「「海と毒薬/遠藤周作」読み終えて」

144「一人の人間をたった今、殺してきた痕跡はどこにもなかった」
158「「何が、苦しいんや」「あの捕虜を殺したことか。だが、あの捕虜ののおかげでナンセンの結核患者の治療法が分かるとすれば、あれは殺したにゃないぜ。生かしたんや。人間の良心なんて、考えよう一つで、どうにも変わるもんやわ」」
134「これが人間を殺している俺の姿や。これが殺人の姿なんかな。だか、後になってその映画を見せられたとき、別に大した感動が起きるやろうか。
言いようもない幻滅とけだるさとを戸田は感じた。昨日まで彼がこの瞬間び期待していたものは、もっと生々しい恐怖、心の痛み、烈しい自責だった。
だが床を流れる水の音、パチ、パチと弾く電気メスの響き、それらは鈍く、単調で、妙に物憂い。」

【関連】
・「手紙/東野圭吾」
加害者、加害者遺族側の視点・報道の無力さ
・「オウムと死刑」
残虐な事件を起こした加害者も一人間であった・報道の難しさ
・「海辺のカフカ」・「夜と霧」
ユダヤ人大量殺害を行ったナチスドイツも、そこには性格を、生活史を抱く一つ一つ生きる個人があったということ。責任分散の難しさ
・「群衆心理/ギュスターヴ・ル・ボン」
集団の恐ろしさ
・「砂の城」・「水俣天地への祈り(写真家ユージンスミスについて)」
医療は必ずしも「善」とは言えない?・報道では排除される部分について焦点を当てる・報道表現の難しさ

・最初が勝呂が別の場所で医者をしていて、その患者の視点から始まるというのが、読み終わって作品に思いを馳せる中で、際立って意味を持っていくように感じられた。人生は続いていく。でも、過去の点は変えられない。でも、今まで刻み続けてきた点の全てを他者にわかってもらうことは不可能。人はどこまで行って孤独であり、ただただ自分が刻んだ点に責任を持たないといけない。その事実に対して深く自覚的であること。その上で、なるべく慎重に思いを乗せて今日の、今この瞬間の点を打ち続けることしかできないということ。

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