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分別管理義務(その3)

分別管理義務に関しては、金銭について特殊な考慮が必要になります。

金銭については、所有と占有が一致するという考えが判例・通説となっています。
証券売買の取次ぎのために証券会社に預けた金銭は、問屋理論からすれば依然として顧客のものとなるはずですが、そうはならず、所有と占有の一致という金銭の特殊性により、証券会社のものになると判断されるおそれがあります。
そうなっては取戻権の行使により資産保全を図ることができなくなってしまいます。
そのため、証券会社は、このような金銭を信託することが義務付けられています(金商法43条の2第2項)。

信託された資産の所有権は委託者から受託者に移転します。
証券会社(委託者)のものではなくなりますので、証券会社(委託者)が倒産しても倒産財団を構成せず、顧客が証券会社に預けた金銭は保全されることになります。

もっとも、信託の設定はそれなりに手間がかかるものでもあり、あらゆる業者の全ての場合に金銭の信託を義務付けるのは現実的ではありません。
そのため、顧客資産保全の観点からは十分でないことを認識しつつも、顧客から預託を受ける金銭について、信託までは義務付けず、業者の分別管理義務のみが定められることもあります。
この場合は、業者の資本要件や当局の管理監督などを通じ、全体として顧客の資産保全を図っていくことになります。

以上を踏まえ、金商法43条の2を読んでみてください。
立て板に水を流すように、立法意図が伝わってきませんか?

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