君と、一万年後も。 【第一話】
あらすじ
ある夏の日、高校生の山田文四郎はミステリアスな少女、田中百環と出会う。初対面にも関わらずガンガン距離を詰めてくる百環にたじろぐ文四郎だったが、共に時を過ごすうちに彼女に惹かれていく自分に気づく。しかし、実は彼女は過去に地球を侵略しようとした外星人であった。そして文四郎自身も、遥か昔に遺してきた遺恨があり…
二話⤵
三話
四話
最終話
まとめ読み用⤵
〜 ??? 〜
「対象が現れました、対象が現れました。」
無機質な音声が部屋に響く。
異形の生物が目を覚まし、小さい装置の中から飛び降りた。
「ん〜、よく寝た!おはようアステラ。それで彼は今何歳?どこに住んでいるの?」
どうやら興奮している様子のその生き物は、アステラと呼ばれた機械音声に次々と質問を投げかける。
「対象は現在16歳の男性で、日本と呼ばれる土地の緯度34度、経度135度に位置している場所で生活しています。」
「16歳!?何でそんな歳になるまでわかんなかったのよ!」
生き物はヒステリックに叫ぶと、壁に拳を叩きつけた。
部屋が揺れ、警報が鳴り響く。
「申し訳ありません。3時間前まで条件に完全に一致しているという確証がなかったので…」
「まあいいわ、私の見た目をその土地で最も人気がでそうな姿にして。あと、自動翻訳装置もつけておきなさい。」
「現地での名前はどうなさいますか?」
「名前…?適当につけといて。」
「かしこまりました。準備ができ次第ナビを起動します。」
〜 現代 9月 1日 木曜日 〜
俺の名は山田文四郎。ごく普通の高校2年生。
昔色々あって神童と呼ばれていたが、それも7歳くらいまで。最近は惰性と筋トレだけで生きている。
今日から新学期ということもあり、校内はざわついている。
どうやらうちのクラスに転校生がやってくるらしい。
「はいみんな席につけ〜、朝のホームルームの前に転校生を 紹介する。田中百環さんだ。じゃ、自己紹介してくれ。」
背が低く、つぶらな瞳をした可愛らしい女子だ。
…まあ、俺のタイプではないが。
「田中百環です!このクラスにいる山田君に合いたくて転校 してきました!これからよろしくお願いします!」
クラスが黄色い歓声に包まれる。
え?今さらっと俺の名前を口にしなかったか!?
「お〜い、幼馴染か?」
こいつは竹井 洸太。俺の親友だ。
結構オタクなのに陽キャでイケメン、すごいモテる。
結局は顔と性格と愛嬌とその他諸々なんだな。当たり前か。
「ちげーよ、あんな女知らんわ。そもそも俺のタイプは家を守れる強い女だ。あいつを見てみろ、ヘニャヘニャだぞ。」
「ヘニャヘニャってお前…可愛いじゃんか。」
こっちの奴らとは価値観が俺と違いすぎる。
可愛いから何だってんだ。 人間に必要なのは知恵と力。
それだけだ。
「じゃあ、田中さんの席は…そりゃ山田の隣しかないよな。竹井、席を田中さんに譲れ。」
おいおい、うちの担任は化け物か。
「文四郎、元気でな。幸せになれよ。」
竹井をぶん殴ってやろうかと思案しているうちに、
横の席に田中百環がやってきた。
「よろしくね、山田文四郎。私は田中百環。」
「お、おう。さっき聞いたぞ、それ。」
「君は昔から変わらないね。
その力強い目も、喋り方も、あの頃と同じだ。」
あの頃…?こいつ、俺の過去を知っているのか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・それはないか。
「そうか、そりゃあ良かった。 で、どっかで会ったっけ?」
「君は私のことを知らないよ。でも、これからじっくり知っていってもらうから。覚悟しといてね。」
何だこいつ…メンヘラか?ストーカーってやつなのか?
「おい、そこの二人。
イチャイチャするのはホームルーム後にしろよー」
お前のせいでこんな事になってるんだろうが…!
〜 10000年前 10月 27日 高度3000m上空 〜
「殺す…!みんな殺す!絶っっっ対に許さない!!!!」
異形の生物が触手を振り回し、周囲の同族を朽ち滅ぼす。
空に浮かんでいた宇宙船は制御を失い、海へと落下した。
〜 現代 9月 2日 金曜日 〜
朝起きたら、目の前に人間がいた。
親ではない。そもそも俺の親はもういない。
「おはよ、文四郎くん。」
まぁじかよ、田中百環。ガチヤバ女じゃん。
「何でここにいる?どうやって入った。」
「さすが、冷静だね。やっぱり君、最高だよ。」
「質問に答えろ。返答次第ではお前を山に埋めるぞ。」
「君の家は両親がいないじゃん?
