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【緊急事態宣言】は「不可抗力」だから責任を負わなくていいのか?

3度目の緊急事態宣言が発令されました。

これにより、休業を余儀なくされ、事業継続が困難となる事業者の方々も多くいらっしゃいますが、取引を行う契約の相手方が、まさにそのような状況下にあるということも考えられると思います。

本記事では、契約当事者である、自分自身が、または相手方が契約上の債務を履行できないときに、これが、いわゆる「不可抗力事由」によるものであった場合に適用される[不可抗力免責条項]について解説していきます。


1.そもそも[不可抗力]とは


不可抗力とは、一般的には、台風、地震、津波、洪水などの当事者の合理的なコントロールが及ばない天災や自然的現象、戦争や暴動などが代表的な例とされ、判例上は、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして責に帰することができない事由」などと定義されます。

契約当事者に債務不履行があったときに、債務を免れうる根拠として、この「不可抗力」について検討されます。

そして、この「不可抗力」に関する規定が、契約書に記載されていたかによって認められる余地も異なります。

本記事では、契約書に「不可抗力免責条項」の記載がある場合と、無い場合にわけて解説します。



2.契約書に「不可抗力免責条項」がある場合


契約書に「不可抗力」による免責条項の記載がある場合、この規定に従い債務不履行責任が免責される場合があります。

ただ、記載があったからといって、当然に免責されるというわけではないことに注意が必要です。

どういうことかというと、免責されるかどうかは、この免責条項における定義内容や記載に従って解釈されることになります。

また、その対象となる状況が、記載の通りに「不可抗力」に該当し、そのまま適用されるのか、または、直接的には該当するとはいえないものの、類似する状況であるとして免責条項の規定を解釈することによって適用することができるか、といった検討が必要となる場合があります。

具体的には、

👉「不可抗力」が、どのように定義されているか
✅たとえば、台風、地震、津波、洪水などの天災、戦争、暴動、テロ、。。などのように、具体的に例が列挙されて提示されているか
✅今回の件でいうと、「疫病、伝染病、感染症の流行等」が記載されているか
👉不可抗力事由に該当した場合に講ずべき措置や効果は、どのように記載されているか
✅代替品の納入や委託料の減額など、契約上の債務の内容についてどのように調整するかが記載されているか
✅不可抗力の状態が一定期間継続する場合に、解除することができるか
✅解除することができる場合、解除権の行使にあたり、書面通知など何らかの行為が要求されているか
✅解除を行う場合に、損害賠償責任はあるか、など


以上のとおり、

以前は、「不可抗力」となるような事態になることが“なかなか無い”と考え、契約書に記載の「不可抗力免責条項」も、さらっと読みすすめてしまっていた経営者の方も少なからずいらっしゃったのではないでしょうか。

ですが、現在の世界情勢をみると、「不可抗力」に該当しそうな状況に陥ることも、"あり得ること"であり、“想定内”と考えるべきともいえますし、

そのような状況を想定しつつ、契約書の「不可抗力免責条項」の規定は、今一度しっかり社内で検討し、決定していかなければならないということができます。


3.契約書に「不可抗力免責条項」がない場合


契約書に「不可抗力免責条項」が定められていないこともよくあることです。

その場合は、民法の原則に従って判断されることになります。

ただ、この場合、前述の契約書に記載があったときと異なり、「不可抗力」の定義が定められていないということになりますので、そもそもその状況が「不可抗力」に該当するかどうかについては慎重に判断しなければならないことになります。

たしかに、現在の緊急事態宣言の発令や感染症の拡大そのものについて、債務者に帰責事由はありません。

とはいえ、契約上の債務が不履行となったその個別具体的な事情によっては、債務者に帰責事由が認められる場合もあるでしょう。

そのため、「緊急事態宣言が発令されたから」「感染症が拡大したから」ということのみをもって、当然に「債務が免除される」ということは決してなく、その債務不履行が不可抗力によるものといえるかどうかについては、その個別具体的な事情ごとに考慮して判断しなければならないということになります。

ちなみに、本項でお伝えした「民法」も、昨年大きな改正がされており、この改正民法が適用されます。


4.金銭債務については例外


ここで、例外として、金銭債務については、民法上、債務者が不可抗力を理由として金銭債務の履行を免れることはできません(民法419条3項)。

なお、上記の規定は改正民法でも旧民法のまま変更されていませんので、たとえば不可抗力で休業を余儀なくされ、事業が傾き、支払いが滞った場合でも、不可抗力により金銭債務の免責または軽減を主張することに法的な根拠はないということになります。


5.まとめ


経営者は、今まで経験したことのない「非常事態」という状況下でも自らの事業を円滑にすすめていかなければなりません。

そして、この状況は更に悪化することも想定されます。

そのような未来を見据えて、起こるかもしれないリスクを回避できるのが、契約書です。

これを機に、自身の事業で使用している契約書に記載されている内容がどういうものなのか、そしてその文言は果たして自社にとってリスク回避となりえる文言なのかを今一度しっかり確認することが求められているといえます。


当事務所は、法務担当のアウトソーシング先として契約書のリーガルチェックや契約書の作成を多く取り扱っています。

貴社で使用されている契約書についてご不明点やご不安なことなどございましたらお気軽にご相談ください。


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