロールの白羽の矢が僕に立ちました。

僕としては正直プロダクトが好きで好きでたまらない人間では無く、厳しいかなとも思っていましたが、エンジニアのバックグラウンドがあるので、技術的なタスクの優先順位は僕の方が上手く判断できるかもしれないという考えとその方のタスクを軽減すれば全体最適化としては良い方向に進むかもという思いから引き受けてみることにしました。

グレーゾーンの意志決定

今振り返ってみると当たり前なのですが、優先順位を付けるというのは簡単ではありませんでした。ビジネス、サービスとしての数字に関わる開発タスクと継続的な開発を支えるための補修タスク(いわゆるリファクタリングなど)を同列に簡単には比較できないのです。

故にPdMになったときから僕のミッションの一つがこのどれが正しいかなんて分からないようなことに自分なりの考えを付与して意志決定をする事になります。この手のグレーゾーンの判断はみんながみんな賛成するようなことはありません。どれが正しいかは分からない…それでも決める以上はその決断の責任を分散させるわけにはいきません。故に最後の決断は自身が決めることとなります。こういったことが徐々にマネジャーや上層レイヤーの人が孤独になっていく要因なのかなと思いました。

PdMになる前はもっとサクサクといろんな意志決定をし、より良い判断が出来る物だと思っていましたが、そう生ぬるい物ではありませんでした。

開発が出来ないことによるアイデンティティの崩壊

PdMは日々メンバー(自部署以外にも全方位から来ます)から上がってくるプロダクトに関する質問に答えたり、数字を上げるためにどうすれば良いか、プロダクトを成長させるためにはどうすれば良いか、リソースが足りないときはどうすれば良いか…割り込みと思考に埋もれる多忙なロールです。なので僕がエンジニアとして開発することはほぼ無くなりました。

元々エンジニアリングは多少できたのでそこがマネジャーとしての自分の拠り所でもありましたが、開発をしなくなることでどんどんエンジニアリング力は減っていきます。周りにいるエンジニアの方がどんどん新しいスキル、開発経験を積んで自身の武器を磨いているのをとても羨ましく感じたことを覚えています。

無論、時間外にエンジニアリングをすれば良かったと思いますが、PdMとしてのスキルが圧倒的に足りていない中、おのずと勉強もPdMの方向性に向かいます。また、そもそも技術を触っているだけで楽しくなれる人では無く、日々現実に直面する中で技術の勉強をするMP(メンタルパワー)は僕にはありませんでした。この頃の僕の拠り所はニコ動を見ることでした。

されど数字は上がらず

PdMとなっての僕のミッションは会員登録数を上げることでした。上場時に必要とされうる会員数から逆算して目標を設定しました。それは高い目標ではありましたが、会員登録へのハックとしてはまだまだやれてない部分も多く、半年の期間内に跳ね上がる可能性はあるのではないかと考えていました。

仮説を立て、ABテストをして検証し、反映して…やっていたことは間違ったことではなかったのですが、立てた目標からの現数字のギャップを埋めるのであれば小さなハックを積み上げるより、その半年で賛否両論あるような大きなアクションを踏むべきでは無かったかなと今思います。

ただ、この賛否両論ある決断というのは、元々人前に立つのが苦手で皆を率いていくようなリーダーのタイプではない僕がすぐにやるというのは難しいものでした。結果として安定を取りに行き、小さなハックから始めることとなります。

グロースハックの本や記事では「1つの変更でN倍の変化が!?」みたいなうたい文句があったりして、数多くの施策を打てばどれかは跳ねるだろうと考えていたのですが、僕のチームが行った40,50ぐらいの施策のうち、明らかに効果があったと言えたのは1,2個でそれ以外はほぼよく分からない結果となり、効果があった物も凄い変化と言えた物ではなかったです。

チームの皆は少ないリソースの中で良くこれだけの数を回してくれたなと思いますし、そのアイデアを考えるのも大多数をチームに委譲していました。本当にチームの皆には感謝しています。

PdMをやめたい

なかなか数字が上がらず、開発も出来ず…こうなってくるとふとしたときによぎることがありました。

「僕はこの会社ではまだ価値があるかもしれないが、僕の市場価値は無に等しいのではないか」

僕がやっていたことは意志決定と各部署への連携作業が主で、意志決定というとかっこよく見えますが、この時はCVR(会員登録してくれるお客さんの割合)を上げる施策はチームに任せ、流入セッション(お客さんの数)をどう上げるかを考えているだけです。ぶっちゃけたいした意志決定はしておらず、意志決定から逃げていた時期だとも思います。

