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【小説】想像もしていなかった未来のあなたと出会うために vol.64

★再会★

 一条みくは学生時代に住んでいた最寄りの駅に向かっていた。高校の頃からの親友、三栖多佳子と再会するためだ。
 多佳子から連絡があったのはつい3日前だった。

急なことで、ご都合が悪ければ仕方がないのですが、
今週末、東京に出向くことになりました。夕方お会いできませんか。

 もちろん大丈夫です、と、みくはすぐに返信した。場所はどこにしましょう? という問いに、2人で住んでいた最寄り駅を指定したのだ。新宿や渋谷と言ったターミナルに出るのも容易だし、かといって複雑な駅ではなく、何より学生だった当時からさほど変わっていない駅だ。会っていない間、多佳子が東京にどれほど馴染みがあるかわからないが、わかりやすさを優先したらそこに落ち着いた。
 と言って、そこを引っ越してから寄り付かなくなった場所でもあった。駅は変わっていないだろうが、街並みはきっと一変している。良く行った飲食店がまだ存在するのか、ゆっくり話ができる店があるのか不安だった。しかし、今の時代、手頃な店を検索する手段がある。候補を2、3件見つけて、みくは多佳子との再会の準備をした。

 新しく自分のカウンセリングルームを立ち上げて、多佳子から連絡が入った時は、思ってもみなかったことだったので、本当に驚いてしまった。多佳子とのことは心の奥底にしまって封印していた。だから、思い出すことに勇気が必要だったし、多少の痛みも伴ったが、すっかり思い出してみると、自分がなぜそんなことにこだわり、傷ついていたのか不思議なくらい、今はただ懐かしさだけを感じていた。会いたいと願ったが、多佳子が東京にすぐに出てこれないところに住んでいると知った。今回は急なメールだったがみくに支障はなく、ようやく会える。

 駅の改札口で待っていると、人の流れの中に多佳子を見つけた。学生の頃に比べて太ったかしら、と思ったが、自分だって人のことは言えない。それでいて多佳子にかけた第一声は、変わらないね、だった。
「相変わらず、東京は人が多いね。・・・こんな時節柄、もう少し閑散としているかと思ったんだけど」
多佳子の印象は、学生時代の頃とほとんど変わりがなかった。快活ですがすがしい。今はどんな仕事をしているのかわからないが、バリバリ一線で働いていそうな感じがした。
「どこか、お店に入る? まだ晩御飯には早いけど、ゆっくり話したいな、って思うけど?」
みくが言うと、多佳子は任せる、と言い、続けた。
「あ、その前に。・・・みくに会ったら、一緒に暮らしていた時の続きみたいで、何の違和感がなく、20年のブランクを忘れてしまったけど。・・・私、みくにひどいことを言って別れることになったって自覚している。まずそれを、謝らせて欲しい」
「・・・そうだったね。・・・思い出していたよ」
「アメリカの9.11の時に、姉さんの美帆子が行方不明になって、自宅に帰る時になって、私、みくに永遠の別れを告げて、出て行ったんだよね。ごめん。・・・本当にあの時は見境が無くなっていて、ウチのゴタゴタにみくを巻き込みたくない、って、強く思っていたんだよ。・・・このまま、みくの優しい気持ちに甘えていると、ずるずるとみくにばかり頼ってしまうから、それではイケナイと思ったんだ」
「・・・そう」
「・・・姉さんは今も行方不明のままなんだ。ご遺体が出たわけではないの。・・・お母さんは、その前から精神的に病んでいたから、本当にひどい状態になってしまって。・・・だから、連絡できないのもあって。あの時は、冗談だったよ、って、すぐに連絡するつもりもあったのだけど、そのタイミングも逃してしまって、本当に、私、闇落ちしてしまったんだ」
「・・・カコにいなくなられて、その頃は私も、病んでしまうくらい落ち込んだけど。・・・恨めなくてね。ずっと、カコのことを忘れようとしてたんだよ。そして、本当に忘れていたの。・・・でも連絡をもらって、思い出していたら、懐かしい思いだけを思い出したよ」
「・・・ホント?」
「そうじゃなきゃ、会いたいなんて思わなかっただろうし、実際、会っていないと思う。・・・今でもカコのことは大切な親友だよ」
「ありがとう」
神妙な多佳子の顔が、みくにはまぶしかった。


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