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【小説】想像もしていなかった未来のあなたと出会うために vol.57

★プリント★

 幼稚園の修了式に欠席したら、新学期に向けてのプリントをもらえなかった。どうも、担任と3人組が結託して、栞里には渡らないように画策したようだ。
 新学期のプリントをもらうため、幼稚園に向かった。
  事務所の窓口に顔を出し名前を告げると、それは用意されていた。渡されたプリントに目を通すと、優馬ママからの電話で受けた始業式の日程が違っていた。1日遅い日を言われていて、信じてそのまま行っていたら、新学期のクラスごとの写真撮影に写ることができず、次の日に新学期のつもりで行く、お粗末な親子になっていた。
 これは嫌がらせのレベルを超えていると思った。
 窓口で園長に会えないか聞いてみると、しばらくして出てきてくれた。

 「お呼びたてして申し訳ありません。申し上げたいことがありまして」
尚美が言うと、園長はけげんな顔をした。
「そもそも、プリントを頂こうと思ったのが、クラスのお母さんから連絡網と称し、電話を頂いて、新学期の日程だけをお知らせ下さったのですが。こちらのプリントに書いてある日程の1日遅れた日付を言われました」
「えっ? どういうことですか?」
「担任の先生にお尋ねしたら、プリントは代表委員のお母さんに届けてもらうよう手配したと言うんですね。・・・実はそれ以前からその方々から嫌がらせを受けておりまして、親子で無視されているんですが。・・・なので、体調を崩して修了式に出られずにこうして、プリントを頂けなかったのです。それで、電話だけが来たから、おかしいな、と思ったんです」
「わかりました。ここでは何ですから、・・・ちょっと、園長室まで来て頂けますか」
 尚美は園長室に通された。そこには担任も呼ばれた。
「嫌がらせとは、具体的に言うとどういうことでしょうか? 実名でおっしゃって頂けますか?」
園長に問われ、覚悟を決めた。
「年少のクラスで代表委員だった、山東さんと谷崎さん、その方々といつも一緒の中園さんのお三方です。・・・具体的に言うと、お別れ会の係だったのですが、当日娘が熱を出し、出席できなかったのを恨まれたのか、伝染病だったように言われた上、私は無責任に仕事を放棄したように流布されて、クラスの人に無視をするように言ったようです。・・・人伝に聞いたのでどう言う風だか、良くわからないのですが」
園長が担任を見ると、先生は首を振って知らないそぶりをしていた。
「先程も申し上げましたけれど、そういう状況で私が体調を崩し修了式に出れませんでしたら、今度は電話だけがかかってきて、新学期のウソの日程を教えられて。担任の先生からはプリントは頂けないと言われて。・・・そうなると、嫌がらせとかいじめの域を超えているように思えるので、お話させて頂きました」
「そうでしたか。それは大変申し訳ありませんでした」
園長は頭を下げた。つられるように担任も頭を下げるが、事の重大性もわかっていないようだし、反省している風にも見えなかった。花楓ママの圧倒的なアクの強さを持ってすれば、年若い先生が立ち向かえないのはわかる気がした。担任を責める気にはなれなかった。
「神原さんは、どのようにしたら納得されますか」
園長に改めて聞かれ、一瞬考えた。
「・・・今度のことさえなければ、娘も幼稚園のことを気に入っておりますから、年中以降も通わせて頂きたいと思っております。・・・山東さんたちに関しては、ウチのことばかりでなく、他の方ともトラブルを起こしていたと見聞きしておりますから、園の方で目を光らせて頂く必要があると思います。・・・ただ、私どもに謝罪などして欲しくありません。今後一斉関りを持ちたくないんです。関りがないようにさえして頂ければ、ウチはそれで結構です」
「確かに山東さんたちに関しては、・・・他でもトラブルがありました。厳重に注意いたします。プリントに関しては、直接保護者の方に渡るように気を付けていたのですが、・・・今後もより一層注意を致します」
「よろしくお願いいたします」
尚美は深々と頭を下げ、その場を辞した。

 栞里の通う幼稚園は5クラスもある大きな幼稚園で良かった。新学期になりクラスが別々になると関りが無くなくなった、3人組もばらばらにされ、しっかり監視されているようで、以前のような派閥をきかせるような行動は見せなくなった。

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