イギリスから帰国する間、何が起きていたか 〜アウトブレイクからロックダウンまで
帰国後の宿泊先でこれを書いています。
要請されている自己隔離の14日間が開けるまで、実家には戻れません。
本当は6月末まで、イギリスにいる予定でした。
それが、残り3ヶ月以上を切り上げて緊急帰国に至りました。
やっと慣れてきて、好きな季節である春と夏を
イギリスで迎えられることを心待ちにしていましたが
こんな形でイギリスを離れることがとてもとても辛かったです。
それなのに、どうして帰国を決めたのか。
その経緯を書いておきます。
2月あたり
新規の中国人留学生たちはガクッと減った。でもまだ遠い国の怖い病気、くらいの印象だったと思う。
3月はじめ
街で中国人に間違われ、コロナのことを遠回しに冗談で言われた。(言い返したけど)
他のアジア系の人たちからも、ちらほら差別的な言動を受けたことを聞いた。
3月8日
イタリアでの感染がどんどん広がっていった時期。オックスフォードでも前の週に、ついに感染者が出ていた。イタリア出身オックスフォード在住の人たち数名と話した時、職場などで心無い言葉を言われたと聞いた。もう誰が感染してもおかしくなかった。
でもまだ少ないよね、なんて言って事態がすぐ収まるものだという前提で会話していた気がする。
3月9日〜
感染者数がどんどん増えていっている。少しずつ緊張感のようなものが募っていった。ニュースを見ると毎回その話題だった。
チェコが国境を封鎖したと聞いた。
ヨーロッパのあちこちから来ているクラスメートたちから、張り詰めたものを感じた。
今思えば、この時点でヨーロッパ出身の人たちは、すでに相当な危機感を感じていたと思う。
3月13日(金)
コロナ感染拡大についての英首相アナウンスがあり、それに伴って語学学校で全校集会があった。
この時点では、手洗いを徹底すること、感染の可能性は誰にでもあること、ただし若い世代や持病の無い人たちにとっては感染しても比較的軽い症状で済むこと、もし何か症状が出たら軽いものでも自宅待機することなどが告げられた。
また、イギリスでは、イタリアから数週間遅れてピークが来るであろうことも伝えられた。
もしこの時点で学校をキャンセルするのであれば、
・学費は返金不可(延期は可)
・ホームステイ費用は伝えた日から1週間以降の分を返金が可能
ということも聞いた。
ただし、防ぎようはある病気でもあることから、不安はあったものの楽観視できる部分も感じた。
日本人生徒たちとは、「帰国しても、日本の状況とあまり変わらないはずだから」と、予定通りイギリス滞在を続けるつもりと皆が同じ意見だった。
他のヨーロッパの国出身の生徒たちの中には、帰国を本格的に考える生徒も出始めた。
3月14日(土)
何人かに滞在を続けるかどうか聞かれた。大家さんと、イギリスの後に訪れる予定だった別の国の友人に。この時点ではまだ残る予定だったし、そう伝えても相手から違和感は感じなかった。
3月16日(月)
チェコ出身のクラスメートが学校に来ていない。急いで帰国したようだ。
パリ出身のクラスメートが帰国を決めた。残すところ、この週含め2週間で卒業の予定だったが、パリが封鎖される前に帰るのだそうだ。封鎖まで48時間(だったかな)を与えられ、封鎖後どこにいるかを決めなければならなかったそうだ。彼女は家族のいるパリに戻ることを決めたのだった。
スペイン本土のクラスメートも帰国すると言い、「あなたも帰るの?」と聞かれた時、わたしはそのつもりはないよ、あと少しでオックスフォードはちょうど卒業だし日本に帰っても同じような状況だから残ると告げた。その時、彼女は険しい顔になり、「もしわたしがあなただったら、帰国を決める。家族と一緒にいた方がいいよ。」と言われた。
わたしは少なからず、生き別れになるわけじゃないし、そんな大げさな…なんて思っていた。
まだ学校には通えるし、あと2週間後スコットランドへ行くし…と帰国したくない気持ちの方がまだ大きかった。
夕方、英首相の会見があった。先週金曜から一転、状況が厳しくなっていることが理解できた。
気持ちがざわざわし始めた。訳のわからない不安が湧き上がってきた。こういう気持ちは無視してはいけないことを知っていた。
先週の金曜から72時間もしないうちに、政府の対応が変わったこと、他のヨーロッパの人たちの緊張感から、今の普通の暮らしがどうなるのかわからなくなった。
3月17日(火)
ベルギーのクラスメートの姿がなかった。昨日話した時に「もしかしたら明日帰国するかも」と言っていた。きっと帰ったのだろう。
スコットランドへ行こうかどうか迷っている、と校長に相談した。行くなら飛行機か電車のチケットを早く手配しなければならない。でも、今の状況は日に日に深刻になっている。しかも、イギリスの感染者数ピークはこれからなのだ。状況は良くなる訳ではなく悪化する。
"Don't go."
