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静寂の中にある悠久に立つ
冬至の日に戸隠へお参りに行った。
そこで不思議な体験をしたので、書き留めておこうと思い筆を取るも、言葉にすることが容易でなく3日が過ぎてしまった。
起きたことを細かに記そうとするからだ。
これは私の癖なのだろう。だからいつも書くのが遅くなる。
たったひとつでいい。
あの場で強く感じたことは何?
そう自分に聞いてみた。
それは
「自分の小さな欲など、もはやどうでもいい。
私に与えらた全てを引き受けるんだ」
というもの。
私はあの日、そういう境地に立っていた。
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冬の戸隠には滅多に行かない。
まして奥社へ行こうなど思ったことなかったのに、今年はお礼参りがまだだったこともあり、行くことにした。
雪が多ければやめよう、行けるところまででいい。
そのくらいに思っていたので、街を歩くよりはしっかりしていたが「雪山」を歩くには明らかに軽装だった。なんなら手袋も忘れたし。
それなのに…
奥社どころか不思議なご縁に導かれ、参道から外れた森の奥にある磐座にまでお参りをすることができた。
先導をしてくださったのは、たまたま出会った山伏のお二人。
道なき道を(おそらく)感覚を頼りに分け入り、進む道を拓いてくださった。
先に雪を踏み固めてもらった後をついていく。
それでも足元は不安定で、時にぬかるみに足を取られ、枝葉に絡まれながら、どうにかこうにか足を前にと動かしていた。
四苦八苦しながら進んでいるうちに、なんだか神様に遊ばれているような気分になった。
現れる自然に抵抗しジタバタする自分の姿は空から見たらさぞ滑稽だろう。
神様はそんな人の姿を見てくすくす笑っているのかもしれない。そんなふうに思えると、こちらもだんだん可笑しくなってくる。
手は悴むし、髪は凍るし、とんでもないところを歩いているのに、不思議と怖れはなく、目の前だけに集中することで気持ちが静かになっていくのがわかった。
そうしてたどり着いた場所は明らかに異空間だった…
私が見た磐座は戸隠山から落ちてきた岩の一部だという。
見上げるほどの巨石は洞窟のように窪んでいて、そこに観音さまが静かに立っていた。
けれどその磐座がどうというのではなく、目の前にある景色の全てが異様な存在感を持っていた。
これが本当に言葉にならない…
神々しい!というのも違う。
圧巻!というのも違う。
存在感をこちらに向け放っているわけでもない。
ただ「在る」だけなのだ。
岩も木もそこに在るだけ、深々と降り積もる雪をただひたすらに受け入れ静かにたたずでいた。
しばし山と森の声を聞く。
私たちも、ただ「在る」ものの一部となる。
不思議な感覚。
すると遠くから読経をしているような声が微かに聞こえてくるではないか。
だがここには私たち意外、誰もいない。
誰も声を出してはいない。
けれど驚きはしなかった。ここは古くから続く修験の場だ。多くの祈りが捧げられてきたはずだ。その想念が残っているのだろうと受け止めた。
この千年と続けられてきた祈りに、私たちは今もなお守られている。
それを体感した。
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不要な思考を一切合切削ぎ落とされると、全てが与えられたものであることに気づく。
普段の私はそれを「ああなりたい」「こうしたい」とコントロールしようとしているのだ。
それがとても傲慢なことのように思えてきた。
しかし大いなる存在は、それでもなお守ってくださっている。
この恩にどう報いたらよいのか。
お導きのまま、自分に起こることの全てを引き受け、この生を全うする他ない。という覚悟のようなものが自分の中に小さく宿った。
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こうして書くと、とても達観した人になったかのようだが、全くもって違う。
自分の欲などどうでもいい。
と、心の底から思ったのに、戻りの道ではすでに「早くお蕎麦が食べたい」とか「あー、柚子湯に入りたい」とか、小さな欲が溢れてきた。
所詮は俗世の人間だなぁと、自分に呆れた。
しかし、だからと言って垣間見た無の境地で感じたことが嘘だとは思わない。
あの時、無欲になった自分も、その後に小欲にまみれた自分も、どちらも私だ。
私は俗世に生きているので、やりたいことや叶えたいことを求めて生きていくだろう。
けれど、静寂の中にある悠久を感じたあの体験は、今後の私の生き方に大きく影響するはずだ。
冬至は太陽が死に、復活へと転じる節目の日。
私の内側にある見えない意識にも、小さな変容の一滴が落とされたように感じた。
この一滴を日常の中で少しずつ広げていこうと思う。
最後に、この日のお導きとご縁に心より感謝いたします。ありがとうございました。
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