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最強の力

あらすじ
平凡な高校生、不波 繋 ふ わ つなぐ

彼は平凡すぎるが故に、いつか異世界転生したり神にチート能力が与えられるのではないかという妄想に取り憑かれ、
人知を超えた存在に祈りを捧げている変態だった。

そんな変態の部屋に、怪しい魔法使いが現れ、力を授ける。

喜びに打ち震えた彼は
早速自分の能力を確かめようとするが・・・?




= 日本 住宅街 =

 僕は待っている。救いを、神を。


やあどうも、僕の名前は不波 繋 ふ わ つなぐ 。ごくごく平凡な高校生だ。

平凡な人生を送っている。つまり、頭がいいわけでも悪いわけでもなく、友だちが多いわけでも少ないわけでもなく、顔立ちも至って平凡だ。

目下の悩みも毎月スマホのデータ使用量上限を超えてしまってお小遣いから減らされまくっていることとか、いくら自分磨きをしても彼女ができないとか握力が平均値の半分しかないとかいった平凡なものだ。

しかし、平凡ということは突然異世界転生したりチート能力を与えられたりする可能性が高いということでもある。

だってそうだろ?書店に並んでる本たちを見ればわかる。
「平凡な俺が〜」とか「最弱だった俺が〜」とかばかりだ。
平凡で取り柄のない人間が成功するのが世の常ってことだ。

そんなわけで、今日も僕は神様か魔法使いか、
とにかく人知を超えた存在に祈りを捧げているというわけ。


= 世界のどこか 小さなお城 =

 ここはある魔法使いの居城。ここに住んでいる魔法使いは物好きだ。
1年に一つだけ、なにかの願いを叶えてあげている。
今年もまた、なにかが選ばれたようだ。

「なになに・・・?日本の民家にいる・・・?珍しい奴だ。今年の願い受給者はこいつで決まりだな。」




= ?? ??? =

 ツヨク―――ツヨク―ナリタイ――――ツヨクナレレバ―――――――
 モット―アノヒトノヤクニ――――タテルノニ―――――――――――


【魔法使い】

魔法使いは、ある少年の部屋に現れた。
その部屋は簡素なもので、勉強机に本棚があり、Wi-Fiが部屋の隅にこじんまりと置かれ、大きなタンスとベッドが一つあるだけ。限界一人暮らしでもしているのだろうか。

そこに少年が一人、口をあんぐりと大きく開けて魔法使いを眺めている。

「祈りが、届いた・・・!」
何やら興奮している様子のその少年は慌てて立ち上がった。そんな少年を無視し、魔法使いは告げる。

「お前の願いを叶えてやろう。お前が必死に願ったその願いは、たった今をもって叶えられる。その力を世のため人のために役立てるのだぞ。ではさらばだ、小さきものよ。」
 
そう言い放つと、魔法使いは煙のように消えた。



【不波 繋】

ついに、僕の願いが叶った!努力は必ず報われるんだ!

一体彼は僕に何の力を与えてくれたのか、確かてみよう。
鏡を見つめる。平凡なままだ。まあ、能力というのは内面に溢れ出るものだからな。当然といえば当然だ。

そういえば、彼は僕が必死に願った願いを叶えてくれたと言った。僕が必死に願ったことか・・・。
それはやはり力、POWERだろう。いじめっ子に復讐しろってことか!

奴らは僕に「中二病を治せ」とか「お前はいつまで経っても平凡だ」なんて言って馬鹿にしてくる。

見せてやろうじゃないか、本当の僕を。

運のいいことに、奴らはすぐに見つかった。というか奴らの方からやってきた。
「つなぐ、野球しようぜ!」だと?
僕をそこらのガキと同等の存在と勘違いしているらしい。
今までの所業を地獄で後悔するんだな!


炎蛇殺黒邪頭龍閃なんかすごい技!!」  



  

ポスッ・・・!

当たった!少なくとも手応えはあった!
僕は確実に強くなっている!ふふふ、いじめっ子の奴らが
呆然と僕を見つめている。少しビビらせてやろう。

「フハハハハ、見たかお前ら!これが僕の強さだ!」

27秒後、僕は地面に横たわっていた。

何が起きたのだろうか?8秒経った時に頭をはたかれてバランスを崩し、15秒になったところでずっこけて、23秒の時点で彼らは僕を置いて野球をしにいった。
どうやら僕が得た能力は暴力的な力ではないようだ。
確かに暴力では世界を平和にすることはできない。
「ペンは剣よりも強い場合もある」という言葉もあることだし、僕はきっと文学的センスを身に着けたのだろう。

それじゃ、手頃な文学賞にでも応募してみることにしよう。
タイトルは
「最強の能力 平凡な僕が本を出して一発大儲けした件」
              みたいな感じでいいだろう。


――――――そんなわけで、僕は最強の能力を手に入れた。僕の本を読んだ人達は涙を流しながらファンレターを送ってくる。いやあこんなに来ても読みきれないよ、アハハハハ!
                  〜終〜  





っと。うん、我ながら素晴らしい出来だ。悪く思うなよ、世の作家志望者たち。


【????】

私の願いは届いた。私は強くなった。
それなのに、あの人は私に見向きもしてくれない。
強いほうがいい、弱すぎるって、いつも言っていたのに・・・


【魔法使い】

城の中で一人、魔法使いは思う。願いは、必ずしも幸せを運ぶとは限らない。

この前能力を渡したあいつは、せっかく能力を手に入れたのにその能力を行使できず嘆いているようだ。
どうやらあいつの主人は自分が何らかの能力を手にしたと思いこんでいるらしい。

ちょっとまずかったかな?
もしかしたらあいつの主人は私に願いを叶えてもらったと考えているのかもしれない。

全く・・・私が能力を渡したのは――――


【不波  繋】

だめだった。

あれから色々試した。美術のセンスも音楽のセンスもなかった。急に女性にモテるようになったわけでも、空を飛べるようになったわけでもなかった。

自分は何一つ変わっていない。平凡なままだ。
しかし、まだわからない。僕の知らない能力を与えてくれたのかもしれない。

とりあえず、ネットで世の中にどんな能力があるのか調べてみよう。

最近は能力を試そうとしてばかりで全然スマホを触っていなかった。



あれ?Wi-Fiめっちゃ強くなってんじゃん。
この前まではめっちゃ弱かったのに。



【Wi-Fi】
あの人は喜んでいる。幸せ。


金をくれたら無償の愛を授けます。