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京島の10月|10. 美味しいご飯、ポカポカお風呂

毎日使っていた鉛筆が少し短く感じる。特に意識していなかったが、これも時の流れを感じさせるアイテムだ。連休明けの火曜日、休みのうちに終えられなかった仕事に黙々と着手する。身の回りのことを書くのと、取材やレポート記事を書くのとでここまで脳の使い方が違うのかと改めて驚く。この日誌はできるだけ客観的に書こうと決めていたのだが、早い段階で自分の感情が表れている。それだけ見聞きしたものに心が動かされているのであれば、決して悪いことではないだろう。

締め切りの迫った原稿を進めるときには、周囲の目があるカフェやレストランでPCを開くことが多い。味云々というよりも、席料を払っている感覚に近く、それはそれで便利に使っているのだが、ドリンクバーをセットにした今日の日替わりランチプレートは、いつも以上に味がしなかった。目の前にある締め切りのプレッシャーか、はたまた近頃の濃密な日々との差分によるものか。どこか空回りする食事を終えて、2杯目の野菜ジュースを飲み切るとともに原稿を提出した。

自宅に戻り、また黙々と仕事を続ける。文化祭が終わった後のような寂しさがあるが、働かねば食べていけない。自分の生活と仕事の境目があやふやになってきた気もする。ちょうどいいところまで進め、もう一踏ん張りが要ると思い、自宅からすぐの洋菓子店へ。

以前凸工所で製作を手伝ったステッカーがしっかり貼られており安心した。外国人向けに英語の表記が役立っているそうで「muffinがあるんだって?」などと聞かれるという。今日はレアチーズケーキをチョイスし、これまた近所の雑器店で買ったマーブル柄の平皿に乗せ、甘い夕方を味わった。

夜はこれまた近所のカレー屋へ。普段のカレーも毎度美味しいのだが、時おり火曜日に提供されるビリヤニが好みで、家から歩ける距離にある幸運を噛み締めている。今日は夜の早い時間に訪れたせいか、いつもよりホクホクに感じられ、たっぷりのエビや付け合わせのミニカレーにひそむ牡蠣などを満足に頬張った。去年のEXPO期間中、急に芋煮を催すことになった際、このお店に鍋を貸してもらったという話を思い出す。

お腹が満たされ、腹ごなしも兼ねてスーパーを経由して帰宅。いくつか仕事を進めたが眠気が訪れ、今日はもう限界かなと思い銭湯へ。先の土曜日に花を買った際、10月10日は銭湯の日だから花を配ると聞いてはいたのだが、その空間はいつにも増してハッピーだった。お風呂に入って不機嫌になる人は見たことがないし、お花をもらえば嬉しくなる。さらに、今日が30歳の誕生日だという店主には、筆者も含めて多くの人からプロテインが手渡されていた。

いつもより賑やかな浴室で、眼鏡を外してぼやけた視界には、知り合いたちの姿も見える。美味しいご飯を食べ、お喋りを楽しみ、温かなお風呂に浸かる。日本昔ばなしの歌のようだなと、サウナに2度ほど入った頭がぼんやりと思い出していた。

風呂上がりの待合室では、花に彩られた番台の前で、買ったばかりの銭湯Tシャツを着た子がはしゃいでいる。誰かが嬉しいことと、誰かを祝おうとすることが交差していて、恥ずかしがらずに書くならば、とても幸せな空間だった。

何でもない日だったけれど、ひとたび家の周りに出てみれば、こんなにも嬉しいことに出会える。ガラナの空き瓶に添えるお花を選んでいたら、さっき会ったばかりのカレー屋の店主もやってきた。賑やかな待合室に、ほのかなスパイスの香りが添えられた。

このnoteは「すみだ向島EXPO2023」内の企画、日誌「京島の10月」として、淺野義弘(京島共同凸工所)によって書かれているものです。

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