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君と、一万年後も。 【第四話】

第一話⤵

次回⤵

まとめ読み用⤵


〜 10001年前 12月 1日 宇宙 〜

巨大な戦艦が宇宙を航行している。
内部には、指揮官の姿をしたT-NK1OOの姿があった。

「…ふぅん、ソウルディメンターっていうの。」

「はい。有機物の魂を転移させることができる、革新的な装置です。」

「でも転移先の年代とか宿り主の指定とかは指定できないんでしょ?」

「まだ試作品ですので…ですが、あと9000年もあれば完全版を全ての船に搭載できるはずです。」

「9000年も待てないわよ。私はあと3000年くらいで死んじゃうんだから。」

「コールドスリープ装置があるので、それで待ってみてはどうでしょうか?」

「まだいいわよ、あと2500年くらいは祖国のために働くわ。とりあえず、惑星334に向かいましょ。」



〜 現代 10月 10日 月曜日 〜

朝起きたら、目の前に人間がいた。
田中さんだ。何でだ?

「おはよ、文四郎くん。」
なんか既視感があるな。デジャブ?

「な、何でうちの中にいるんだ?」

「前の金曜日に言ってたじゃない、文四郎くんの家に入ってもいいって。」

「いったけどさぁ、不法侵入していいとは言ってねえよ。」

「ご、ごめん。もしかして私のこと嫌いになった?」
田中さんの表情がみるみる曇っていく。
調子狂うな、前は平気だったのに。

「なってない…よ。不法侵入も許す。」
だめだ、こんなこと言ったら。 
あいつらに…顔向けできない。
妻と、産まれることすら許されなかった子に。
俺の贖罪は、奴らを皆殺しにするまで果たされない…!

「どしたの、文四郎くん?」

「なんでもない、学校行くか。」

「うん!」
………一万年。
一万年経ってるんだ。
奴らは、もう来ないんじゃないだろうか。
俺自身の幸せを選んでいい時が来たのかもしれない。

「あ、文四郎くんが起きる前に冷蔵庫にあったプリンもらったよ。」
…でもこいつだけはないな。



〜 10000年前 10月 10日 上空 〜

上空には依然として宇宙船が佇んでいる。
約二ヶ月前に指揮官が母星に帰還して以来、
この外星人の部隊は原住民の虐殺を行っていた。

「また攻撃です、地上基地37が壊滅しました。」

「壊滅だと?あんなに知能の低いゴミどもにやられたのか!」

「知能は低いですが力が非常に強く、基地の壁を素手で破壊して突っ込んできます。非常に危険です。」

「武器があるだろう武器が!棍棒相手に苦戦でもしてるのか!?」

「数が多く、全員を仕留めることが困難なもので…」

「御託はいい、結果を出せ!あと数日もすれば指揮官がお帰りになるのだ、サプライズ侵略成功を知ればきっとお喜びになるに違いない!」

「りょ、了解です…」


〜 同日 洞窟 〜

屈強な縄文人達が焚き火を囲っている。
ウホウホ言ってるだけに見えるが、どうやら戦略会議中のようだ。

外から十数人が入ってきて、鬨の声をあげる。
作戦成功の宴を行うらしい。
真ん中の男が立ち上がり、口を開いた。

「ウホ、ウッホホ。ウーウホッウホッ。ウー、ウホッホホ、ウホッ!(皆、よくやった。この戦いは俺たちだけのものじゃない。死んだ仲間たち皆の、この星のための戦いだ!)」

拍手が沸き起こり、縄文人たちは踊り狂う。
そんな中、一人の男だけは浮かない顔をしていた。


〜 同日 深宇宙 T1216 〜

ここは繁栄と権力の象徴とも言える惑星、T1216。
惑星の中心部にある荘厳な建造物に、T-NK1OOが緊張の面持ちで入っていく。
事務官がT-NK1OOを巨大なコンピューターのある部屋に案内した。このコンピューターの名前は、
『Goverment Operation Drive』  通称GOD。
この星系の政治全般を取り仕切っている拡張型AIだ。
このAIが宇宙の命運を握っているといっても過言ではない。

