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京島の10月|11. それぞれの一休み

昨日の賑やかさが嘘のように穏やかだった1日——と思っているのは筆者だけで、きっと街のどこかで何かの準備や新たな出会いが生まれているのだろう。EXPO関係者のメッセージグループを見ていると、これまでの振り返りや後半戦といった言葉も流れてくる。地方や海外からのアーティストが集まってきたり、新たな企画が持ち込まれたり。予定通りかそれ以上か、再び月末にむけて盛り上がっていくのだろう。

京島の街を歩いていると、そこかしこに何々一休と名のついたスペースが見つかる。公園と呼ぶにはいささか小さな空間で、主には火災時の集合場所ないし、水が引ける井戸やポンプなどが据え付けられている。木造密集地域ゆえに火事のリスクが高いと知らなければ、所々にある貯水タンクにも気付かないだろう。幸い大きな火事は起きていない日々の中、近所の一休は地域住民が集まり、言葉を交わす場所になっているようだ。意図したかどうかは別として、ふと腰掛けられるベンチや、涼しい日陰を生む街路樹など、東京にしてはよく目につく方だと思う。

日中は週末に凸工所で簡単なワークショップをするための打ち合わせをした。シェアハウスの部屋に表札をつけたり、お店のグッズを作ったりとアイディアが膨らむ。各所で拠点を持ち、繋がりも多い方だったので、気にかけてくれてありがたかった。以前はクラフトビールを飲みながらシェアハウスの壁をペイントなどしたそうで、なんとも楽しそうだ。

凸工所では安全面的に工作とアルコールの両立は避けたいところだが、飲食の楽しさはいつか掛け合わせたい。京島には何かを振る舞い、もてなす力のある人が多い気がする。さっとお酒を持ってきたり、何種もメニューのある食事会が催されたり。食べることがメインのところもあれば、長居するための理由として飲食物を提供する場所もある。

凸工所はものづくりをする場所だが、誰もが毎日ものを作る必要なんて、土台あるわけがない。放課後の部室のような気軽さで訪れて、それで必要なときには手を動かせるような場になれば理想だと思う。そのためにはもう少し本腰を入れて、居心地の良い空間を作らねばならない。ありものの環境を大切にするというお題目に甘んじず、配置らや家具やら空調やら、11月に向けて準備をしていこう。

夜の凸工所に向かう前、洗濯物をコインランドリーに突っ込んだ。自宅の徒歩圏内に何ヶ所かあるので、独り身の暮らしにはとても助かる。静まり返った雰囲気の中、ゴウンゴウンと洗濯機が回る姿はどこか落ち着くので嫌いじゃない。しかし、近所の建物の1階部分が改装され、また別のコインランドリーが生まれようとしていた光景を見て、なんとも言えない気分になった。人と空き家が増える地域では、きっと初期投資さえ積めばうまく回る良い投資になるのだろう。かといって、グランドレベルが軒並み洗濯機だらけになる光景は恐ろしい気もする。

夜の商店街を歩き、数匹の野良猫や犬の散歩、補助輪付きの自転車を漕ぐ子供らとすれ違う。商店街という中央地帯があることで、不意の出会いやコミュニケーションも起こるようになっているのだろう。

京島は路上園芸も盛んで、花屋さんはもちろん、一般の家屋からも溢れんばかりの草花が道路にせり出している。これも居心地の良さを生む一つの要因だろう。自分もいつかはと思いつつ、経験のなさに尻込んでいたのだが、昨日もらった空き瓶と一輪の花を置いてみたら、なかなかどうして悪くない。こうやって、いつの間にか街に習い、街の風景に馴染んでいくのだろうか。

このnoteは「すみだ向島EXPO2023」内の企画、日誌「京島の10月」として、淺野義弘(京島共同凸工所)によって書かれているものです。

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