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安治川部屋の朝稽古見学に行ってきた

安治川部屋は、とてもユニークな相撲部屋だ。
そして、今、最も新しい。
6月に完成したばかりの部屋は、4階建てで、エレベーターもついている。
玄関先でもヒノキの良い香りがする。
場所は現代美術館やブルーボトルコーヒーがあるおしゃれエリア、清澄白河駅から徒歩18分ほど。途中にある下町資料館周辺には昔ながらの商店街もあって、下町情緒も楽しめる。

朝9時に着いたら玄関先で呼び出しの安希隆が迎えてくれた。
力士は、現在4人。
先場所で序の口優勝した安大翔(あんおおしょう)と序二段の安櫻は、ともに18歳。ウクライナ出身の安青錦(あおにしき)、本名ヤブグシシン・ダニーロは19歳。安強羅(あごうら)は24歳。ブラジルにルーツを持つ安強羅の四股名はポルトガル語のアゴーラ「今」ということばから。いい名前!
そして呼び出しの安希隆(あきたか)は17歳。
若い!

安青錦ことダニーロは、2019年に相撲の世界大会アンダー18歳の部で3位入賞。その後もウクライナで相撲を続けていたが、2022年2月にロシアによる侵略が開始され、母親と共にドイツに避難する。
相撲の稽古もままならない日々を送っていたが、世界大会で知り合った関西大学相撲部主将の山中くんを頼って来日。しばらく山中くんと生活しながら、関西大学で稽古をしていたそうだ。
縁あって、安治川部屋に入門を決める。先日、興行ビザも無事に取れたそう。

実はダニーロが出国できたのも、奇跡的だった。戦争が始まり、2月28日にゼレンスキー大統領は、18歳以上の男子の出国を禁じる。
この時ダニーロは17歳で、誕生日は3月23日だった。
開戦があと1か月遅れたら、誕生日があと1ヶ月早かったら、彼は出国できていなかったかもしれない。
それどころか兵士として戦っていたかも知れない。
試合で会っただけの山中君と連絡先を交換していなければ日本に来なかったかも知れない。うち来れば!って言っちゃう山中くんの漢気もすごい。
夏でも平均気温30度以下のウクライナから来て、激烈に暑い東京で玉の汗をかきながら相撲を取ってるなんて、一年前は想像ついただろうか。安青錦は今場所の前相撲が初土俵になる。

安強羅の本名は飯間ルーカス一夫(かずお)。
お母さんがブラジル人でお父さんが日系ブラジル人。ポルトガル語が飛び交う環境で育った。日本国籍を取得したのは昨年だ。
大学ではラグビーをやっていて、相撲はしたことがなかった。卒業したら相撲部屋に入りたいと思っていたが、大相撲の規定では23歳で相撲の経験がない人は入門できないそうだ。
そこでルーカスは、大学の協力もあって、ひとりで相撲サークルを立ち上げ、半年間の相撲経験を作った。大学には相撲部がなかったからだ。…と、いうネットの記事を読み、その時、掲載されていたルーカスの写真を見てから稽古を見たんだけど。本当に驚いた。
写真より、ずっと大きい。生で見た感想と言うより、この写真を撮った時からさらに大きくなっている印象。そして、ひとり相撲部で、相撲経験は、ほぼないのに、子どもの頃から相撲をとっていた他の力士に全く引けを取らない(素人の私の感想です)相撲をとってる!
ポテンシャルは絶大だよ。

安櫻は青森出身で親方の甥っ子、安大翔は宮城県出身。小三から相撲を始め、高三で東北大会優勝、卒業と同時に安治川部屋に入門した。

そして最年少の呼び出し、安希隆17歳。
呼び出し初デビューの動画を見たら、扇子を持つ手が震えていたけど、とてもよく通るいい声で佇まいも美しかった。

そんな年齢もバックグランドも異なる5人を率いる親方安治川、元安美錦関は、もうなんというか神様みたいだった。おいそれと声をかけられない雰囲気だけど、包みこまれるようなオーラ。ふっかふかの分厚い座布団にどっかり座る姿は、大黒様か恵比寿様みたい。

9月場所は10日から。俺たちの旅はここから始まったぜ!!


呼び出しの安希隆。朝9時に部屋に着いたら入り口で迎えてくれた。呼び出しは人数が決まってるそうで、あと2年しないと枠が空かないとのこと。笑顔が爽やか。


左から安櫻、安青錦、安強羅。安治川部屋の力士は、頭に「安」が付く。安櫻と安強羅はともに名古屋場所では勝ち越した。安青錦(あおにしき)の名前の由来は、目が薄いブルーだからかな。
名古屋場所で序の口全勝で優勝した安大翔(あんおおしょう)。
激しく体と体ぶつかり合うカパーン!!という独特な音は、その場の邪気を払うような迫力。目が覚め身が引き締まる。「相撲は神事」というのが少しわかった気がする。
弟子に胸を出す安治川親方。まわしを巻いて登場した時は「おおっ!」という低い歓声が起きた。
稽古の後は神棚に向う。全員髷を結っていないし、2人が外国人の風貌だからか、現代日本の「神道」というよりも、古代日本のアニミズム信仰のような不思議な雰囲気を感じる。
安青錦に胸を出す安大翔。ぴっちりオールバックにしていて髷を結った時の姿が一番想像がつく。安治川部屋には、今、鬢付け油の匂いはしない。檜のいい香りがする。
2階のちゃんこを食べる部屋の襖には、葛飾北斎の富嶽三十六景のひとつ「深川万年橋下」が描かれていた。この万年橋は、今でも鉄筋のアーチが美しい萬年橋として現存する。サンクチュアリで部屋を逃げ出した猿桜が清水に着けられながら渡った橋だ。隅田川を左に臨み、この橋を渡って直進すると両国に着く。安治川部屋からは徒歩20分ほど。近くには高田川部屋もある。


襖に描かれた錦絵は、どちらも葛飾北斎の富嶽三十六景。白木の床に白い壁、外光も入る明るい印象の内装。
二階へ上がる階段の壁には、二代目歌川国貞の「勧進大相撲取組之図」が描かれている。相撲を文化として身近に感じて欲しいとの親方の思いから。


稽古場に掲げられている名札。まだまだ余白はたくさん。これからどれだけ力士が増えるのか、番付はどこまで上がるのか楽しみになる。


稽古を見る安治川親方の背中。
安櫻と安青錦。後ろの絵は富嶽三十六景の一つ「相州梅澤左」。青い富士に二羽の鶴が舞う縁起がいい錦絵。
安強羅と安大翔。後ろは安青錦。


安治川親方の背中

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