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京島の10月|6. そして街のおじさんになる

毎週金曜は工房の営業日。まだ場所の運営だけで食べていけるほどではないし、スタッフとして動けるのも筆者だけという状況なので、営業日は毎週末の2-3日に限定した。普段筆者はライターとして働いており、1ヶ所にとどまって1日を過ごしたり、物やサービスを提供したりといった経験はほぼないに等しい。そんな状況だったので、営業時間も利用価格の設定も割とえいやで決めてしまった。やりながら修正すればいいだろうという考えは、この街の寛大さに甘えてしまった面もあると思う。

深く考えずに決めた営業日だったが、オープンして2ヶ月ほど経つ間、なかなか多くの人たちが足を運んでくれる。今のところ、機材の利用がない日こそあるが、誰とも会話しなかったことはない。それは工房のロケーションによる部分も大きいだろう。街のイベントの中心となる京島駅に近く、キラキラ橘商店街からけん玉通りを抜けてたどり着ける立地は、ふと通りがかったり、何かのついでに知り合いを連れてくるにはぴったりの距離なのだ。

4枚スライド式の引き戸を大きく開ければ、目の前を歩く人たちの様子もハッキリとうかがえる。ちなみに今のガラス戸には、京島共同凸工所と書かれた大きなステッカーが貼られている。営業中だけ表に置かれる赤いスツールの上には、3Dプリント製の大仏とレーザーカットで作った「OPEN」の札が立てかけられ、文脈のなさに怪しさが漂うが、大仏に目を引かれる人もいるようなので、気に入ってそのままにしている。

アプローチの方法はともかく、利用の予約があろうがあるまいが、営業時間中はこの扉をできるだけ開くようにしている。受け売りだが、営業時間は「そこに行けば会える」という意思表示のようなものだ。

今日はオープン直後の13時から夕方過ぎまで、レーザーカッターの利用があった。以前講習を受けてくれた方で、革製品の加工に凸工所を使ってくれている。前回の試作とパラメータを変える必要があり、調整にやや手間がかかったが、無事アイテムの製作に活用する目処がついたようだ。作業を見守る間、以前お店のステッカー制作を手伝った方から連絡があり、綺麗に貼られた写真が送られてきた。凸工所で作られたものが、この街にじわじわと染み出していく感覚が嬉しくてたまらない。

途中から学校を終えたお子さんも凸工所に合流し、元気の全てを放っていた。すぐ隣に小学校があったり、近所で興味を持ってくれる親御さんがいたりするのだが、子供向けのアプローチがまだできていない。ワークショップを企画したり、挨拶に伺ったりしないとな、などと考えていた筆者の思考をよそに、その子は工房を爆速で探検し、表を通りがかる友人や先生の全員に話しかけ、時には砕けた「おっとっと」を掃除したりと、八面六臂の活躍ぶりを見せていた。機材を使うとか、物を作るとか以前に、この環境を全力に楽しむ姿に圧倒された。

凸工所は機材や場所貸しを行うお店、シェア工房であるとともに、道に面した半公共的な場所であることも感じさせられた。時には蹴躓きそうになりながら、レーザーの焦げた臭いに文句を言いながら。屋根の下と外を猛スピードで行き来する姿には、見習うところが多そうだ。

何度かやり取りして別の場所に向かったのち、友人を連れて戻ってきた。奥で作業していた筆者を見つけると、「おじさんいた!」と元気な言葉が発せられる。一応、まだ31歳なのだけれど。一瞬、胸がギュッとしたが、街の楽しいおじさんになれるなら、それはそれでいいのかもしれない。たぶん、本当に……。

このnoteは「すみだ向島EXPO2023」内の企画、日誌「京島の10月」として、淺野義弘(京島共同凸工所)によって書かれているものです。

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