【小説】想像もしていなかった未来のあなたと出会うために vol.66
★再会★
「・・・カコが私に会いに来たのは、・・・人生を変えようと思ったからじゃないの?」
叫ぶように言うみくに、多佳子は顔色を変えた。
「・・・私と会えば、今までとは違う何かがあるって、期待したからじゃないの?」
「・・・みくは、怒ってるの?」
みくの激しい感情にたじろぎながら、多佳子は言った。
「そうね。怒ってる。・・・カコがちっとも変わらないでいてくれたことに、ホッとしたのと同時に、・・・それを自慢するのではなく、自虐しているカコに、・・・私は怒っている」
「やっぱり、みくは私を許してくれていなかったんだね」
いじけたように言う多佳子に、みくは一呼吸おいて言った。
「・・・そうじゃない。ホントにカコを許していなかったら、そもそも会わないし、怒ったりしない。・・・今は、高校生の時に戻った自分が、怒っているんだよ」
久しぶりに会ったのに、感情をぶつけるように言うのは、失礼なことかもしれない。だからと言っていつまでもうわべだけで探り合っていても、距離は縮まない。
「私ったら、高校生の時の自分に戻っているの。私たち、・・・心をえぐるように、話していたよね。正直に、純粋に。まっとうにぶつかり合っていたよね。・・・いきなり、私だけが勝手にそうなってしまったことは、申し訳ないと思うけど。・・・20年もたってからの再会だからって、いつまでも通り一遍の言葉を繰り返していても、しょうがないと思ったの」
後付けの言い訳だと思いながら、みくは続けた。
「ねぇ、高校生の時を思い出してよ。・・・純粋にぶつかり合っていた時のことを。・・・見栄とか体裁とか、常識とか、そんなのはどうでもよくて、自分の幸せをしっかり見つめて、・・・何をどうすればいいか、真剣に考えてたよね」
仕事柄みくは、過去の記憶を取り出しやすく、スイッチが入れば高校生の時の気持ちに戻りやすい。しかし一般的な生活をしていると、自分の過去のことを思い出したり、その時の気持ちになったりしないから、多佳子にそれを求めるのは難しいかもしれなかった。
「・・・思い出して。・・・高校生の頃のカコは、そんなに簡単に、自分の人生を運命のせいだなんて、言っていなかったと思うよ」
「・・・そうだったかもしれないけど。・・・それは何も知らなかったからだよ。・・・大人になって、色々な経験をして、嫌なことや辛いことばかりに出会ったら、運命を呪いたくなるよ」
「そっか・・・。運命を呪いたくなるほど、辛い目にあったんだね」
ようやく出てきた多佳子の本音の部分を、みくは聞き逃さなかった。
「・・・そうなんだよ。・・・高校生の頃には、想像もしなかったことが次から次へと起って。本当に大変だったし、辛かったんだよ。・・・ずいぶん後になって、みくがカウンセラーをしているって知って、みくのカウンセリング受けたいな、って、ずっと思っていたんだ。でも、・・・それ以前に、みくに合わせる顔がない、って考えると、・・・せめて、幸せなところを見せつけたいと思ったんだよ」
「・・・そっか」
「でも、20年ぶりに会って、みくには見透かされているな、って、すごくわかった。・・・口先だけで幸せを装っても、かっこつけても、・・・本音の部分を見破られてしまうんだな、って」
「たまたま、高校生の時のカコを知っているからだよ。・・・それと。仕事柄、私に会いに来てくれる人は、自分を変えたいと思っている。・・・それは、ほとんど、・・・100%だからね」
みくは苦笑する。お皿に目を落としながら、さっきまで感じていた多佳子の仮面がはがれて、高校生の頃の素顔になっていることに安堵した。
食事に戻りしばらくして、多佳子は言った。
「みく・・・。私のカウンセリングしてくれないかな?」
「ごめんだけど、それは出来ないかな。近しすぎるからね。・・・セッションしても、さっきみたいに怒っちゃうよ」
「そっか・・・」
多佳子もようやくみくの本意がわかって、ホッとして頷く。
「本当にカウンセリングを受けたいのなら、人を紹介するけど? それより、・・・しょっちゅう東京に出てこれるの?」
「そうだね。そこもごまかしてたけど、・・・私、東京の近郊に住んでる」
その言葉にみくは驚かなかった。多佳子の闇は深いかもしれないけど、きっとすぐに晴れていくだろうと、みくは確信した。