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ヴェルビエ・フェスティバル2024-雑感-

 今年もヴェルビエの音楽祭に行き、つい2日前に日本に帰国した。昨日から通常業務に戻り、今日は早速ヴァイオリンの伴奏で弾いてきた。

 日本に戻り、私がヴェルビエに毎年行く理由はなんだろうか?と考えた。良い音楽を聴く…もちろんそれはあるけれど、そのためだけだったらわざわざ行かない。このフェスティバルは居心地が良いのはなぜだろう。スイスの自然、整っていて生活しやすい街、オーガニゼーションがしっかりしている音楽祭、ボランティアの人達がたくさんいて何かあればすぐに手助けしてくれる…
 それに普通のフェスティバルやコンサートシリーズが醸しがちな「アーティスト様」的な雰囲気がない。集まってきている業界のインプレサリオ達、スポンサー、観客、そしてアーティストのすべての層が有意義に過ごせるように配慮されている。そして音楽業界はその全てで成り立っていることがとても良くわかる。
 アカデミー生を紹介した冊子を見ると、学生1人1人の名前の下に、スポンサーとなっている人物の名前が記されている。自分が援助した学生が藤田真央君のように後に成功すると、大きな喜びとなる。真央くんのマダムには去年なぜか偶然声をかけられて、お話させて頂くことができた。なにより“Maoの活躍が嬉しくて嬉しくて仕方がない”様子だった。ご高齢の方だったが今年もお元気そうで、オシャレなイヤリングをしてクロージングコンサートにいらしているのをお見かけした。

 インプレサリオ達にとっては目利きのディレクターが紹介する有望な若手演奏家を一度に並べて聴き、実力や人柄と同時に観客の反応も知り得る機会となるだろう。アーティスト達は彼等と知り合い、仲間同士ではコンサートをお互いに聴き合い、共演をするなど交流を深めていく。
 観客として来ている旅行客は、無料で公開されるマスタークラスやリハーサルを見学できたり、街中やコンサート会場でキーシンやマケラといったスターにバッタリ会うこともあるわけだけれど、サインはダメ、写真はダメなどと言わずに自由に交流ができる開かれた雰囲気がある。マケラと同じ空間で演奏会を聴くというのも、なかなかヨソでは出来ない体験だ。ディレクターが著書にも書いていたが、同じスイスでもルツェルンとは違うアットホームさを大切にすることで差別化を図っていると言う。
 興行を手がけるプロデューサーがいて、アーティストがいて、一緒に仕事する仲間がいて、出資するスポンサーがいて、観客がいて…という業界の縮図が、このスイスの山岳地帯に位置する小さな街に夏の間ほぼ1ヶ月間、明確に健全に存在している。
 ここで弾くアーティストとは比較にならないレベルだけれど、自分でも演奏会でピアノを弾いたり、コンサートを企画したりスポンサーを探した経験があるものだから、尚のこと興味を引かれる。もっと若い段階で知っておきたかったと思う事柄もある。そんな視点から見ているのも面白いし、音楽祭を通して人の良心に触れるような交流があったり、新たな才能に出会い演奏に感動するといった充実感をもらう。それに加えて、経済の健やかな循環が私に居心地が良いと感じさせてくれるのだと思う。
 たくさんの演奏会、そして地元のワインやチーズを楽しみ、山歩きで自然を満喫した思い出はまた時間を置いていずれ振り返ってみたい。

今年は標高2200Mからヴェルビエまで足で下ってみた


 

サンデーブランチ


クロージングコンサートの開演前


山の雪解け水


ブルース・リウはフランス語も母国語

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