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投資一任契約と金販法の重要事項説明(その2)

金販法の重要事項説明は、顧客から説明不要の意思表明がある場合は不要となります(同法3条7項2号)。

そこでまず考えられたのが、投資一任契約の顧客については説明不要の意思が推定できないか、というロジックです。

説明を受けるということは、その説明を聞いて、内容如何によっては顧客が個別の取引を行わないと判断することもあるということです。

判断に影響を与えない、単に説明を受けるだけというのでは、業者に説明義務を課した意味がありませんので。

この、顧客が判断する(ことがある)という点が、投資一任契約を締結したことと矛盾するのではないかというのが、説明不要の意思を推定しようとするロジックの根拠です。
前稿で記載したとおり、投資一任契約を締結したということは、投資について一任した(お任せした)ということです。一任した(お任せした)のにその後自分で判断する(ことがある)というのは矛盾する、という論理です。

これに対し、投資一任契約は委託契約の一種であり、特別法の適用がある場合や契約で特別な規定がある場合を除けば委託元に投資判断の権利が留保されていると考えられるので、投資一任契約締結後であっても顧客が個別の取引を行わないと判断することはあり得る、よって投資一任契約を締結したというだけで説明不要の意思は推定されない、というロジックも考えられるところです。

金販法の立法担当官は、後者のロジックを採用し、投資一任契約の顧客について説明不要の意思推定を否定しました。

当時の立法担当官による逐条解説には、
一任契約の締結の際に、個別の金融商品ごとに重要事項について説明を行うなどして、以降の個々の取引について説明不要とする顧客の意思を確認した場合には、個々の取引について説明不要の顧客の意思の表明があったと解されるが、単に一任契約があったからといって、説明不要の顧客の意思の表明があったとは解されない。」
と記載されています。

この記載に基づき、実務では、
・投資一任契約の締結の際に、個別の金融商品ごとに重要事項について説明を行い、かつ、
・以降の個々の取引について説明不要とする意思表明を顧客にしていただく、
ことになりました。

具体的には、金販法関連文書として、
・「重要事項説明書」
・(説明不要とする)「意思表明のお願い」文書
・(説明不要とする意思表明の)「確認書」
が、3点セットとして、投資一任契約締結時に顧客と取り交わされるようになりました。


金販法の施行日は2001年4月1日です。
あれから20年が経過し、この論点を見聞きすることはほとんどなくなりました。
当時のこの議論を知らない人もかなり増えているのではないでしょうか。

この論点にはアップデートがあります。
アップデートは次稿で述べることにします。

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