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専門家向け 親の思想信条に悩む子世代(“宗教二世”等)への支援(1)

本論では親の思想信条に悩む子世代、いわゆる“宗教二世”などへの支援について、専門家が理解するのに役立つ情報を提供します。

”宗教二世”という呼称

彼らはよく“宗教二世”などと呼ばれますが、これは当事者が好む表現です。2020年頃から全国ネットの番組でも細々と取り上げられるようになりましたが、その名が一気に広まったのは2022年7月に起こった元首相殺害事件からでした。当初はこの犯人の背景にあった旧統一教会に注目が集まりましたが、以後、エホバの証人など他の団体の当事者も声を挙げるようになり、一定の認識がなされるようになりました。

なお、カルト二世という表現もあるのですが、これは当事者はあまり好まない傾向があります。その理由は別のところでご説明いたします。

さて、この宗教二世などと呼ばれる方々の環境にはどのような特徴があるのでしょうか。

世代間連鎖とは異なる、信念による不適切な養育

支援に関わる方にとって重要なのは、まず、これが親世代からの世代間連鎖による虐待・マルトリートメントとは異なる面があるという認識です。支援に関わる方には世代間連鎖の結果としての虐待やマルトリートメントにはなじみがあると思います。宗教二世と呼ばれる方々にも、この問題が潜んでいる場合もありますが、一義的には別の理解をすることが必要です。それは、家族単位ではなく外部の組織的な信念が強く影響しているという点です。首相殺害事件で注目を集めた統一教会の場合、子供に恋愛の自由を与えてはならず、組織の定めた結婚をしなければならないとされるため、親世代は良かれと思って子供の行動を支配します。エホバの証人の場合、幼少期から伝道活動などに駆り出され、かつては幼子を鞭で打つなどの体罰が与えられました。親は子供をそう育てることで宗教的救済に与らせられると教えられたのです。

傍目から見れば虐待やマルトリートメントですが、親は宗教的信念に則り、子供のためを思ってそのような行動に出ます。いわば、それが親としての愛情表現なのです。これがいわゆる世代間連鎖とは大きく異なる点です。

世代間連鎖の場合は親世代自身が親世代から不適切な養育を受けた結果、養育に影響が出ます。幼少期に情動を適切に扱ってもらえなかったため、情緒が不安定になりやすくなったり、愛着や他者への信頼を築きにくくなったりします。そして、次世代養育に際して動揺しやすかったり、適度なやり方がわからず、ストレスを溜めやすくなったりします。養育のみならず、これらに付随して社会的な生活を維持しにくくなると貧困や精神疾患に悩まされたり、仕事や人間関係の継続が難しく、子育て環境が安定しにくくなることもあります。

専門家にとってはありふれた世代間連鎖と異なり、“宗教二世”は親世代が組織的信念に取り込まれて確信的に不適切な養育を行います。親世代が世代間連鎖に巻き込まれているかはケースバイケースで、宗教的信念に巻き込まれた事後では弁別しにくいこともあります。ただ、二世自身や第三者は親世代の入信前や入信過程を直接知ることがないので得てして「不幸な人生だから、そんな道を選択してしまった」と捉えがちですが、専門家はそこは慎重に扱った方がよいでしょう。というのも、統一教会の勧誘が非常に巧みであることは周知の事実で、平凡で幸せな生活を送る人に入信理由を作り出すことも出来るからです。こうした勧誘技術は宗教に限らず、マルチ商法や自己啓発セミナーなどでも用いられます。不幸だから救いを、というよりは、より充実した人生を目指してなど、屋上屋を重ねるやり方でも信念に取り込むことが出来るのです。エリートや富裕層を狙って勧誘することもあります。こういった被勧誘者層は世代間連鎖と縁遠く、恵まれた育ちをしていることが少なくありません。そんな人たちも信念に取り込まれれば、子供を抑圧するような養育が「子供を幸せにする」と思い込んでしまうのです。

宗教のみならず範囲は多岐に渡る

また、“宗教二世”のみならずマルチ商法や陰謀論、反ワクチン、反医療、極端な民間療法など強固な信念の犠牲になる子世代もこれらに該当します。反ワクチンは幼少期に親世代の意向でワクチン接種をさせてもらえず、これらは一定の年齢を過ぎると接種機会を得にくくなるので、本人が物心ついてからとても困る場合があります。また、反医療思想の下、適切な医療を受けられず、子世代が不利や苦痛を被ることもあります。自己啓発やそれと親和性の高いマルチ商法などでは経済的な問題に巻き込まれることもありますし、子育て世代の親が活動に没頭し、子供がネグレクト状態にされることもあります。親世代が陰謀論に嵌り、子供の生活まで脅かされることもあれば、反医療や反ワクチンを唱えるゆえに子世代からその権利が奪われることもあります。成長期に極端な食事制限を強いられ、成長に支障が出る場合もあります。お気づきかと思いますが、これらは宗教的信念と同時並行することもありますし、複数が結び合わさることもあります。

このように親世代の信念には宗教から宗教の形を取らないものまで幅があり、親世代の世代間連鎖の問題も別途、丁寧なアセスメントが必要ですが、ともあれ組織的な信念により、親が良かれと思って子世代を苦しめる現象に注目し、支援に加わっていただけると幸いです。

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