だから普通にドアの鍵をピッキングして入ったの。」
この女…事も無げに、何者なんだよ。
「あ、そうそう。何で来たかって言うと…」
そういいかけると、彼女は急に顔を赤くして小さく呟いた。
「一緒に学校っての行きたいなぁって思って、さ。」
何でそこは恥ずかしそうなんだよ。倫理観バグってるのか?
「わかった。とりあえず家からでろ。そして二度と俺に面を見せるな。通報だけは勘弁しておいてやる。」
「ご、ごめんなさい。もしかして私の事嫌いになった?」
「いや、嫌いになったりはしてない…こともないけど。
とにかく金輪際やめてもらいたい。」
「わかった。じゃあ外で待ってるね。」
…話聞いてないな、この女。
田中百環が外に出たのを確認し、洗面所に向かう。
鏡に写った自分の顔が引きつって見える。
こっちに来てからというもの、ここまで頭のおかしいやつに
出会ったことはなかった。
あいつと一緒に登校するなんて死んでもゴメンだ。
制服に着替え、キッチンにある裏口から外に出る。
音を立てないように裏の塀を乗り越え、
敷地の外に飛び降りる。このまま学校に直行しy
「じゃ、行こっか。」
そこにはゴツいゴーグルらしき物を掛けた田中百環がいた。
「な、何でいんだよお前、てかなんだよ、そのごついの。」
「全地形対応型多目的ARヘッドセット。熱センサーも搭載してるから、君がどこに逃げてもすぐわかるよ。」
怖っ。何言ってんのかよく分かんないけど凄い怖い。
「早く行かないと、学校遅刻しちゃうよ?」
「わ、わかった。一緒に行くから、命だけは見逃してくれ。」
「何よそれ。あなたの命があるのもないのも私のおかげなのに。」
だめだこれ。完全にヤバいやつだ。終わった。学校生活。
〜 10000年前 10月 27日 洞窟 〜
血だらけの屈強な縄文人が、叫びながら地面に倒れ込んだ。彼の周囲には、彼の仲間らしき者達の死体が大量に転がっている。
「何と言っている?」
「殺す…!みんな殺す!絶っっっ対に許さない!!!!……と言っています。」
ゴミを見るような目で男を見つめる異形のものたちは、
縄文人に剣のようなものを突き付け、無慈悲に突き刺す。
縄文人は苦悶の叫び声をあげ、息絶えた。
〜 現代 9月 3日 土曜日 〜
昨日は散々だった。一緒に登校するだけでは飽き足らず、
四六時中くっついて離れない。どこに逃げても見つかる。
実質ホラー映画だ。家に帰って一息ついたと思ったら、
小型のドローンに追尾されてた。この調子じゃ家の中に
隠しカメラとかもゴロゴロあるんじゃないだろうか。
「…で、俺をお前の家に呼んだのか。」
「そうなんだよ竹井!
このままじゃ俺、ノイローゼになっちゃう!」
「よっしゃわかった。俺がガツンと言ってやるよ。」
ドンドンドン!
玄関のドアを鈍器のようなもので殴る音が聞こえる。
疫病神がやってきたようだ。
「誰がガツンと言ってやるですってー!?」
「早速お出ましか…」
「竹井!俺は逃げるから後は頼んだ!」
「おう、任しとけって。」
ありがとう竹井。お前のことは忘れないからな。
二階の自室にある窓から外に出る。
田中百環が階段を登る音が聞こえてきたので、
慌てて下に飛び降りた。
自慢じゃないが、運動神経は人並み以上にあるのだ。
ボイスレコーダーを部屋に仕掛けて出てきたから
帰ったらあいつらがどんな話をするのか聞いてみよう。
〜 ボイスレコーダーに記録されていた音声 〜
「あれ…文四郎君はどこにいるの?」
「来たか。まあ座れよ。お茶出すから。」
「結構よ。ここはあなたの家じゃないんだから。」
「そりゃごもっとも。じゃあ本題に入ろう。
お前は何で文四郎につきまとってる?」
「好きだからよ。そういうもんじゃないの?」
「…お前、もしかして日本人じゃないのか?」
「ええ、よくわかったわね。私はT1216から来た外星人よ。」
「あ、やっぱり?道理で様子が…ってマジ?」
「マジ。」
「そんな話信じられるわけないだろ。
何で宇宙人が文四郎を好きになるんだよ。」
「じゃあ見せてあげる。私の手を握って。」
「お、おう。」
轟音が響き、竹井が叫ぶ。そこで音声は途絶えた。
〜 現代 9月 5日 月曜日 〜
一昨日家に帰ったらボイスレコーダーが無くなっていた。
きっと田中百環にバレて壊されたんだろう。
竹井とも連絡がつかなかいし、
昨日今日と田中百環は一度も家に来なかった。
これは嵐の前の静けさってやつなのだろうか。
制服に着替えて学校に向かう。
見慣れた空。同じ景色。全部夢だったのかもしれない。
校門をくぐり、靴箱に向かう。
人数が多いくせにやたら狭い教室に入ると、
竹井が俺の席に座って田中百環と楽しそうに喋っていた。
「あ、おはよう文四郎くん。」
「お、おはよう。てか竹井、何で連絡返さなかったんだよ。」
「あ〜、ちょっと色々あってさ。
あ、そろそろ授業始まるから戻るわ。またね、田中さん。」
「うん。またね、竹井くん。」
なんだこいつら…いつの間にこんなに仲良くなったんだ?
