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二度寝してたら世界が終わってた。

目が覚めた、14時半。
まだ眠れる、俺の体がそう言っている。

また目が覚めた、21時。
物音一つない静かな夜だ。
一週間ぶりに外に出る。
赤い霧が街を覆っていた。

誰もいない。
夜だからだろうか。
友達、家族、愛する彼女。
みんなどこに行ったのだろう。

…元からいなかったか。

コンビニに入る。
電気が付いていなかったから覚悟はしていたが、やっぱり誰もいなかった。
唐揚げが食べたかったが、揚げ物コーナーは空。
しょうがないので一番安い缶ビールを手に取り、店を出る。
そのまま帰ろうかと思ったがなんだか申し訳なくなり、引き返して101円だけ置いてきた。

家に帰った、22時過ぎ。
部屋の電気はつかなかった。
これは異常なのか、俺が電気代を払っていないからなのか。
暗闇の中、独り酒盛りをする。

軽く酔った体でスマホを探すが、暗いうえにごみが散乱していて全然見つからない。

ようやく見つけたが、電波が繋がらなかった。
ムカついたので壁にスマホを投げ、ごろりと寝転がる。

俺の生活は今までと何も変わらない。
自分にそう言い聞かせるが、なぜだか汗が背中を伝った。


…眠ってしまっていたようだ。
目をこすりながらスマホを見る。相変わらず電波は通っていないようだ。
スマホの時計は13時をさしているが、外に日の光は見えない。
体がやたらと重いが、元からだったろうか。
空腹を感じ、家の外に出る。

スーパーがあるが、電気が付いているのかよくわからない。
二日酔いなのか、頭がぼーっとする。
とにかく腹が減ってしょうがないので、窓を破壊して侵入した。

肉も魚もトレーはあるのに中身がない。
ポテトチップスとハイボール二本を取り、金を払わずに店を出た。
家に帰る気にはなれなかった。
どうせゴミだらけの暗い部屋だ。

近くの公園で湿気たポテチをかじり、酒で流しこむ。
何故だか涙が出てきて、我ながら驚いた。
ぼやけた視界の端にオフィス街が映る。
俺には縁のない場所だったが、今は違うかもしれない。
ふと行ってみたくなった。

普段なら人で溢れているはずのこの場所に、俺しかいない。
妙な高揚感を感じながらプラプラと歩いていると、ひときわ大きなビルに辿り着いた。
ここにしようと決める。

警備員のいない高層ビル。一生入ることなんてないと思っていた。
エレベーターは止まっていたので、しょうがなく階段を使うことにする。
階段をのぼっていく度にこれまでの人生が思い起こされたが、思い起こす価値もないことだけを理解し、溜息を吐いた。
屋上のドアを蹴破り、暗くて赤い空を見上げて思う。
何もない人生だった。いつ終わってもいいと思っていた。
それでも最後は派手に決めるつもりだったのだ。
それが誰にも知られないとは。地味で無意味。死まで空虚だ。

やってらんねえな。

ふわりと体が浮き、途絶えた。













添付資料① 対惑星用戦略化学兵器『赤霧』の説明

赤霧は対象者以外の全ての生命体を認識することを不可能にする兵器です。
脳の認識機関に致命的な問題を引き起こし、視覚、聴覚、触覚をある程度弱化することで生命活動を終えた物体、すなわち死骸等も認識できなくします。
すると、種族間での認識と動物性食糧の認識が不可能になるため、種の存続が困難になります。
概算によると、赤霧を散布された星は十年以内に生命反応がなくなるとされています。
運用方法としては、まず対象の惑星を『藍癪』で使用されている宙膜と同型のもので覆い、そこから赤霧を散布するものとします。
これによって赤霧は星外に逃さずに、効率的に生命体を排除できます。
既に実用化されている『藍癪』と比べて植民星にするまでの時間は長くなりますが、自然環境に無害なため、除染作業を行わずに資源惑星として利用可能になります。これによって従来よりコストを73%カットできることが期待されます。


添付資料② 『赤霧』使用許可願

惑星S-1216への『赤霧』使用許可を求めます。
この星の知的生命体指標は4であり、星間法768条「知的生命体指標8以上の星を植民星にしてはならない」に抵触する恐れはありません。
また、この惑星は他星の主張領界にも属していないため領界侵犯で訴えられることもありません。
『赤霧』を使用するにあたって、実験地候補となっていた惑星T-1107と比べても生命体の数が桁違いに多く、多種多様な被検体を観測することが可能だと考えられます。

許可を頂ければ、早急にNeutral-Goverment Operation Driveへの最終判断を開始します。

以上。

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