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Verbier festival 30周年祝賀ガラ・コンサート

 ヴェルビエでは1週間の滞在中に、10の演奏会を聴きました。一回ごとの感想は割愛しますが、7月26日の午前中に聴いたエベーヌ・カルテットのコンサート、同日夜の藤田真央さんのリサイタル、そして30周年祝賀ガラのコンサートが最も印象に残りました。

 祝賀コンサートはConbins で7月24日の18:00から開催されましたが、この日は朝からお天気が悪く、特設会場の音響が心配で気を揉んでいました。雨音が強くなると会場の音が掻き消されてしまいます。午前中、降りしきる雨の中をホールの近くまで歩いて行くと、「動物の謝肉祭」の、雨に負けない元気なリハーサルが聴こえてきました。ピアノはフランス人ピアニストのお二人、アレクサンドル・カントロフとルカ・ドゥバルグが弾いているはずです。お祭り的な盛り上がりを聴いているうちに、天候はどうであれ夜が楽しみになってきました。
 
 暇を持て余して、フェスティバル期間中は無料で配布されている地元スイスの新聞Le Tempsを貰うためにチケットオフィスに寄ってみると、30周年のロゴが入ったバッグやノート、鉛筆など記念品が売っていたので買って帰りました。バッグは去年は一般販売していなくて、チケットオフィスでなんとか売ってもらえないかと交渉したけれど(エコバッグを持ってこなかったので不便していたため)、販売用では無いと言われて諦めたのです。

霧が深くなってきたホール付近。あっという間に視界が悪くなり、ホテルの場所がわからなくなってしまいました…
記念バッグ

また、フェスティバルの1ヶ月ほど前に、音楽祭の創立者で、ディレクターでもあるエングストロームさんの本が発売されたので、購入してサインを頂きました。パリで長く仕事されていた方で、フランス語を母国語のようにお話になられ、とても穏やかな口調の素敵な方でした。音楽業界のBig Bossと言われる偉大な方を前に、感動すると同時にすっかり緊張してしまい、日頃の通訳トレーニングの成果も虚しくあまりが言葉が出てこず、、、の情けない面会でしたが、お目にかかれて光栄でした。
内容については掲載許可を取っていないので書けませんが、とてもとてもとても面白い本です。藤田真央さんについての記述も10行ほどあり、エングストロームさんの築いてきた歴史ににしっかり刻まれていました。他に日本人では、10代の頃から国際的に活躍する、ヴァイオリニストの庄司さやかさんのお写真が2点載っています。

 さて夕方になっても雨は降り止まず、傘をさして会場に向かいましたが、到着する頃になんと会場の上空には晴れ間が見えてきました。何と言うこと!!ここに集まっている様々な人の想いが、雨雲を吹き飛ばしてしまったかのようです。
コンサートは、ディレクターの挨拶の後、10人のピアニストによるラフマニノフの前奏曲Op.23で幕を開けました。挨拶の中で「曲間の拍手は控えてください」との呼びかけがあり、舞台に置かれた二台のピアノで交互に途切れなく10曲が演奏されていき、静まり返る会場で10人のピアニストの個性を存分に楽しみました。一人の持ち時間はほんの数分、最初の一音から弾く方も聴く方も全身集中です。
世界の名だたるピアニスト達がこの数分に身を捧げて弾くラフマニノフには、これまでに感じたことのない感情の高まりを覚えました。10代の日本デビューから聴いているキーシンが、これまた彼が弾くのを何度も聴いてきているOp.23-2の最後の和音を響かせきった直後に、照明が切り替わって藤田真央さんが最初の和音で一気に自分の音楽へと聴衆の注意を引き寄せた瞬間は、この日一番打ち震えました。当初この曲にはババヤンのお名前が発表されていたと思うのですが、日本のファンには有り難たいチェンジでした。

まさかの青い空


開幕の短いご挨拶
これからここで起こる競演を想像するだけで緊張する

 休憩後の第二部は弦楽器版に編曲されたバッハの「ゴルドベルク変奏曲」。カヴァコス、バラティ、カピュソン兄弟、エベーヌ・カルテット、タメスティ、マーティン・フロスト、、、そしてマケラがチェロを、シャニがコントラバス担当!という豪華なキャスティングの中で、終盤にピアノソロで登場した、まだ13歳のツォトネ君(つい先日NHKのドキュメンタリー番組に登場)が素晴らしくて今後が楽しみになりました。この辺の絶妙な売り込みは流石です!
 
 第二部休憩中には日本人の方達にお会いして、感想などお話させていただき、この場所に居合わせることができた幸せを共有して楽しい時間をすごしました。

 第三部は、このガラのためにアレンジされたサン=サーンスの「動物の謝肉祭」。登場する動物が山の動物に変更されていたり、舞台の右端に置かれたソファに女優のイザベル・ユペール、バーバラ・ヘンドリックス、もう1人知らない女性(ごめんなさい)の3人が座り、世間話風なナレーションで曲を進行するなど、ヴェルビエ・オリジナルの演出でした。ライオンの代わりに本物のla vache(牛)が登場して、のっそのっそと会場を横切っていくのを目撃したような気がするけれど、あれは幻だったかな?
 
 さて、この日のガラ・コンサートで一番エモーショナルな瞬間だったのは、バーバラ・ヘンドリックスが
『Sometimes I Feel Like A Motherless Child
〜時には母のない子のように〜(Traditional)』

という黒人霊歌をアカペラで歌った時でした。
いっさい力みや虚飾のない歌い手の心の奥底から発せられる、人間の嘆き悲しみを包みこむような自然で美しい声で歌われる旋律には、心が揺さぶられずにはいられませんでした。
指揮台に立っていたクリストフ・エッシェンバッハもずっと目を閉じて耳を傾けていらっしゃいました。

 そして締めくくりはタカーチ・ナジー指揮で「ハンガリー万歳」、マケラの指揮でバーンスタインの「キャンディード序曲」。大いに盛り上がり、夢のような4時間が幕を閉じました。素晴らしい祝賀ガラを催してくださったフェスティバルとアーティストの皆様に心からの感謝を申し上げます。
そして30周年おめでとうございます!!

(完)




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