校長も、それを近くで聞いていたスタッフのIも口を揃えて言った。
後押ししてほしかったのかもしれない、自分の決断が最善のものだと。
帰国することに、気持ちを固めた。
他の生徒たちにも話をした。日本人生徒たちは、わたしの決断を聞いて意外そうだったが、帰国する方がよいかもと悩んでいた部分もあったようだ。わたしの他は皆大学生だったので、親御さんと話してみると言っていた。
午後になってロンドンのいくつかの学校が自主的に休校したのを聞いた。この時点で、ごく近いうちにイギリス国内で休校する学校がで始めるだろうと感じた。
でもまだどこかで、本当に帰国がいいのか100%良いとは言いきれない部分があった。
それは、かすかでも事態が好転することに期待したかったし、これから先の予定を全部こなしてから帰りたいという気持ちも残っていたからだった。でも、それが出来なくなるであろうことは、簡単に予想もついた。
3月18日(水)
帰国を迷っていた日本人生徒たちも、帰国を決めたようだ。わたしも帰国する旨を学校に伝えた。
そして、その日の午後、学校にいる間に帰りのチケットを変更した。変更可能なチケットを購入しておいて良かった。手数料もかからないから費用の心配はなかった。
ロンドンからの直行便はすでにかなり予約で埋まっていた。やはり同じように帰国を決めた人が多かったのかもしれない。
帰国日を決めたと学校に伝えると、残りの13週間をどうするか判断を問われた。キャンセルして返金不可にするには金額が大きすぎる。延期したい旨を伝えて、とりあえずの日付でシステムに入れてもらった。日付を決めておかないと延長手続きが登録できないそうだ。この担当のスタッフの方もイギリス国外出身で帰国を予定していた。
いくらでも早く、全ての学生の予定と安全を確かめておきたいという学校の姿勢が見えた。いつでもここにいると家族のように気にかけてもらえる。
「いい決断をしたね」「その方が絶対いいよ」と先生方、スタッフの方達に声をかけられた。「不安なまま残ったとしても、体にも心にもよくないよ。よく決めたね」という校長の言葉が、決断を暖かく包んでくれた。
借りていた部屋の大家さんにも帰国を伝えた。「今の状況では、それが賢い選択」と言ってもらえた。
周りの皆に緊張感が広まっていた。
夜になって改めて航空会社のウエブサイトを見たら、直行便かつ変更できる便がほとんどなくなっていた。この日の早い時間帯で予約変更してギリギリ間に合った。
そして、同じ日に、英政府は国内全ての学校の休校を発表。
早いうちに決断してよかった。気はずっと張り詰めている。
3月20日(金)
この日をもってイギリス国内の学校全てが休校となった。もちろん、わたしの通っていた語学学校も翌週以降から休校となる。再開時期は不明。誰もわからない。文字通り、誰にもわからないのだ。
お昼頃から、村の中に(通学していた学校のある場所)小さな子供達の姿が増えた。天気が良くて楽しそうな子供達の声が聞こえるのに、世界の状況は悪化していることが目の前の光景とギャップがありすぎて白昼夢でも見ているようだった。
3月21日、22日
この土日でほとんどの生徒たちが自国に帰っていった。
帰国に際し必要なものがあって、街中にでかけたが、すでに静まり返っていた。でも天気も良かったせいかちらほら人の姿がある。
この週末を界に、休業するお店もある。
日曜の夕方にトルコ出身の友人から連絡があった。
しばらくの間、イギリス発トルコ行きが全便キャンセルになっていたが、トルコ政府が翌日23日にイギリスに残った学生たちのためだけに臨時便を飛ばすことになって帰国できるようになったらしい。
トルコに帰ったら、全員が強制的に14日間を検疫所で過ごすそうだ。当然費用は政府持ち。それでも帰国してすぐ家族に会えないとなると、まだ10代のその友人は辛そうだった。
でもよかったね、やっと帰れるねと話した。
3月23日
前日、さらに英政府から発表があった。聞くたびに状況が厳しくなっているのがわかる。家にいて、他の人たちとの距離を保つように、そして食料品の買い出しや運動のためなら外出が可能とのこと。それ以外は外出はやめて家にいるようにとのこと。
わたしは荷物の準備もあったので家にずっといた。リビングルームからバスが通るのを何度も見かけたが、乗客が1人も乗っていない便ばかりだった。一見通常の光景なのにそうではない。ひたひたと恐怖感のようなものが募る。ずっと天気が悪かったのにここ数日は青空が広がる。その明るさが、ひと気のない景色を妙に怖く引き立てた。
帰国の前日までのことはここまで。
帰国日から入国、その後のことはまた別に書きます。
※有料記事にしていますが、全文無料で読めます。
帰国者全員に要請された自己隔離14日間のため、宿泊施設に滞在しておりその費用も全て自己負担です。よかったらそのカンパいただけるととっても助かります!
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