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君と、一万年後も。 【第三話】

第一話⤵

次回⤵

まとめ読み用⤵


〜 16年前 日本 〜

ん………ここは、どこだ?
俺は、死んだのか…?
あの化け物どもめ…絶対に殺してやる!!

……………………それにしても暗いな。
体も思うように動かない。

「あぁあー」
だめだ、はっきり喋れない。
一体何が起きてるんだよ!

パチッ

なんだ…!?急に世界に光が!

「あらあら、どうしたの〜?」

でか……いな。人間か?
女のようだが、こんなにでかい人間は見たことが…

「かわいいでちゅね〜」

…違う。俺が小さくなってるんだ。あの化け物の仕業か!
なにか喋っているようだが、意味はさっぱり分からない。

「おっ、起きたのか文四郎。」

男もいるのか。
俺を囲っているこれはなんだ?閉じ込められてるのか!?

「ええ。さっき喋ったんですよ、山田って。」

「自分の苗字を!?
もう五ヶ月だもんなぁ、そういうことも…ないだろ。」

クソっ。体が重くて立てない。立て、立つんだ俺。
立って化け物の手下をぶっ飛ばすんだ!

「うおおおおお!」

「立った!?」
「喋った!?」

「あうーあいーう!いうー、いーえおうあ!
(ここから出せ、ゴミども!首引きちぎってやろうか!?)」

「凄い…何か伝えようとしてる。」

「神童だわ…!この子は天才よ!!」

「だうあ!あうおういえ!!
(何を言ってる!俺を誰だと思ってるんだ!)」

「すぐお義母さんたちに伝えましょう!」

「そうだな、僕は先祖の墓に知らせてくる!」



〜 15年前 日本 〜

「いい?これはガスバーナー。」

「がすばーなー。」

「正解。これは、マンホールオープナー。」

「まんほーるおーぷなー。」

「大正解。次に行くわね。
これは大長編ドエライもん、ゴリラと闇の王。」

「だいちょうへんどえらいもん、ごりらとやみのおう。」

「…なあ、もうちょっと基礎的な言葉から教えるべきじゃないか?」

「もう教え尽くしちゃったのよ。この子頭が良すぎて、
どんな言葉もすぐ覚えちゃうんだもの。」

拷問のような一年だった。
滑舌が良くなって喋れるようになるまではそんなに時間がかからなかったが、俺のいた所とは言葉が違う。
ここの言語を理解するのに何ヶ月もかかった。
どうやら俺は今一歳半らしい。
こいつらは俺の親で、俺を育ててくれているようだ。
わけがわからない。俺には本物の親がいたし、家族もいた。
あの化け物が俺を赤ん坊にしてここに送ったのだろうか。

「といれ、行く。」
この通り、意思疎通ができるようになった。
ここは飯が美味いし気温も一定。最高なのは否定できない。

「はい、行ってらっしゃい。」

「流暢に喋れて一人でトイレに行ける一歳児…
やっぱり神童なのかもしれないね。」

「絶対そうよ、そろそろTVデビューさせましょ。」

俺の目下の問題点はただ一つ、体がなまっていることだ。
毎日走り回って運動しているが、どうも危機感に欠ける。
またあの化け物が来た時のために、俺は強くならないと。



〜 10年前 日本 〜

「文四郎も一年生か、大きくなったなぁ。」

「父さんと母さんのお陰だ。」

「めちゃくちゃクールな子に育ったわね。鼻が高いわ。」

そりゃそうだろう、実年齢は両親とさして変わらない。
向こうで死んだのが21歳だったから…今は27歳ってとこか。

「お前は頭がいいから幼稚園も保育園も通わなかったけど、
これからはそうもいかない。義務教育だからな。」

「分かってるよ父さん、大丈夫だから。」

「友達いっぱい作るのよ〜!」

小学校。俺は周りのガキがあまりにガキすぎるので友達をつくったことがないが、ここでは友達を百人つくる必要があるらしい。なんでも富士山の上でおにぎりを食べるとか。

「皆さんはじめまして、担任の西田です!
これから一年間、皆で仲良くしていきましょう!
じゃあ、出席番号一番から、自己紹介をしてください。」

自己紹介か。初めてやることだな。
名前と好きなこととかを話せばいいらしい。
おままごとが好きだとか、戦いごっこが得意だとか馬鹿みたいだ。

「出席番号21番の竹井洸太です。好きなことは架空のデスゲームを考えることです。僕は卑怯な手を使って見苦しく生き延びたあと、無残に殺される役をしてみたいです。」

………こいつ、ホントに小学生か?
この絶妙にウケ狙いかわからないラインを攻めていくスタイルが許されるのは人気者の高校生だけだろ。
おもしれー男。こいつを最初の友達にしてやろう。

