君と、一万年後も。 【第二話】
第一話⤵
次回⤵
まとめ読み用⤵
〜 現代 9月 10日 土曜日〜
髪型はバッチリ。服装もいい感じだ。
田中さんに釣り合うかっこいいキメ顔も準備できた。
待っててくれ、マイハニー。君を呪縛から解き放…
ピンポーン
「おーい、竹井!出てこーい!」
山田の声だ。何でここに来たんだ?
「竹井く〜ん!」
げっ!この声はこじらせ女(名前は忘れた)だ!
最悪だ、今からデートなのに…!
「入るぞ〜」
「人の家に無断で入るな!俺は今からデートなんだよ!」
「竹井くんはあの女狐に騙されてるの!」
「女狐ってなんだよ!今時そんな言葉使ってるやついないだろ!」
「とにかくやめた方がいい。俺の見立てでは田中百環は魔女だ。魂を吸い取られるぞ。」
「わかったわかった。俺はもう行くから。」
〜 同日 駅前 〜
さびれた駅前には人通りが少ない。
台風が近づいているらしく、
生暖かく強い風が商店街から吹き抜けている。
「7分34秒遅れ。ここの人は時間守るんじゃないの?」
「ごめんごめん、ちょっと邪魔が入ってさ。」
「まあいいけど。どこに行くの?」
「まずは、映画館だ!」
仲良く連れ立って歩く彼らを見つめる二つの影。
二人とも田中百環を親の仇であるかのように睨んでいる。
「山田くん、後をつけるわよ。」
「イエッサー…!」
〜 同日 某映画館 〜
『飯探偵ゴハン 偽りの黄金芋』
『薩摩弁ジャーズ インフィニティチェスト』
『ねばりのトロロ』
『黄身を水槽で混ぜたい』
『地熱の刃 無限発電編』
田舎の映画館ではよほどの人気作しか上映しない。
そのため、今日上映している映画はこの5作品だけだった。
「田中さん、どの映画がいい?」
「一番面白いやつ。」
「やっぱデートで見るなら感動恋愛ものだよな。
よし、『黄身水』にしよう!」
「それホントに面白いの?」
竹井がさり気ない動作で田中百環の手を掴み、劇場内へと入っていく。
それを隠れて見ていた二人は考えうる限り最悪の侮蔑を吐きながら彼らが出てくるのを待ち続けた。
〜 同日 カラオケ 〜
『黄身を水槽で混ぜたい』はよほど名作だったらしく、涙を流しながら映画館を後にした竹井たちは勢いでランチを済ませ、熱意冷めやらぬままカラオケに突入した。
「そして〜か〜がや〜く」
「「ウルトラソウっ!!!」」
「あ〜!歌うって楽しいわね、こういう文化が私達の星にもあれば良かったのに。」
「…そうだね。ここなら誰にも聞かれてない。
ありのままの君でいてもいいよ。」
「じゃ、お言葉に甘えて。」
そういうと田中百環は服、いや肌というべきか。
とにかく身体を脱ぎ、異形のものへと姿を変えた。
「僕は君のありのままを愛する。
だから、山田の家で君が見せてくれた"あれ"について詳しく教えてほしい。」
「……あれは私の過去。それしか言えない。
確かにあなたには感謝してる。
私が文四郎くんに嫌われないように色々アドバイスしてくれて、地球のことも教えてくれて。でも全部は言えない。まだ文四郎くんにも話せてないんだから。」
「…わかった。俺、ちょっとトイレ行ってくるわ。」
険しい顔をして部屋を出る竹井。
一人になった田中百環が少さく呟く。
「言えないわよ、私のせいで彼の家族が死んだ……なんて。」
外は更に風が強くなり、雨もパラパラと降り始めている。
「…さむ。」
「いつ出てくるのよ、竹井くんたち。」
〜 同日 ホテル街 〜
台風は直撃こそしていないものの、
雨と風はどんどん激しくなっていた。
竹井たちは居酒屋で夕食を済まし、ホテル街を観光していた。
一つのホテルの前で竹井は足を止め、決意を固めた顔で田中百環に話しかけた。
「雨がすごいな、ここで休憩しようぜ。」
「こんな大きな建物で休憩していいの?」
「ああ、そういう建物だ。」
「そう、じゃあ入りましょ。」
二人がホテルのエントランスに足を踏み入れようとしたその時、竹井の肩を何者かが掴んだ。
「目を覚ませ、竹井。」
「山田…?とクラスメイトの女!」
「名前覚えられてなかったの…!?」
「何しに来たんだよ!いい雰囲気だったのに!」
「お前は洗脳されてる、家に帰るぞ。」
「あ゛ぁもう!違うって言ってるだろ!ちょっとこっち来い!」