そして開発スキルも失われていく中、僕はこの会社以外ではたいした価値がない人ではないかと焦りも感じていました。元々、一番安定する方法は自身のスキルを磨き続けることで、市場価値がある限りはいくらでも仕事はあると考えている人でした。それ故にこの会社でしか生きられなくなっていきそうな自身に焦りがあったのです。

ここでその焦りからもっと勉強しよう、PdMとしての市場価値を上げようといけるほど強い人では無かった僕は、この頃からよく代表に「PdMをやめたい」と相談するようになります。相談するたびに「もうちょっとやってみい」と言われ、もうちょっとだけ、もうちょっとだけを繰り返していました。

周りをだまし、自分をだます

何とかだましだましPdMを続けていた僕ですが、PdMとして求められるスキルの幅の広さに打ちのめされ、僕が特に必要である要素と考えていた「プロダクトへの愛」「業界ドメインへの理解」「新規サービスへの感度」「お客さんとの対話と理解」これら要素の全てに欠けていて、かつ強烈にそこを学びたい、PdMのスキルを武器にしたいという意欲も無かった僕はそうした理想のPdMと現実の自分との狭間に悩むことになります。

ただ、これを素直にチームの皆に言えるほど強くなかった自分はこれを隠し、皆の前では何とかPdMであろうとしました。周りをだまし、自分自身をだまし…そうした日々が続いていました。

PdMを譲る

2019年の半期が終わり、会員登録してくれるお客さんは前より増えましたが、目標数字には大きく未達でした。悔しさや申し訳なさもあり、やっぱりPdMは無理だと再度思った時でもありました。

このタイミングで僕のチームでCVRの施策を主導してくれていたデザイナーの方にPdMを譲ることとなります。ミニPdMとして僕の下で動いていてくれたその方がいたこと、その方がPdMのロールを快く引き受けてくれたこと、そしてその方がデザインしなくなることによる穴を丁度埋めてくれる強いデザイナーの方がJoinしてくれたこと、全てがかみ合って譲ることが出来ました。

「エンジニアリングするんじゃなかったの?」

PdMを辞めた後、エンジニアリングに戻ろうと思っていたのですが、経営企画をになっていた方が退職されたため、僕が数字指標を出す部分の仕事を引き継ぐことになりました。これを機に僕が経営的な数字を見る機会がぐっと増え、全ての会社のデータに触れるようになりました。元々、最適化や問題解決が好きでストラテジーゲームも好きな僕にとって、会社の状態が分かる情報というのは見ていてとても楽しい物でした。

元々楽しいこと、面白いことがしたい僕にとって、この領域は自分にとって面白い領域でした。PdMの業務を引き継ぎ終わった後、僕はエンジニアリングには戻らずに経営っぽい方向に進むことになります。

経営っぽい方向に進んだのは、今この会社で最も自分に求められていた仕事に見えたこと、エンジニアリングに戻ることは出来たが、既に社内にスーパーエンジニアが2名いて、その方達と技術で肩を並べた上でマネジャーとしてバリューを出すのは、エンジニアリングに相当コミットしないと厳しいと感じたことの2点が理由です。

「PdMをやってた頃より、今の方がPdMっぽいね」

PdMを譲った後に主に自分がやっていたことは、人のマネジメントとPdMの方のサポート、そしてデータを集め経営やプロダクトの状態を可視化する事でした。

PdMを譲り、新たにPdMになった方と二人三脚でプロダクトの方向を考える中で、割り込みが強烈に減り、直近のことはPdMの方に任せていた僕にはプロダクトと会社、チームの将来を考える時間が生まれ、経営的なデータも全て手に入れることが出来た僕は今後どうやって行ったらプロダクトが、会社が、チームが成長出来るかを部を横断して考えるようになってきます。

そしてデータからこのタイミングでこうした方が良いという自分なりの意志を持てるようになり、やらねばならないことに対しても自身で腑に落ちることが多くなってきました。元々、納得できないことをやるのが嫌いな自分にとってこれは大きな変化でした。そしてちょっとずつ意志決定にも覚悟を持てるようになってきたのです。それはやはり自分自身が納得しているからなのだと思います。

自身の武器を見つける

PdMをやっていた頃は自身の弱みの部分を求められることが多く、上手くいっていないときに弱みを改善しようとするのは難しかったです。

経営っぽいことに関わるようになって、データを出す、処理するという点においてエンジニアのバックグラウンドやプロダクトの内部構造を理解していることは役に立ち、また本を読むこと、考えることは結構好きなことで、僕にとって自然とやれることでした。ぶっちゃけ誰もがやれそうなことではありましたが、時間外にコンテンツを消化して楽しむ、気を紛らわせる以外に僕が自然と出来ることがあるというのは一つの発見でした。もちろん気持ちが前向きになってきていることも大きな要因だと思います。