「T-NK1OO…認証。要求は何ですか?」

「惑星334の侵略の中止を求めます。
あの惑星には侵略に値する価値がありません!」

「それは我々が決めることです、あなたにはそれ以外にも個人的な考えがあるように推測します。
恋…ですね?」

「…………はい、惑星334の男に。」

「きゃ〜」

「ほら、そういう反応するじゃないですか!
だから言いたくなかったんですよ!」

「AIに隠し事できるわけないじゃ〜ん。」

「もう!やめてくださいよ!」

「わかったって、侵略は中止していいよ。
その代わり、その男の人連れてきてね〜」

「あんたは私のお母さんか!」

「母親みたいなもんだよ。
T-NK1OOのことは娘みたいに思ってるからね♡」

「も、もう!私は惑星334に帰ります!」

「はいは〜い、またね〜」



〜 現代 10月 26日 水曜日 〜

今日は学祭の日だ。
俺たちの通っている高校はいわゆる自称進学校。
自称進学校は学祭に力を入れることで、勉強以外も色々やってますよアピールをしがちだ。

「……だからってこれはやり過ぎだろ。」
グラウンドと中庭には色とりどりのテントが立ち並び、教室はどれもきらびやかに飾り付けられ、校舎にはでっかい垂れ幕が3つもぶら下がっている。

「そう?私はこういうの新鮮で好きだけど。」
横にいる田中さんも化粧をして、何だかいつもより可愛く見えるような…

「ねえ、聞いてる?」

「んぇ?ああ、聞いてる聞いてる。」

「聞いてないじゃん。ほら、劇の準備いくよ!」
俺たちのクラスの劇はデスゲーム。
竹井が無理矢理押し通した案だが、これが意外と面白い。
あいつの小さい頃からの夢『卑怯な手を使って見苦しく生き延びたあと、無残に殺される役』ができるとなって、竹井のテンションは最高潮だ。

「お、来たな文四郎!準備はできてるか!?」

「はぁ!?なんで俺がそんなことしねぇといけねんだよ!俺は家に帰らせてもらう!!」

「おっけ!あと30分で本番だからみんな気合い入れていけよ〜!」
俺の役が『最初に見せしめに殺される脳筋』なのには納得いってないが、竹井が楽しそうだから良しとする。

「文四郎くん、頑張って!」

「まあ俺は脇役だからいいけどさ、田中さんはラスボスだよ?大丈夫?」

「全然大丈夫!昔に戻った気分だよ。」

「昔?田中さんってなにも…」

「田中さ〜ん、最終リハやるからちょっと来てくれる?」

「分かった!」
行っちまった。よく考えたら田中さんの持ってる道具ってどれも現代の技術力で作れる物じゃないよな…
家にドエライもんでもいるんだろうか。
時間移動が現実にある以上、田中さん未来人説もありえる。


〜 同日 体育館 〜


「今から皆さんには、殺し合いをしてもらいます。」

「はぁ!?なんで俺がそんなことしねぇといけねんだよ!
俺は家に帰らせてもらう!!」

「俺じゃない、あいつがやったんだ…」

「そうだ!殺したのは俺だ、だがもう遅い!お前らも…
何っ!?」

「い、嫌だ!死にたくない!おいお前ら、俺を裏切るのか!?仲間じゃなかったのかよ!!」


劇は拍手喝采で終わり、竹井は感動で泣いていた。
どこに感動する要素があったのか甚だ疑問だ。
さて、俺はこの後竹井と一緒に模擬店とかを回る予定だ。
だった、というべきか。

「ごめん文四郎、やっぱ彼女と回ることにしたわ。
埋め合わせは今度するから。」

というラインが今届いた。
ふざけた奴だ、人間のすることじゃない。
俺は竹井以外に仲の良い友達がいないのに。
多分小学生の頃に自己紹介をミスったせいだ。
一人で学祭を楽しむなんてまともな人間には不可能。
俺は教室に籠もることにした。

「死は救済です。誰にも等しく訪れる…」
教室に入ったらデスゲームの主催者が一人で喋っていた。

「何やってんだ。」

「ひゃっ!文四郎君!?」

「もしかしてずっと練習してたのか?劇終わったのに。」

「ちちち違うし!そっちこそ何でこんなとこに!」

「ボッチだからだ。」

「あっ、竹井くんにフラレたんだ。」

「ちが…くもないか。だから一日ここで過ごすんだよ。」

「それって末期じゃない。私と一緒に行くわよ。」

「…デスゲームの主催者みたいな格好したやつと?」

「そうよ。可愛いでしょ。」

「まあいっか、どこ行く?」

「お化け屋敷。」

「別にいいけど俺は何を見ても驚かないぞ。」

「私だって。何年生きてると思ってるのよ。」

「15か16年。」

「…そうね。」


〜 同日 お化け屋敷 〜

お化け屋敷とは名ばかりの雑魚屋敷だと思ってきたのに。
襲ってくるのはお化けというより宇宙人。
古代の洞窟からの脱出がテーマらしい。
俺の古傷を抉るために作られたの?

