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京島の10月|22. 沢口靖子とインプロヴィゼーション

早朝から深夜まで出ずっぱりだった昨日を経て、凸工所の休業日を迎える。今日はお客として楽しむつもりで何となく予定を立てていたが、体がやりたいようにしていたら、動き始めたのは午後2時くらいになった。

バッテリーがほぼ空のスマホをケーブルに繋ぎ、充電する間に部屋の掃除を進める。EXPOの前から今日まで出会った人たちの名刺などを眺め、その広さを感じる。まちづくり、ものづくり、アート。京島の切り口の多さと、それらに魅力を感じている人たちが象徴されているようだった。

充電も大体完了し、心地よい秋晴れの中、自転車を走らせる。初日と同じように、すみだ公園で開かれていたイベントをチラリと覗く。草原では今日も、テントを張ったりボール遊びをしていたり。こうした日常の風景を作るのも、公共や行政の役割なのだろうか。はたまた、その上で活動する人々によるものか。「私達」というくくりや線引きもよくわからなくなる。役所の人もイベントにふらりと訪れるし、一緒に企画を行うこともある。その間に線引きが存在するとしたら、それは一体何なのだろう。

帰路は東向島エリアを通る。正直あまり散策のしたことのない場所だった。建物の設えはやはり、京島と少し毛色が異なっている。料亭が多いと聞いていたが、確かにそういうお店や雰囲気が残っていることが感じられた。瓦屋根の軒先が付けられたマンションの1階には、コインランドリーが建造中だった。景観への配慮とは一体どういうことなんだろう。

羽毛を膨らませたハトが身を寄せ合う、鳩の町商店街の展示を見に行った。いつも行く場所風景がイラストになっていて、この辺いいですよね、と親近感が湧き、一言添えられたキャプションにも共感しきり。また別の形につながっていくところを見たいです、などと話した。

京島まで自転車で戻ると、銭湯山車の巡業真っ最中。ついに動いてるところが見れた。チンドン屋さんが先導し、山車の周りには、法被やのぼり、そしてお風呂らしくシャボン玉が浮かびもある。賑やかに、そしてゆっくりと隊列が伸びたりしながら街をゆく。

長屋からもマンションからも、音に惹かれた住民が顔を出し、手を振るなどしていた。挨拶カードなども渡しつつ、地域に顔合わせをしている姿には、参考にすべきところがたくさんありそうだ。

銭湯山車の終着点に先回りすると、リッツパーティーが開催されようとしていた。昨日はなかったはずの三角形の机の上に、上等な懐紙と100を超えるリッツがひしめく。村長の「こんにちは、沢口靖子です」の一言とともに、人生初のリッツパーティーが始まった。

これは何?と道行く人に聞かれても、リッツパーティーとしか答えようがないのだが、リレーのように人が来て、夜まで続いていた。科捜研の女、リッツのCMなど共通言語も定かでない中、秋の風にリッツやチーズが晒されていた。

その後、八島花文化財団の報告会イベントに行く。土地にゆかりある音楽家同士の即興セッションは、100年という歴史や八島花の響きを写し取ったもの。その演奏やここに居合わせた人たち自体に、何か特別な価値があると思えるひとときだった。

鑑賞者として半日も超えない時間を過ごしただけなのに、なんたる情報量だろう。展示もリッツも演奏も、数々のアドリブによって積み上がってきたものだ。街の各所で夜も続く会合を尻目にするのは非常に名残惜しいのだが、日誌をつけて平日に備えることとする。

このnoteは「すみだ向島EXPO2023」内の企画、日誌「京島の10月」として、淺野義弘(京島共同凸工所)によって書かれているものです。

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