竹井は山田を引きずってホテルの駐車場に向かった。
こじらせ女は田中百環を睨む。
「抜け駆け禁止だって言ったでしょ…!」
「いや、私は竹井くんに興味なんてないから。」
「ホテルに来といて良くもそんなことを!」
「休憩するだけよ!」
「そんなわけ無いやろがい!!」
「うるさい、帰って。」
田中百環がポケットから小さな棒を取り出し、こじらせ女の額にちょんと当てる。すると、見えない手に押されるかのようにこじらせ女が外へ飛び出ていった。
駐車場では、暴風雨の中で竹井と山田が言い争っている。
「いいか、一旦話を聞け。俺は彼女に惚れたんだ。洗脳なんかされてない。」
「信じられるかよ、今まで誰に告白されても断ってきたお前が。」
「それはもっともだ。でもな、恋ってそういうもんだろ。」
「きしょ。とにかく、いったん冷静になれよ。」
「いや、もう今日しかないんだ。お前が田中さんと仲良くなりでもしたら、俺はすぐに用済みになる。彼女はお前しか見てない。ずっと昔からな。」
「はあ?どういうことだよ。」
「俺は今日、彼女を縛ってる呪いを解く。お前という名の、呪いを。」
「呪い?やっぱり魔女かよ!」
「違う、お前の存在自体が呪いなんだ。彼女が前に進めないのは、お前のせいなんだよ。」
「意味わかんねえよ、お前は何をしようとしてるんだよ!」
「俺は、彼女との間に既成事実を作る。
幸い田中さんはそういう事に無知だからな、
後でちゃんと言ったら納得してもらえるだろ。」
「…………だめだ。」
「なんでだよ、お前には関係ないだろ?」
「人として良くない。俺はお前に道を踏み外してほしくない。」
「なんだよそれ、何も知らないくせに!」
「知らねえよ、何も!
でもお前が、お前が間違った方向に行こうとしてるのはわかる!頼むからやめてくれ!」
「黙れ!!」
竹井が叫んだ。風はますます強くなり、木がミシミシと音を立てて揺れ、雨は酷く少し先すら見えない。
「俺はお前が憎い!田中さんの傍に居てやれるのは、お前だけなのに!!お前は、お前は全部拒絶して!!!それでも彼女は!!俺じゃなくて、お前を選ぶ!!!!なんでなんだ!!!!」
竹井は怒りに任せて山田の顔に殴りかかる。
しかし、山田はスルリとかわし、竹井の首元に軽く一撃を加えた。崩れ落ちる竹井。
「そこで頭冷やしとけ、竹井。」
「強過ぎんだろ…やっぱ、文四郎は…じ……」
竹井の顔が雨粒と涙でぐちゃぐちゃになる。
山田はそれを横目に見て、フロントで暇そうにしている田中百環に声を掛けに行った。。
「田中…さん、帰るぞ。家まで送ってやるから。」
「ホント!?やった〜」
雨は激しいが、田中百環が謎の装置で二人の頭上の雨を払い除けている。
「竹井くんは?」
「お前に悪いことをしようと企んでたから、お仕置きしてきた。」
「そう…ありがと。」
「あいつも悪いやつじゃないんだ。何かしたのか?竹井に。」
「ううん。何もしてない。」
「その言葉、信じるからな。」
「ねえ、月曜日から一緒に登校しない?」
「ん〜、考えとく。」
「そっ。じゃあ決まったら教えて。」
「変わったな、お前。」
「竹井くんが、色々教えてくれたから。」
「…そうか。」
「じゃ、私ここだから。」
「ここ何もないぞ。」
「いいから。また明後日ね。」
「おう、それじゃ。」
田中百環が山田から離れた途端、雨が山田に降り注ぐ。山田は急いでホテルへと戻っていった。
〜 10000年前 1月 1日 洞窟 〜
異形の生物が空から現れた。
人間とは似ても似つかないその生き物は、
まだ知能の低かった人類を次々と葬っていった。
ある女性が殺された。その女は子供を身ごもっていたが、等しく殺された。丁度その時狩りにでかけていた夫は、激しく悲しんだ。
そして決意した。異形の生物達を皆殺しにすると。
〜 現代 9月 12日 月曜日 〜
朝だ。結局田中さんと一緒に登校することにした。
何だか変な気分だ。この胸の高鳴り、
まるで………まるで何だよ、アホらしい。
俺に人を好きになる資格なんて無いのに。
踵の擦り減った運動靴を履き、家を出る。
田中さんが家の前で待っていた。
「おはよ、文四郎くん。」
「おう、不法侵入は無しか。感心だな。」
「だって文四郎くんに嫌われたくないもん。」
「そうだ、竹井から連絡あったか?
