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【小説】想像もしていなかった未来のあなたと出会うために vol.55

★ママ友★

 幼稚園年度末のお別れ会。係をやっていたのに、当日になって栞里が熱を出し、親子共々欠席することになった。熱が下がり幼稚園に復帰し降園時間にお迎えに行くと、誰も挨拶すらしてくれない事態になっていた。
「栞里ちゃん、具合は良くなったの? インフルエンザだって聞いたけど」
進藤結奈のママは、帰路にについた尚美と栞里を、自転車で追いかけてきて、声をかけた。
「ううん。幸いンフルエンザではなかったわ。咳が出たり、風邪っぽい症状もなかったし。熱が上がっちゃっただけだったの」
「えっ? お母さんは、うつらなかったの?」
「もちろんよ。具合が悪かったのは栞里だけ」
「・・・そこから違うんだ」
結奈ママはため息をついた。
「花楓ママたちは、栞里ちゃんママのことを、インフルエンザで咳をしているのにお別れ会に出ようとしていた、危ない親子みたいに言い触れ回っているの。私が身体を張って止めました、って言ってた」
尚美も深くため息をつき、苦笑いをしながら言った。
「お別れ会に出るな、とは言われたけどね」
「どこかで会ったの?」
「だって、お弁当を運ばなきゃ、行かなかったから」
「それ、栞里ちゃんママがやったの?」
「そうよ。・・・だって担当だったから」
「自分たちが運んだって言ってたよ」
「私が運んだのは、駐車場のところまでだったけど」
「・・・そこまでが、大変なんじゃない」
尚美もそんなことだろうとは思っていた。
「先生への挨拶の言葉は?」
「もちろん、原稿は早くに書いて、渡してあったわよ」
「だよね。ちらっと、見たような気がしたもの。・・・でも、それも、栞里ちゃんママが書いてくるって言ったのに、貰っていなかったから、急遽考えました、とか言って、花楓ママが言ってた」
「ひどいな」
苦笑いもできなくなった。
「そんな風に、お別れ会の時に、・・・栞里ちゃんママは無責任だって言っていて、先生にも、気を付けて下さい、とか言っていて。・・・で、そういう人には、ちゃんとわからせるためにも、相手にしてはいけないんだ、って、無視してください、って命令していたのよ」
尚美は顔を覆い、首を振った。
「私なんかは、お別れ会の係の時を見ているから、栞里ちゃんママがそんなはずないってわかっているから、反対したかったんだけど、・・・あの人たちにハブられてる人何人も見ているから、ホント怖くって。何にもできなかったの。ごめんなさい」
「・・・こうして教えてくれるだけで、ありがたいわ」
「・・・みんな、栞里ちゃんママが悪い、なんて少しも思っていないと思うよ。でも、あの3人組が怖くて、・・・子どもも人質に取られてるし。だから、栞里ちゃんママを無視したりするかもしれないけど。我慢してあげて」
「話してくれて、ありがとう」
「・・・私も、園庭で、誰かに見られるところだと話せないかもしれないけど、栞里ちゃんママの見方だからね。・・・春休みまであと2日だから、それまで頑張って。・・・4月になればクラス替えもあるから、元に戻れると思うよ」
そこまで話すと、結奈ママは自転車で帰っていった。

 結奈ママと別れると、尚美は全身が震え出し寒気がした。慌てて家まで帰ると、虚脱感と震えで、ソファーに座り込むと立てなくなった。
「栞里。なんだかママ、お熱が出てしまったみたい。・・・パンがしまってあるところわかる? 出して食べてくれる?」
非常食用にと切らさないようにして、パンのストックがある。栞里にはそれを食べさせた。熱を測ってみると38度ある。しんどいはずだ。
 幼稚園中のママたちに無視されているとわかった時から、ふつふつと怒りが溜まっていった。3人組が悪い噂を流していると想像はしても、それに迎合するママたちが気持ちがわからなくて、怒りのやり場がなかった。しかし、結菜ママに原因を聞かされたことで、怒りが一気に爆発し、熱が出てしまったのだろう。
 夫に電話をして早く帰って来てもらえるよう話し、毛布を持ってきてソファーで横になった。
 あと2日、悔しいが幼稚園をお休みさせた方が良いかもしれない、とぼんやりとした頭の中で考えていた。

 

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