「それじゃあ最後は山田くんお願いします。」

「出席番号43番の山田文四郎です。好きなことは筋トレです。今で言う縄文時代に化け物に殺されてこの時代に来ました。この話を親にしても信じてもらえなかったのですが、もし信じてくれる人がいたら来るべき時に備えて共に体を鍛えましょう。」

「はい皆さんよろしくお願いします!
それじゃあ今日はお家の方が迎えに来てくれた人から帰りましょう。さようなら。」

「「「さようなら!」」」

「ねえ山田くん、ちょっといい?」

「文四郎でいい。お前は竹井洸太だな?」

「うん。ねえ、さっきの話ってほんと?」

「本当だ。誰も信じてくれないけどな。」

「僕信じるよ。だって文四郎面白いもん!もし化け物が来たら僕も一緒に戦う!」

「お前も大概だぞ。あの自己紹介は事前に準備したのか?」

「ううん、さっき考えた。」

「天性の才能か。大切にするんだな。」

「文四郎は喋り方も面白いね。」

「一万も歳上なんだぞ。お前らみたいな喋り方恥ずかしくてできねえよ。」

「これからよろしくね、文四郎!」

「おう。よろしくな、竹井。」



〜 4年前 日本 〜

「……文四郎、大丈夫か?」

「……………ああ。」

一週間前、両親が死んだ。事故だった。
また家族を失った。

「なあ文四郎、覚えてるか?」

「…何を?」

俺がこっちに来て12年経つが、化け物は一匹も現れていない。多分あれは外星人ってやつだ。地球の生き物を遊び感覚で殺戮していたのだろう。

「始めて会った時のことだよ、お前頭おかしかったよな。」

「まだ覚えてたのかよ、あれは黒歴史なんだ。忘れろ忘れろ。」

自分が過去から来たことを話さなくなって5年は経つ。下手に話して外星人に居場所を悟られたら元も子もないし、頭のおかしいやつだと思われるのが関の山だ。

「俺はまだ信じてるぞ、あの話。化け物が来たら一緒に戦おうな。」

「中二病だったんだよ!」

「小一病じゃん。」

「そういうお前もデスゲームとか言ってただろ!」

「うるせえ!俺はお前と違ってあの自己紹介をしても引かれなかったぞ!」

「お前はモテるもんなあ、筋肉は少ないのに。」

「筋肉量と人気は比例しないんですぅ。」
すっかりこの世界に馴染んでしまった。
タイムトラベルが出来ない事くらい知っている。
過去に戻れないなら忘れるしかない。
100人は無理だったけど友達だってできた。
竹井はいい奴だ。こいつを最初の友だちにして正解だった。



