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投資顧問付年金特金がプロ私募の対象となるか(その2)

前稿では、投資顧問付年金特金は、信託銀行を勧誘の相手方とみなし、一般投資者に有価証券が交付されるおそれのない信託の契約に基づくことによってプロ私募の対象になっていると説明しました。

以前は、厚生年金基金が投資一任契約を締結する場合、当該年金基金は信託銀行と特定金銭信託契約を締結しなければなりませんでした。
「金銭信託」は、信託終了時に換価のうえ金銭で交付する信託であり、一般投資者に有価証券が交付されるおそれのない信託です。
つまり、通常のスキームに基づく限り、投資顧問付年金特金がプロ私募の対象となることに(信託銀行を勧誘の相手方とみなすこと以外に)疑義はありませんでした。

しかし、2000年の年金制度改正により金銭信託の要件が撤廃されました。これによって、特定金外信託により、信託終了時に換価せず現物で返還することが可能になりました。
また、預ける財産が金銭のみの信託(金銭の信託)ではない、金銭と有価証券を包括して預ける信託として、特定(包括)信託も利用されるようになりました。特定(包括)信託では、信託終了時に換価せず現物での返還が可能になっています。

このような信託は、一般投資者へ現物(有価証券)で返還されることがあり得るため、一般投資者に有価証券が交付されるおそれのない信託といえないのではないか、このような場合に投資顧問付年金特金がなおプロ私募の対象として認められるかという問題が生じました。

これについて、日本投資顧問業協会は、信託銀行と締結する信託契約が特定信託契約であっても、当該特定信託契約に、信託終了時における委託者への信託財産の交付が現物ではなく金銭により行われる旨の定めがあれば、なおプロ私募の対象として認められるとの考え方を示しています(日本投資顧問業協会2002年7月30日付投資一任会員宛通知)。
なお、ここでいう特定信託(契約)は、特定金外信託及び特定(包括)信託の趣旨と解されます。

もともと、年金制度改正により金銭要件が撤廃されたのは、換価せずに運用会社を変更したいという年金基金のニーズに応えるためでした。
であるなら、信託終了時の現物交付まで認める必要はなく、運用会社の変更に伴う他の信託への移管の場合に限って現物交付を認めれば足ります。
こうすることによって、一般投資者に有価証券が交付されるおそれのない信託という性質を損なうことなく年金基金のニーズに応えることが可能になります。

かかる考え方に基づき、投資顧問付年金特金における特定金外信託及び特定(包括)信託の契約には、必ず以下のような条項が規定されています。

「この信託が終了したときは、受託者は・・・委託者に金銭で支払います。ただし、当該信託財産を委託者が締結する他の契約へ移管する場合には、・・・現状有姿のまま交付することができるものとします。

金商法の募集規制の名宛人は有価証券の発行者です。
よって、投資顧問付年金特金の組入ファンドの発行者が運用会社である場合、当該運用会社は当該投資顧問付年金特金がプロ私募の対象となることを確認する必要があります。
その確認事項は、当該年金基金と信託銀行との間の信託が一般投資者(当該年金基金)に有価証券が交付されるおそれのない信託であること、換言すれば、特定金銭信託であるか、特定金銭信託でない場合はその信託の契約に上記の定めがあること、となります。

運用会社は信託の契約当事者ではないため、特定金銭信託でない場合は信託契約の開示を求めることになります。
通常は信託銀行のひな型がそのまま使用されており、問題ない場合がほとんどですが、金商法の募集規制遵守のための確認プロセスとして留意が必要なところです。


<参考文献>

西村総合法律事務所(現:西村あさひ法律事務所)編『ファイナンス法大全(上)』(商事法務、2003年)

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