ふってきたみかん
※途中あまりきれいでない表現をしてしまいました。気をつけて閲覧下さい。
みかんが落ちてきたので、ふと上を見上げたら、近くのマンションの一室のベランダから巨大な木が生えていた。ベダンダとほぼ同じくらいの太さの木が凶暴さを感じるくらいの勢いで生えている、というよりもはみだしている。
これは見事な木だな、としばらく見上げていると、木の奥、おそらく部屋の中に通じる窓の部分と思われるが、から、人が出てきた。足の踏み場もないほどなので、木の幹に沿うように回り込んでベランダの外側へはいでてきた。上を見て、木の全容をたしかめているように見えた。
「や、すいません、なんか」
その男は、おそらくその部屋の住人なのだろうが、ふとベランダからこちらを見て、こちらが何も言わないのに、目が合うとすぐに謝った。
「いや、別に、僕は、ただ見てただけで」
「いやあ、それ」
そう言って住人は僕が手に持ったみかんを指差す。
「ああ、これ」
「落ちてきたんでしょ。実はさっきも、同じようにみかんが降ってきた、って人がいて」
「そうなんだ」
「そう。それがおじさんで、なんだかよくわからないけど、とても可愛がっている犬の頭にみかんがあたったんだそうです」
「あらら、それはお気の毒に。」
「そうなんですよ。それで犬が死んだって」
「え?ほんとに?」
「そんなことあるわけないでしょ。理不尽にもほどがある」
住人はため息して、かたわらの大きな木を見上げた。
「どうして、こんなになっちゃったんですか?それ」
僕はほんの興味で、住人にそう訊いてみた。
「いや、罰があたったんですよ」
「罰?」
「ええ。昨日、しこたま飲んでましてね」
「お酒を?」
「ええ、お酒を。それでかけちゃったんですよね」
「かけちゃった?」
「ええ。木にね。木っつっても、昨日までは植木程度だったんですけど」
「木に、何をかけちゃったの?」
そう訊くと、住人はなぜか、恥じらうような顔をした。
「ええと、あんまり言いにくいんですけど」
「言いにくい?」
「ええ。まあ、いいか。あの、おしっこをですね」
「おしっこ?!」
「ちょ、そんな大きな声出さないでくださいよ」
「いや、驚いた。それでこんなに木が大きくなるんですね」
「自分でもびっくりですよ。こんなに大きくなるくらい、栄養満点だったんて」
「汚いな」
「すいません」
住人はぺこりと頭を下げた。
僕は笑って、右手をあげて彼の部屋を後にした。
新聞の地方欄で、巨木が切られたというニュースを数日後見つけた。
住人が満面の笑みで写真に写っていた。
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