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【小説】想像もしていなかった未来のあなたと出会うために vol.65

★再会★

 店に入り、それぞれ食事の注文すると、多佳子は言った。
「ずいぶん前から、みくのSNSをフォローしていたの。ちゃんと人生に向き合って、しっかり生きているみくが、私にはまぶしかったよ」
「・・・気が付いてもらえて、良かった」
みくは目を伏せて答えた。
「プロフィールにも書いてある通り、大学を卒業して本屋に就職して。その頃からカウンセリングを勉強し始めて、・・・バイト感覚でカウンセリングの現場を手伝っていたんだけど。・・・性に合ってたと言うか、いつからかこれが私のライフワークだな、って思うところがあって、今に至るんだよ」
「・・・そっか。・・・プライベートは? 結婚してるの?」
「ううん」
はにかむようにみくは首を振った。
「これから、・・・なのかな?」
「・・・そうね。・・・将来はどうなるかわからないけど。・・・今は1人の自由さが、手放せないの」
「なるほど」
これが表向きの言い訳だと、多佳子にはバレているかもしれない。しかし、20年ぶりの再会の時に、これ以上ディープな話は憚られた。
「カコのことこそ知りたいわ。お仕事とかバリバリしているように見えるけど?」
「ちゃんと、小学校の先生をしてるよ。・・・結婚は2回、離婚歴も2回。子どもはいない。・・・父も母も亡くなって、独り身で自由だけど」
多佳子はそこで言い淀んだ。
「独り身で自由だけど、・・・何?」
「みくみたいに、自由をエンジョイしていないかもしれない。・・・いつも誰かを求めているの、昔からだったけど、今も変わらないんだもの」
「・・・そっか」
多佳子はまだ、深淵にいるのかもしれない、とみくは思った。

 スパークリングワインで乾杯し、食事が進むと口も滑らかになった。
「・・・実はね。最初にみくに連絡をしたときは、彼氏もいて、3度目の結婚があるかもしれないと思っていた時だったの。だから、みくに見せつけたいと思って、連絡をしたんだ」
みくは目を見開いて多佳子を見つめた。
「でも、そう思って連絡をしたとたん、バチが当たったみたいに、彼とは別れることになってしまって。・・・みくに会えなくなってしまった。というより、・・・会いたくなくなった」
「あら」
相変わらずな多佳子だな、とみくは思った。
「変わらないな、って、思ったでしょ。・・・そうなの。私の人生、ちっとも変わらない。なんだか、いつも同じ失敗ばかり繰り返している」
「でもそれ、嫌だと思ってないしょ? 私みたいな近しい人には反省しているように装っても、許されるとわかったとたん、こんな人生でも良いよね、って思っているんじゃない?」
「えっ?」
「仕方がないじゃない、寂しいんだもの。誰かといなきゃ、やっていけないの。・・・でも、別れたら、・・・きっとこの人じゃなかったのよ、って思って、次の人を探す。・・・そんな人生を繰り返していた?」
みくの思いがけない言葉に、多佳子は食事の手を止めで、神妙に座り直した。
「・・・私にとっては、どんな人生だって多佳子が幸せなら、それで良いんだよ。・・・出会いと別れを繰り返して、その一瞬一瞬が輝いているから、それでいいんだ、と思っているなら、私は本当にそれで良い、と思う」
多佳子の顔色を伺うため、みくは言葉を切った。みくの話に、多佳子は唇をかみしめている。
「でも、カコの話からは、人生を楽しんでいるようには見えなかった。それも、・・・私への当てつけなのかな」
「当てつけなんて、・・・それはないよ。でも、みくの言う通り、同じことを繰り返す人生でも、運命だから仕方がない、って諦めていたよ。・・・反省しても、後悔しても、・・・それだけで終わっていた」
「・・・カコが私に会いに来たのは、・・・人生を変えようと思ったからじゃないの?・・・私と会えば、今までとは違う何かがあるって、期待したからじゃないの?」
みくは、自分でもなぜこんなに熱く語り始めたのかわからなかった。頭の中や心や身体が、多佳子と出会った高校生の頃に戻っていて、いつの間にか、心の奥底の魂が叫んでいたのだった。

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