「ひゃぁぁぁぁ!」

「何よ、めちゃくちゃビビってるじゃない!」

「昔のトラウマがあるんだよぉ!」

「な、情けないわね!こんなの破壊しちゃえばいいのよ!」

「何!?」

田中さんがどこからかロケットランチャー的な何かを取り出し、壁にぶち込む。
壁は轟音を立てて崩れ、お化け屋敷はパニックに陥った。

「おい!やりすぎだろ!」

「助けてあげたのにその言い方は無いじゃない!」

「早く直せ、早く!」

「もう、これでいい?」

でっかく空いた穴が、よくわからない物質で埋まっていく。
壁はあっという間に元通りになったが、好奇の目が痛い。

「出るか。」

「そうだね。」

「なあ、田中さんって何者?」

「私と付き合ってくれたら教えてあげる。って言ったら?」

「……………」

「まあいいや、次はカジノに行きましょ!」

「……そういう対価みたいなもので付き合うってのは…
聞いてないのかよ。おい、待て!」


〜 現代 カジノ 〜

けばけばしい装飾、うるさい曲、大量のカラーボール。
これじゃカジノと言うよりクラブだ。
俺たちは大きく置いてあるルーレット台にいるのだが…

「赤の4番に全ベット。」

「田中さん!?何やってんだよ!」

「文四郎くんの分も合わせて、全ベットね。」

「待て待て待て!でかい声じゃ言えないけどこれ本当に現金賭けてるんだぞ!?全財産失っちゃうって!」

「現金って言ったって所詮紙切れじゃない。
勝ちゃあいいのよ、勝ちゃあ。」

手作り感の強いルーレットが勢いよく回る。
こんなちゃちい玩具に俺の全財産が乗っていると思うと不安でしょうがない。


あっ。


「赤の20番です。」


あっあっ。

「残念だったね。それじゃ次のところに行こっか。」

「あっあっあっ。」

「どうしたの?
そんなにショックなら取り返してきてあげる。」

「は?」

田中さんがまたルーレット台に座り、横の生徒に何か囁く。
その生徒は不審がりながらも赤の4番にベットした。
一瞬、田中さんの腕時計が光ったかと思えばルーレットが止まり、赤の4番に玉が入った。