〜 現代 10月 1日 土曜日 〜

……夢か。
あの日以来竹井とは口をきいていない。
いつまでも意地張ってる訳にはいかないよな。
初めての、友達なんだから。

ピンポン

「文四郎、俺だ。」
竹井?渡りに船だ、腹を割って話すべきだな。

「久しぶりだな。」

「ああ、とりあえず仏壇に手ぇ合わせてくるわ。」

「おう、父さんと母さんも喜ぶ。」
両親が死んでからもう三年経つが、
こいつはうちに来るたび仏壇に手を合わせてくれる。


「丁度竹井の家に行こうと思ってたんだよ。」

「あれ以来口きいてなかったもんな。」

「…単刀直入に聞くぞ。何がお前をああさせたんだ?」

「田中さんが不憫だったから。
彼女の心を埋められるのは文四郎だけなんだよ。
でも、お前は彼女に目もくれない。
…だから、俺が埋めてあげようと思ったんだよ。」

「…不憫って何だよ。」

「それは言えない。彼女が自分の口で話すまでは。
今の田中さんは幸せそうだし、俺の出る幕じゃないしな。」

「やっぱりよく分からん。」

「色々あるんだよ。文四郎もそうだろ?」

「……ああ。」

「話せてよかった。この後デートだからそろそろ行くわ。」

「彼女できたの?お前。」

「おん、同じクラスの長谷川美怜。」

「誰だっけ、そいつ。」

「こじらせ女だよ。田中さんがふっ飛ばした。」

「!?」

「それじゃ、また月曜日に。」

「!?一番嫌いとか言ってなかったか!?」

ああ、竹井が爆弾を残して家を出てしまった。
あんなに嫌ってたのに何があったんだか。



〜 同日 駅前 〜

少し肌寒くなってきた街に、彼氏を待つ長谷川の姿があった。
どうやら結構前から待っているようで、しきりに時計を気にしている。
「おまたせ、美玲。」

「2分遅刻。でも私は30分前からいたから32分遅刻。」

「ごめんって。美玲に言われた通り文四郎と仲直りしてきたんだよ。」

「洸太が元気出たなら良しとする。
でも、今日は洸太の奢りでデートするからね。」

「前もそう言いいながら割り勘にしてなかったっけ?」

「うるさい。ほら、行くよ。」

「はいはい。」

「山田には伝えたの?田中さんのこと。」

「いや、俺から伝えることじゃないだろ。」

「まあね。でも、あんな事聞いちゃったらさ。
あの二人にはうまくいってほしいな。」

「今度俺たちで仕掛けるか。」

「それいいね、賛成。」

竹井と長谷川が連れ立って歩き出す。
二人を祝福するように、昼星がキラリと瞬いた。



〜 現代 宇宙 〜

※先程昼星と申し上げましたが、正しくは宇宙船でした。
謹んでお詫び申し上げます。

「……事実なのか?例の報告は。」

「はい、長年姿を見せなかった容疑者が21日前に見つかったと。」

外星人の艦隊が宇宙を航行している。
見るからに物騒な兵器を吊り下げ、どこかに向かっているようだ。

「場所は?」

「犯行を行った惑星で見つかったそうです。2387セクターの天の川銀河内にある惑星334級。一万年前に植民地化政策の一環でディバストメントを送り込んでいますが、直後に現場指揮官の嘆願により侵略を中止しています。」

「その指揮官が第12師団のディバストメントをたった一人で皆殺しにしたのか。
部下を手に掛けるとは。そいつの個体識別コードは何だ?」

「T-NK 1OOです。」

「Tシリーズの生き残りか…上が躍起になる訳だ。」

「ですが余りにも過剰戦力じゃないでしょうか?
我々の戦力、惑星334級の総軍備量の70万倍はありますよ。」

「お前は若いから知らないのか。Tシリーズは大戦後の軍拡競争黎明期に開発された人工生命体だ。お前も知っての通り、条約によって軍事用人工生命体の保有数は一つの惑星に付き100体までと定められていた。今はもう研究そのものが禁止されているがな。だからTシリーズの危険性は想像を絶するものだ。一体で3つの惑星の軍隊を壊滅させたとかいう逸話まで残っている。」

「な、何ですかその規格外!他のTシリーズは今どこに?」

「もういない。Tシリーズは寿命が短く、一個体に付き5000年しか稼働できない。彼らは5000年間我々のために戦い続け、寿命を迎えた。最後はソウルディメンターで魂だけ別の肉体に転移させたらしい。そうそう、彼らの肉体は特殊な金属でできていてな、姿を自由に変えたり1億度までの熱に耐えられたり無茶苦茶なんだよ。」

「なるほど、惑星を粉々にしてもTシリーズだけは生き残るから上層部は対惑星破壊兵器、『シュテールング』を我々に持たせたんですね。」

「そういうことだな。何十億もいる原住民の中から探すよりも星をぶっ壊して残骸の中から探す方が楽だ。」

「Tシリーズが抵抗してきたらどうするんです?」

「問題ない。秘策がある。」

外星人が不敵に笑う。
漆黒の宇宙を進む艦隊の目指す先は、地球だった。

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