ここまで急に色々起こると、逆に気になってくる。
無意識の内に田中百環を見つめていると、
彼女が笑いかけてきた。確かに可愛い。それは認める。
もしかしたら竹井はハニートラップに引っかかってるんじゃないだろうか。
あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
田中さん可愛い〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
推しだわ。まじで推しだわ。
俺のことは一切眼中にないのは分かってるけど、
そういう一途なところが素敵なんだよな〜
「はい、それじゃホームルームを終わるぞ。
最近不審者の目撃情報が多いから気をつけて帰るように。」
学校が終わった。田中さんと二人きりで帰るとするか!
「ねえ田中さん、ちょっと話があるんだけど。」
むむっ、あれは可愛いけど俺がクラスで一番嫌いな女子、
『クラスカースト高めで女子人気は高いが男子人気は低いことがコンプレックスで色々こじらせた女(名前は忘れた)』
じゃねえか!俺の田中さんに何する気か知らねえが、
ここはかっこよく助けに入って、好感度ぶち上げだ!
〜 同日 屋上 〜
美しい夕焼けが校舎を照らす。
真っ赤に染まった屋上に佇むのは二人の女子生徒。
隠れて様子をうかがっているのは竹井。
山田も更に離れたところで様子をうかがっている。
「あんたどういうつもりなわけ?
脳筋の山田が好きなんじゃなかったの!?」
「ノーキン?」
「そうよ脳筋よ!いい?このクラスには一つだけ絶対に犯してはならない掟があるの!」
「それは知らなかったわ。どんな掟なの?」
「『竹井洸太に対する恋だけは抜け駆けするな』よ!」
「なんだそれ、初めて聞いたぞ。」
「そりゃそうよ、女子のトップシークレットなんだから!
って竹井くん!?」
「だから毎年決まった時期に告白が殺到するのね。
あれうっとおしいからやめてくれよ。」
「あああっ、そのっ、これは違くて…」
「とりあえず教室戻れよ。田中さん怖がってるだろ。」
「は、はひぃ…」
女子生徒が怒りか、恥ずかしさか、夕焼けのいずれかの理由で顔を真っ赤にして逃げ帰っていく。
「大丈夫?あいつに変なことされなかった?」
「全然。いざとなったら存在ごと抹消してやるし。」
「そ、そっか。」
気まずい沈黙が屋上を包む。
「ねえ、田中さん。」
「なあに?」
「まだここのことよくわかんないでしょ?
色々案内するからさ、次の休日一緒にでかけない?」
「うん、いいよ。それじゃ、私帰るね。」
田中百環が屋上から飛び降り、どこかに飛び去った。
竹井はその姿を目で追いながら小さくガッツポーズをする。
「なあ…竹井?」
「うわっ!お前いつからそこにいたんだよ!」
「隠れて見てたんだよ。それは謝る。」
「別にいいよ。てか、お前脳筋の山田って呼ばれてたぞ。」
「そんなことどうでもいい。目を覚ませよ竹井。
お前は田中百環のハニートラップにかかってるんだ。」
「はぁ?何いってんだお前。あ〜、嫉妬してんだろ。
悪いけど、あの子は俺がいただくぜ。」
「きもっ。いや違うって!まじで騙されてんだよ。」
「…あの子の事情も知らないくせに。」
「事情?」
「田中さんがお前のためにどれだけ苦労してきたと思ってんだよ。お前じゃあの子を幸せにはできない。」
「おい、竹井!」
「もう遅いから帰るわ。また明日な。」
一人取り残された山田は、ヘナヘナと座り込んだ。
〜 10000年前 10月 27日 海底に沈んだ宇宙船 〜
異形の生物が巨大な機械を動かしている。
中には現地人の死体が入っているが、
既に原型をとどめておらず、光を放っている。
「…待ってて。これでまたあなたに会える。」
異形の生物はそうつぶやくと、寂しそうに微笑んだ。
金をくれたら無償の愛を授けます。