「赤の4番です。」

「当たった!」

田中さんはどうやらあの生徒から分け前をもらったようで、
ほくほく顔でこちらに戻ってきた。

「30円もらった。」

「なあ、もしかしてわざとルーレット止められんの?」

「うん。無機物を1分間完全に停止できるの。」

「それ、急にルーレット動き出したりしない?」

「する。」
田中さんが言い終わらないうちに、回していないはずのルーレットが回り始め、ディーラーが首を傾げた。

「まあいっか、さっきの負け分だけでも取り返して帰ろう。」


〜 同日 模擬店 〜

やっちまった。
人は愚かなものだ。
金に目がくらんで、追い出されるまで勝ち続けてしまった。

「ぶんひろうくん、こえおいひいね!」
田中さんが大量の綿菓子を口に咥えながら話しかけてきた。

「くひにものいえたまましゃべうな。」
俺は焼きそばの7パック目を食べているところだ。
俺達は今、有り余る金で豪遊している。

「あ、そろそろキャンプファイヤー始まるって!」

「お、行くか。」

「ねえ、フォークダンスっていうのがあるらしいよ。」

「俺は踊りなんかできないぞ。」

「え〜!一緒に踊りたかったのに。」

「…まあ、どうしてもって言うなら踊ってやらんことも…」

「ちょろくなったね、文四郎くん。」

「帰る。」

「嘘だって!一緒に踊ろうよ〜!」


〜 同日 運動場 〜

グラウンドの真ん中には巨大なキャンプファイヤーがそびえ立ち、カップルまたはその予備軍達がニヤケながら下手くそなダンスを踊り狂っている。

その中に、竹井と長谷川美玲の姿もあった。

「見て美玲、文四郎達が踊ってる。」

「山田をボッチにして百環とわちゃんとイチャイチャさせよう作戦成功じゃん。いい雰囲気になってる?」

「う〜ん、何か浮いてる。」

「まあ百環ちゃんは社会常識ないしね…」

「いや、物理的に。」

竹井が指さした先には、光る靴を履き、
空を踊るように飛ぶ二人の姿があった。

「なあ、俺たち浮いてないか?」

「浮いてるよ、オシャレでしょ。」

「どうなってんだよ、まじで。」

「そろそろ時間だし、帰ろっか。」

「…って。」

「ん?」
文四郎が珍しく顔を赤くしているのを見て、怪訝な顔をする田中百環。

「ちょっと待ってくれ。」

「まだ浮いてたいの?別にいいけど。」

「今日ずっと考えてたんだ。俺の…これからとか、色々。」

「ふ〜ん、将来の夢とか?」

「まあ、将来どうなっていたいか…とか。」

「…そうなんだ。」

「それ…でさ。」
キャンプファイアーは消えたが、打ち上げ花火が上がる。
一年間の学校予算全てを学祭に投じているのだろうか。

「将来、俺の隣にいてほしい…とか考えて。」

「それって…私の、こと?」
花火が上がるたび、紅潮した互いの顔がはっきりと見える。

「俺と…付き合ってください!!」

「…喜んで!」

「ちょっと照れくさいな、田中さん。」

「えへへ…
そうだ、せっかく付き合ったんだから名前で呼んでよ。」

「…とわ。」

打ち上げ花火もクライマックスに差し掛かり、スターマインが始まる。
縄文人と外星人のカップルは、熱い抱擁を交わした。

「そうだ、あの事話さないと。」

「あの事って?」

「私の過去と正体。
いつか言わなきゃいけないと思ってたんだけど…」

「別に言わなくてもいいよ。俺は君自身が好きだから。」

「ううん、言わないといけないの。文四郎くんには。」


「__私は、一万年前に地球を侵略しに来た外星人なんだ。」

「なっ…!?」
文四郎の脳裏に、かつての妻の死に顔がよぎる。

_____あいつらを、殺して_________
__仇は俺がとる、だから安心しろ_______


「ずっと隠しててごめん。
私は司令官としてこの星に派遣されたの。」

「司令官…!?全部お前のせいだったってことかよ!」
死んでいった仲間たちがよぎる。

_____俺たちはもうダメだ、後は頼んだ_____
_______お前ら、俺をかばって…?______


「違うの!私は止めようと…」

「何が違うんだ!!」
自分の死が、よぎる。

__殺す…!みんな殺す!絶っっっ対に許さない!!!__


「私は文四郎くんをソウルディメンターで助けたの!」

「助けただと!?俺に近づくために、俺の家族も、仲間も、みんな殺したって言うのかよ!!!」

「違う!私はそんなこと…!」

「黙れ!!!」
文四郎が百環を殴った。
宙に浮かんでいた二人は、もつれるように地上に落下する。

「お、おい文四郎!何やってんだよ!」

「竹井…!お前も知ってたんだろ!?」

「待て、一旦落ち着けよ!」

「みんな知ってて!俺を!騙してたってのかよ!?」

「やったのは百環ちゃんじゃない!
百環ちゃんは地球の救世主なんだよ!?」
暴れる文四郎を竹井と長谷川美玲が必死で止めようとする。

「もうやめて!!」
百環が叫び、辺りが静まり返る。

「そうよ…全部私のせい。
私があいつらを連れてこの星に来た。
文四郎くんに恋をしなかったら、人類を滅ぼしてた。」

「その汚れた口で俺の名前を呼ぶな!化け物め!!」

「……ごめっ…ごめんなさい」

「泣いたってあいつらは帰ってこない!何で俺を生き返らせた!何で俺をあのままにしておいてくれなかったんだ!!」

学祭が終わり、静けさだけが残る学校。
文四郎は、三人に背を向けて立ち去っていく。
百環の嗚咽だけが夜に響いていた。


〜 同日 地球 第一衛星 月 〜


「到着しました。あの青い星です。」

「よし、シュテールングの発射準備を。」

「ラジャー!」

「Tシリーズ最後の生き残り…お手並み拝見と行こうか。」

人類が1万年かけて築いた全てが今、消え去ろうとしていた。

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