電話かけても繋がらなくてさ。」
「ううん、なかった。」
「そうか、学校には来てたらいいんだけど。」
一昨日の夜、田中さんを送った後にホテルの駐車場に戻ったが、竹井の姿はなかった。家に帰ったんだろうが、闇堕ちとかしてたら困る。あんなのでも一応親友だ。
〜 同日 某高校 〜
台風で損傷したのか傷だらけになっていた校門をくぐって靴箱を抜け、教室に入ると一緒に竹井たちを尾行した女(名前は忘れた)が仲間を引き連れて仁王立ちしていた。
「田中さん、俺の後ろに隠れとけ。」
「大丈夫よ、私強いもん。」
「強いわけないだろ。道具で得た力は本当の力じゃない。
最終的には筋肉がものをいうんだ。」
「田中…百環!泥棒猫がどの面で!」
「何もしてないってば、彼が勝手に私を好きになっただけ。」
「ふん、私を吹っ飛ばしておいてよくもそんなことが言えるわね。」
「だってうっとおしかったんだもの。」
「とにかく、もうあんたの席はこの教室にないから。」
この女…やることなすこと古臭くないか?
「別にいいわよ、自分で生成するし。」
「ま、まあまあ落ち着けよ。田中さんはちょっと社会一般常識がないだけで普通の女の子なんだ。
悪気は多分ない。そんなにないと思う。あって欲しくない。」
俺の完璧なフォローで、こじらせ女は少し表情を和らげた。
「…竹井くんと連絡が取れないのよ。学校にも来てない。その女がなにかしたんじゃないの?」
「あ〜、なにかしたのは俺だ。
殴られそうになったから、こう、手刀でガッと。」
「はぁ!?何よそれ、あんたのせいじゃん!」
「正当防衛だ!確かに俺はすごく強いから竹井なんぞに殴られても全然大丈夫だけど、気持ちの問題ってものが…」
「黙れ脳筋が!皆、竹井くんの家に行くわよ」
「待てよ、授業始まるぞ。」
「関係無い。私達には竹井くんのほうが大事。」
そう言い放ってこじらせ女は教室を出ていった。
取り巻きは誰も付いていかなった。可哀想。
〜 同日 竹井の家 〜
ピンポーン
湿った空気にインターホンの音が響く。
ピンポーン
家の中には竹井一人しかいないらしく、
当の竹井も出る気は全く無いようだ。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
「やめろよ山田!口も聞きたくない!!」
「山田のバカじゃないわ。私よ、長谷川美怜。」
「へ〜長谷川って名前だったんだ。
まあいいや、今は誰にも会いたくない。帰って。」
「ドアを開けてくれるまで無限にインターホンを押し続けるわよ?」
「は?マジで言ってる?」
「とにかく開けて!竹井くんが心配なの!」
「すぐ帰るなら、開けてやってもいいけど。」
「すぐ帰る。すごいすぐ。」
ガチャ
「お邪魔しま〜す。
あ、これお土産。二人で食べる用に。」
「すぐ帰る気ねえじゃん…」
長谷川はズカズカと上がり込み、
いの一番に竹井の家の冷蔵庫を勝手に開け、中にあったオレンジジュースをこれまた勝手に2つのコップに注ぐと、一つを竹井に差し出した。
「ここ、俺の家。お前、客。すること、逆。」
あまりの非常識さにカタコト脳筋みたいになってしまった竹井を椅子に座らせると、長谷川は口を開いた。
「全部話して。あの女が転校してきてから起こったこと全部。」
「嫌だよ。なんでお前にそんなこと…」
「私達友達でしょ。」
「違う。」
「じゃあまあクラスメイトでしょ。」
「それは他にも40人くらい居るだろ。」
「………力になりたいの。」
「お呼びじゃない。帰ってどうぞ。」
「帰らない。竹井くんが全部話すまで。」
「まぁじかよ。激ヤバじゃん。」
それから3時間が経った。
竹井はすっかり憔悴して、もう泣き出しそうだ。
「話す気になった?」
「………………………話す。
でも、信じられない話ばっかりだぞ。」
「わかった。聞かせて。」
「俺は山田に田中さんからのストーカー行為をやめさせるように泣きつかれたんだ。だから田中さんと一対一で話し合うことにした。その時、田中さんは俺に見せてくれたんだよ。彼女の過去を。」
〜 竹井が見た田中百環の過去 〜
一目惚れだった。2000年生きてきて、初めての経験。
体中に電流が走った。あの眼差し、強い心、全てを守ってくれそうな力。
全てが私の周りにいる他の生命体と違った。
私は侵略をやめるよう上層部に訴えかけるため、母星へと帰った。
私は上層部のお気に入りだったから、すぐに侵略をやめることを認可してくれた。
私は急いで地球へと向かった。
でも、遅かった。
私が戻るより前に、私の仲間は虐殺を始めていた。
彼は、彼は殺されていた。私は怒りに囚われ、同胞を皆殺しにした。
こんなことをしても彼は生き返らない。
それはわかっていた。
いや、わかっていなかったのかもしれない。
だから、彼にもう一度会うために。
私は、眠った。
金をくれたら無償の愛を授けます。