そして経営書やマネジャーの本を読むうちに、強みで戦って、弱みは誰かにカバーして貰いつつ、徐々に変えていけばよいと思うようになりました。この頃から仕事の大半が自身がやりたいからやっていることになり、周りや自身に対してだまさなくて済むようになってきました。

素直に誠実に接する

本からいろんな考えを知るうちに、僕は自身と周りに素直に誠実に接するのを心がけるようになります。これはあらゆる事を取り繕わないことで、今考えられてないことは考えられてない。悩んでいることは悩んでいる。判断がついていないことはついていない。出来てないことは出来てない。と、ぶっちゃけ理想のリーダーやマネジャーが周りに出さないようなことも素直に出すということです。

これは元々、自身と周りをだまして、歯を食いしばって理想を作り上げ続けるほど強くない自分にとっての生存戦略になりました。全てをオープンにし、嘘をつかないことで皆に助けて貰う。自分で全てをやらず、周りの皆に助けて貰う。ただし最後の責任は自分が負う。そんなスタイルです。

このスタイルにしてからは凄い楽に生きられるようになりました。出来ない物は出来ないからしょうがないので誰か一緒にやってくれないか、もしくはお願いできないか。そういう感じです。

マネジャーのおしごとと、責任

先の節で「責任」という言葉が出てきたので僕なりの責任の定義を書いておきます。

マネジャーの仕事(マネジメント)とは「決めること」「責任を負う」事だと思っており、それに対して会社は多くの報酬を払っていると思っています。

「決めること」とはプレイヤーで意志決定できないグレーゾーンや、情報が少ない物にも意志決定を下すこと。賛否両論が渦巻く中でも意志を示し、方向を決定づけること。

「責任を負う」とは意志決定した物に対して、最後までやり切ること。やり切るとはいくら失敗しても最後には成功の形へ持っていくこと。と今僕は考えています。PdMを結果としては譲った僕ですが、譲ったなら譲ったなりに僕の後にPdMになってくれた方を成功させる責任があると思っています。

僕は何をしている人だ?

僕は元々PdMになる前も「プロダクト部 部長」の肩書きだったのですが、PdMを譲った後も僕は「プロダクト部 部長」でした。つまり僕の下にPdMがいる状態です。

プロダクトの最終意志決定はPdMに任せている現状、プロダクトの最終意志決定を下さない部長というちょっと不思議な形になります。また、仕事内容もあらゆる部署を越境して調整することが多くなり、自分の職種がよく分からなくなる時でもありました。

そして、PdMとしてメキメキと力を付けていくPdMを見て、ふともうちょっとPdMを続けていた方が良かったのではないかという思考がよぎったこともありました。

やりたいことが分からない僕の生存戦略

元々僕はやりたいことがない人でした。それは今も変わって無くて、時たま何故この仕事をやっているのか、何故ここにいるのかを自身に問うてみても、なかなかいい答えは出てきません。

ただそんな中でも僕の行動指針となっているのは恐らく「楽しいこと」「面白いこと」「知的好奇心が満たされること」であり、今の仕事を続けているのは「会社が上場したときの景色を見てみたい」という欲求、そして「こんな不思議な会社が上場したらそれは最高に面白い」と思っているからなのでしょう。(※不思議な会社というのは、いろんなバックグラウンドを持った多種多様なメンバーがいる。しかも一度人生のレールから僕含め外れちゃっているような人がいること)

そんな僕が今、考えている生存戦略は「データエンジニアリング」と「経営」の掛け合わせです。

「データエンジニアリング」ではデータの収集、可視化、仮説の裏付け、新たな気づきを見つけることを行います。へーしゃではデータや情報のオープン化を進めていますが、それでも定性、定量的にデータが入ってきやすいポジションですし、プロダクト、サポート、セールス全てのデータを横串で突き刺して分析できるのは強みになると思いました。

これに「経営」を掛け合わせてデータを用いた意志決定を経営の高い視点で行うことが出来るようになれば、それはちょっとはレアリティがあるスキルかなと思っています。

ただしデータに関しても経営に関しても素人同然なので、どこまでやっていけるかは分かりませんが、やってみようかなという想いとちょっとだけ決意を込めてここに書き記しておきます。

正直1年前はこうなるとは思って無く、振り返ってみると僕の中で大きな変化が起きた年でした。来年の今頃、どんなことをやっているのかまだ想像できませんが、前向きに何かをやれていたら良いなと思います。



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