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【小説】想像もしていなかった未来のあなたと出会うために vol.54

★ママ友★

 熱を出しふうふう言っている栞里を寝かしつけて、幼稚園にはお休みする連絡をした。
「よりにも寄って、お別れ会の日にお休みしなければならないなんてね。栞里も楽しみにしていたでしょうに」
尚美は、寝入った栞里につぶやくように話しかけた。
 近くに住んでいる義母に来てもらい、自分は家を空けられるようにした。係だから、親だけでもお別れ会に出ろ、と言われても対応できるようにしておこうと思った。
 注文先のお弁当屋に取りに行き、お弁当を園まで運ぶと、園の駐車場のところに花楓ママと蓮太ママ、優馬ママが待っていた。
「こういう大事な時に、携帯で電話できない、って、ホント使えないわね」
花楓ママの第一声がこれだった。
「先生に聞いたら、栞里ちゃん休みだって言うじゃない。お弁当がどうなるのか、心配しちゃったわよ」
蓮太ママは笑いながらそう話すが、冗談には聞こえなかった。
「それで、どうなの? インフルエンザじゃないの? 今流行っているし、インフルエンザだったら、伝染病だから、来てはいけないヤツだよね」
「今は、熱が出ているだけだし、病院には行かせてないので、インフルエンザかどうか、わからないわ」
普通子どもが熱を出した、と聞けば、挨拶として『大丈夫?』などと聞くものだと思うが、花楓ママに栞里の熱を心配する挨拶の言葉は、かけらもなかった。
「あなただって、うつっているかもしれないわよね。いずれにしても、他の人にうつすかもしれないから、クラスに入ることは止めて欲しいわ。お弁当はここで預かります」
「そうですか」
「お別れ会には出ないでね」
それだけ言って、3人はお弁当を持って園舎に入っていった。
 
 栞里の出ていないお別れ会に出たいと思っていたわけではなかったから、係だから出なさい、などと言われるよりマシだとは思ったが、むしろ、排除されるように、出るな、と言われたことはショックだった。
 しかも、インフルエンザだと決めつけているようなところがあった。変な噂をたてられないと良いけど、と思うしかなかった。

 栞里の熱は次の日も下がらず、幼稚園は3日間休んだ。病院に連れて行ったが、インフルエンザではなかった。週末をはさみ、月曜日の降園時間、尚美は自分の周りから人が引いているのを感じた。
 以前からクラスには、特定の仲がいいママ友はいなかったが、誰にでも会釈や挨拶は欠かさないようにしていた。それが今は誰もが、上手に目を合わさないようにしている。尚美が行こうとすると人に避けられる。クラスだけではなく、ママ友たちみんなから、無視をされている。
 あの3人組があることないこと噂し、広め、無視を仕向けるようにしているのだろう。お別れ会に参加できなかったことがいけなかった。
 自分が無視されるのは我慢できるとして、栞里に何かあれば許さない、と思った。降園の様子をみると、友だちとじゃれ合っている様子が以前と変わりなく、今のところは子ども同士がどうにかなっているわけではなさそうだ。何かあっても怖いから、今日園庭で遊ばせずに帰ろう、と思った。

 事情がわかったのは、それから3日くらいたった時だった。降園後、栞里を連れ園庭を出てしばらくすると、お別れ会の係で一緒だった、進藤結奈のママが自転車で追いかけて声をかけてきた。
「栞里ちゃんママ、ちょっといい?」
「私に声をかけて、大丈夫?」
「何を言っているの。もっと早く事情を話さなきゃ、と思っていたんだけど、ちょっと怖くて様子を見ちゃったの。ごめんなさい。栞里ちゃんママ、ひどいこと言われているのよ」
そう言って、花楓ママが言っていることを、聞かせてくれた。

 

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